( 212491 )  2024/09/17 01:30:02  
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広島市のイーテック24で働く79歳の寺島正文さんは、週5日、高圧電気の保守や点検を行い、休日は音楽鑑賞や友人との集いを楽しんでいる。

同社では70歳以上の従業員が21人おり、岡永社長は長く働いてもらえる環境を提供している。

一方、広島市南区の日本料理店「豆匠」では80歳の柳井律子さんが、前菜の盛り付けや各種調理作業を担当。

同店では70歳以上の従業員が5人おり、シニア層は若い従業員にお手本として振る舞うという。

広島を含む中国地方の企業の半数以上が70歳以上でも働ける制度を設けており、人手不足対策として高齢者を積極的に活用する傾向がある。

(要約)

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本社のデモ機器を使って点検の手順を確認する寺島さん。健康の秘訣はテレビ体操という 

 

 70歳を過ぎた人が働く職場が広がってきた。中国地方では、70歳以上でも働ける制度を設けている企業が半数近くに上る。少子高齢化と人手不足の時代に、シニアは貴重な人材だ。熟練の技術や豊富な経験を生かして活躍する姿を追った。 

 

【一覧】70歳を過ぎても働ける企業の割合 

 

 「働くのも、遊ぶのも忙しい」。電気保安業のイーテック24(広島市西区)の社員、寺島正文さん(79)=安佐北区=は週5日、フレックスタイムで働く。学校や官公庁で高圧電気の受変電設備を保守、点検するのが仕事。休日は、音楽鑑賞や友人との集いを楽しむ。 

 

 市内の工業高を卒業後、スーパーや計測機器メーカー、自治体に勤め、設備の開発や電気保安の業務を担った。長年の経験や若い頃に取った第三種電気主任技術者の資格を生かそうと、69歳で入社。雰囲気の良さと、自分の裁量で仕事ができる環境が気に入った。 

 

 同社の定年は70歳だが、本人の希望で雇用を延長する。従業員80人のうち70歳以上は21人。若年層が少なくなる中、岡永昭雄社長は「直行直帰が基本で、休みは自由に取れる。融通が利くので長く働いてもらえる」と話す。 

 

 「電気は水と一緒で、届いて当たり前。届かなくなると人はパニックになる」と寺島さん。2018年の西日本豪雨では、避難所のエアコンの電源確保や、浸水した電気設備の保守に走り回った。「感謝されるとうれしい。役に立っていると思うから続けられる」 

 

 今も得意先に仕事を頼まれると、遠方でも急いで駆けつける。岡永社長は「フットワークが軽く、若い人以上の仕事をこなす」と評価する。 

 

 来年3月で80歳。妻や娘たちからは「そろそろやめたら」と言われる。「働き詰めで今日までやってきた。ゆっくりしてみたい」と考えることもあるが、会社の信頼は厚い。引退はまだ先になりそうだ。 

 

前菜の盛り付けをする柳井さん。チャームポイントの赤い髪は、美容師の孫に染めてもらっている 

 

 開業25年を迎えた広島市南区の日本料理店「豆匠(とうしょう)」。調理補助のパート柳井律子さん(80)はオープン当初から働く。店の歴史を全て知る唯一のスタッフだ。「まさか、この年まで続けるとは思わなかった」と笑みを浮かべる。 

 

 家から近く、偶然選んだ職場。主に前菜の盛り付けを担い、野菜の下ごしらえや洗い物も引き受ける。「前菜は最初に提供する一皿。盛り付けでおいしさが決まると思うから、きれいにしておきたい」。箸使いに心を込める。 

 

 同僚は子や孫と同世代。2年前に体調を崩し、膝も痛む。「みんなと同じようにはできん」と思う。それでも、宗実光秀料理長(49)から「おってもらわんと困る」と言われると「まだやめちゃいけんね」と意欲が湧く。仲間の勤務シフトを管理し、料理長に伝える調整役でもある。 

 

 店を運営する東洋観光(中区)はパートやアルバイトの年齢制限がない。70歳以上は36人。シニア層は言葉の使い方や所作が丁寧で、若い従業員のお手本になるという。豆匠では従業員22人のうち5人が70歳以上だ。 

 

 柳井さんの楽しみは休日に出かけるランチ。お気に入りの店で、接客の良い店員と話すのが「癒やし」になる。食器の清潔さや料理の見栄えをチェックし、仕事に生かす。「煮炊きはできないけれど、自分にできることはする」。達者な姿も向上心も職場のお手本だ。 

 

 

 中国地方5県の労働局の調査によると、70歳以上でも働ける制度を設けている中国地方の企業は、昨年6月時点で46・4%(全国は41・6%)を占めた。前年同期に比べ2・5ポイントアップした。人手不足が深刻になる中、各社は希望者の雇用継続や定年制の廃止などに取り組んでいる。 

 

 各労働局が従業員21人以上の計1万3987社を調べた。県別は、広島42・2%、山口46・8%、岡山45・3%、島根55・3%、鳥取42・6%。いずれも全国平均の41・6%を上回った。島根は全国トップだった。 

 

 70歳以上まで働ける制度があるとした広島県の2322社に具体的な制度を尋ねると、「希望者全員を継続雇用」が最多の25・5%。「基準該当者を継続雇用」が21・2%、「定年制の廃止」が9・2%、「定年が70歳以上」が7・5%で続いた。「その他の制度」は36・6%だった。 

 

 国は2021年4月に高年齢者雇用安定法を改正し、定年延長や継続雇用、業務委託契約などで70歳まで就業機会を確保することを努力義務としている。広島労働局は「70歳以上になっても働きたい労働者もいる。企業が雇用制度を設けているのは有意義」と指摘。「若い世代を雇うのが難しくなる中、高齢者を引き続き雇いたいという事業者が多い」と分析する。 

 

中国新聞社 

 

 

 
 

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