( 211736 )  2024/09/14 16:48:19  
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国際的に普通の制度となっている選択的夫婦別姓制度が日本にはないことに議員連盟が早期実現を求めている。

経団連も提言書をまとめており、自民党総裁選でも議論の一つになっている。

女性がアイデンティティー喪失やキャリアの分断を感じさせられる制度であることから、導入が求められているが、保守派による反対が根強く、議論が進まなかった経緯もある。

(要約)

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「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」に提言書を手渡す経団連の魚谷雅彦ダイバーシティ推進委員長(資生堂会長、中央左)=6月21日、国会内 

 

 「夫婦の同氏制を採用している国は、わが国以外に承知しておりません」。これは、2020年11月6日の参院予算委員会での、上川陽子法相(当時)の答弁だ。夫婦が互いに、それぞれの姓を結婚後も維持することを認める「選択的夫婦別姓制度」は、今や全ての国で当たり前に。婚姻時に夫婦同姓しか選択できない国は、答弁の通り日本のみとなってしまった。 

 

【図解】選択的夫婦別姓に対する主な候補者の発言や姿勢 

 

 選択的夫婦別姓制度を巡っては、法制審議会(法相の諮問機関)が1996年に制度の導入を盛り込んだ民法の改正案を答申しているが、それから実に28年もの間、たなざらしとなってきた。国際的に取り残されている事態に危機感を募らせた経済界からは、導入を求める声が相次いでいる。(時事通信経済部編集委員 五十嵐誠) 

 

◆相次ぐ提言、自民総裁選でも争点化 

 

 3月には、経済同友会や新経済連盟が、選択的夫婦別姓制度への賛同や早期導入を求める要望書を公表。さらに、保守的な立場とみられていた経団連も6月、制度の一刻も早い実現を求める提言をまとめた。こうした動きを受け、自民党は7月、約3年ぶりに党内での議論を再開。12日に告示、27日に投開票される自民党総裁選でも重要な争点の一つに浮上している。 

 

 真っ先に立候補を表明した小林鷹之前経済安全保障担当相は、「不便に感じている方がいることは認識している」と制度に理解を示すものの、「旧姓併記がマイナンバーカードや住民票などで認められている」と導入には否定的だ。他の候補の中では、同じく保守系を基盤とする高市早苗経済安全保障担当相も導入に慎重で、旧姓の通称使用拡大を進めるべきだとの立場を一貫して取っている。 

 

 一方、小林氏に続き立候補を表明した石破茂元幹事長は「選択的に姓を選べるべきだ」と述べており、導入に前向き。河野太郎デジタル相も「認めた方がいい」との立場だ。 

 

 最も積極的なのが小泉進次郎元環境相で、「認める法案を国会に提出し、党議拘束をかけずに採決に挑む」と表明。9日には十倉雅和経団連会長と会談し、「別姓を選択したい人に新たな選択肢を用意する社会を作る」と決意を語った。十倉氏は同日の記者会見で「一つの議論の軸になっている。万機公論に決すべしだ」と論戦を歓迎した。 

 

◆改姓の95%は女性、アイデンティティー喪失も 

 

 民法で夫婦同姓が規定されている日本では、結婚に際し姓を変える人の割合は女性が圧倒的に高い。内閣府によると、2022年時点で全体の95%を女性が占める。こうした状況の中、女性の社会進出に伴って広がってきたのが旧姓の通称利用だ。総裁候補の中では高市氏も通称利用の拡大を持論としている。しかし経済界では、通称利用は既に限界を迎えているとの声が主流だ。 

 

 経団連が会員企業の女性役員を対象に実施した調査では、役職員の旧姓利用を認めている企業の割合は96%に上ったものの、通称利用が可能でも、不便や不都合、不利益が生じていると回答した人は88%を占めた。特に問題が多いのが海外渡航時で、パスポートなどの登録名と予約に使った通称が一致せず、ホテルのチェックイン時や公的施設の入館時にトラブルになったとの回答が多く寄せられている。 

 

 もっと深刻なのは、長らくキャリアの一部となってきた自らの姓を変えざるを得なくなることによるキャリアの分断や、アイデンティティーの喪失だ。論文執筆や特許取得時には戸籍上の氏名が必須なため、結婚前の旧姓が使えなくなり、キャリアの分断や不利益が生じたとの回答が多数寄せられている。 

 

 経団連のダイバーシティ推進委員長として、魚谷雅彦資生堂会長らとともに提言をまとめた次原悦子サニーサイドアップグループ社長は、「晩婚化が進む中、長年持っている自分の名前を捨てなければいけない『アイデンティティーの喪失』を感じる女性は多い」と指摘。選択的夫婦別姓の導入は「一部の働く女性たちのわがままや、特別な女性たちの言い分ではない」と訴えている。 

 

 

【図解】女性の通称使用を巡るトラブル 

 

◆「世界で日本のみ」、国連は再三勧告 

 

 これだけ選択的夫婦別姓制度の導入を求める声が増えてもなお、実現してこなかった理由は、「伝統的な家族観」を重視する保守派に反対が根強く、自民党内での議論が進まなかった経緯があるからだ。総裁選の候補者だけをみれば導入賛成や前向きな意見が目立つが、総裁選後に導入に向けた議論が進むかは不透明だ。 

 

 こうした日本の遅れを、世界は厳しい目で見ている。国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、人権侵害やジェンダー平等といった観点から、日本に対し、夫婦同姓の強制を廃止するよう、03年、09年、16年の3度にわたって是正勧告している。今秋には、6年ぶりに日本への定期報告審議が行われる予定だ。このまま手をこまねいていれば、4度目の是正勧告という事態も想定される。 

 

 法制審の答申の後も、最高裁が15年と21年の大法廷で、現状を「違憲とはいえない」とした上で、「国会で論ぜられ、判断されるべきだ」と求めている。経団連は提言で、法制審の答申を「現在でも極めて妥当な内容だ」と評価しているが、十倉氏は「答申を唯一のものとせず、もう少し広く、スピーディーに議論をしてもらいたい。国会で一刻も早く議論を」と呼び掛けている。 

 

 

 
 

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