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住宅ローンの変動金利は、短期プライムレートに連動すると一般的に説明されるが、実際には異なる要素が影響している。

ネット銀行は独自の基準で変動金利を決定しており、短期金利の動向が大きな影響を与えている。

メガバンクや地銀の短プラに連動する金利とは異なり、ネット銀行は変動金利の引き上げを独自に行っている。

今後変動金利が上昇する可能性があるため、固定金利型への借り換えなど考えられる選択肢もある。

(要約)

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PRImageFactory 

 

「住宅ローンの変動金利は短期プライムレートに連動する」と説明されることが多いが、現実は違っているようだ。ファイナンシャルプランナーの松岡賢治氏は「短プラの変更がなくても、変動金利が上がるケースが続出している。『金利のある世界』で変動金利がどう決まるかを理解しておいたほうがいい」という――。 

 

【図表】ネット銀行の住宅ローンの変動金利の基準 

 

■9月からメガバンク、地銀が続々と「短プラ」を引き上げ 

 

 日銀が金融政策の引き締めモードへと突入してから、住宅ローン金利の上昇が鮮明となっている。特に、足元では、住宅ローンを借りている人の約8割が利用しているという変動金利型の金利上昇が顕著だ。 

 

 7月末の金融政策決定会合で、日銀は政策金利を0.15%引き上げて0.25%とした。それを受け、まず三菱UFJ銀行が短期プライムレート(以下「短プラ」)を、9月から政策金利の引き上げ幅と同じく0.15%上げて1.625%にすると発表。ほどなく、三井住友、みずほのメガバンク2行も同様に短プラの引き上げを決め、それ以降、地方銀行が続々と追随することとなった。 

 

 こうした状況を受けて、「短プラに連動する住宅ローンの変動金利はどこまで上がる?」といった記事が、現在でも多く散見される。しかし、この手の説明は、ここ数年で変動金利型ローンを借りた人にとっては、あまり参考にならないケースが多いのではないか。 

 

 その理由は、ほとんどのネット銀行は、住宅ローンを短プラ連動型ではなく、独自に決めているからだ。背景には、これまでネット銀行の変動金利は圧倒的に低く、他の銀行は選択肢にすら入らない、という状況が続いてきたことがある。 

 

■ネット銀行は短期金利の動向が大きな影響を与える 

 

 大手ネット銀行は、どのように変動金利を決めているのか。各行ごとに、基準とされているものを、ホームページや決算資料でチェックしてみた。 

 

 大手ネット銀行5社に限っていえば、変動金利を短期プライムレートに連動させているのは住信SBIネット銀行しかない。なお、「TIBOR(タイボー)」とは、東京銀行間取引金利のことで、銀行同士で取引される期間1年以内の金利(実際は気配値)を指す。「無担保コールレート」とともに、代表的な短期金利の指標として機能している。 

 

 また、PayPay銀行やauじぶん銀行は「市場の金利情勢」となっているが、ここでいう「金利情勢」とは短期金利である。つまり、PayPay銀行、ソニー銀行、楽天銀行、auじぶん銀行は、実質的に短期金利の動向に大きな影響を受ける、といえる。 

 

 

■メガバンクや地銀の「短プラ」とは何が違う? 

 

 それなら、「短期プライムレートも同じでは?」と疑問を覚える人もいるだろう。その指摘は正しい。基本的に、短プラのレートは、「金融機関が資金調達コストや市場の金利動向をもとに決定する」とされているからだ。 

 

 短プラは、期間1年未満の最優遇貸出金利のことなので、短期金利の影響をモロに受ける。つまり、その点で、前掲のネット銀行には「大した違いはない」という結論になる。 

 

 では、冒頭で紹介した、メガバンクや地銀の短プラも違いはないのかというと、様相は異なる。「実質的に違う」と言えるのだ(話は細かくなるが、重要なことなのでお付き合い願いたい)。 

 

 メガバンクや地銀の短プラは、8月以降の引き上げをみればわかるように、「メガバンクが政策金利の上昇幅と同じ幅を引き上げた後に、地方銀行が追随する」という構図になっている。 

 

 あたかも、政策金利に準ずる制度に基づいた金利のような印象を与えているが、そうではない。昭和の時代から、短プラが変更される度に何度となく繰り返されてきた光景で、銀行の“横並び意識”の産物である。 

 

 1989年以前の短プラは、政策金利だった公定歩合に連動していたので、メガバンクをリーダーとして、どの銀行も同じように変更していた。1989年以降は、市場金利を基に金融機関が決めるとされたものの(当時は「新短プラ」と呼ばれていた)、政策金利に連動する点は変わらなかった。 

 

 そして、金利のある令和になった現在でも、短プラを巡る銀行業界の横並び状態にまったく変化がないことが、今回の引き上げで改めて判明したのだ。 

 

■ネット銀行の引き上げタイミングをチェックすると 

 

 こうした「横並び短プラ」は、これからも、日銀が政策金利を変えるタイミングで変更されるだろう。また、金利正常化の過程では、政策金利が0.25%引き上げられれば短プラも0.25%の引き上げと、“幅”も同じになると予想される。 

 

 適用される変動金利は、各行で多少の違いはあろうが、引き上げ幅がそのまま反映されるところがほとんどではないか。 

 

 一方、ネット銀行の変動金利は個別判断によるので、これまでと同様、必ずしも政策金利の変更後、というタイミングではないと心得ておくべきだ。日銀のマイナス金利解除後のネット銀各行の変更は次のようになっている。各行が“独自判断”をしているのが分かる。 

 

 *基準金利とは、その名のとおり住宅ローンの基準となる金利。0.1%引き上げられると変動金利も0.1%上がることになる。 

 

 

■利上げの思惑が強まるだけで変動金利が上昇する可能性も 

 

 これまで述べてきたように、ネット銀行の変動金利は短期金利全般の影響を受ける。つまり、日銀が政策金利を変更しなくとも、短期金融市場で追加利上げの思惑が強まり、短期金利が上昇すると、ネット銀行の変動金利は引き上げられる可能性が高い。短期金融市場は、そうした思惑に対して敏感に反応するマーケットだからだ。 

 

 実際に、そうした動きを見せているのが楽天銀行である。日銀がマイナス金利を解除した今年3月末以降、短期金利の上昇を受けて、毎月、基準金利を引き上げている(4月+0.024%、5月+0.08%、6月+0.02%、7月0.01%、8月+0.04%、9月+0.111%)。 

 

 楽天銀行は、個人向け住宅ローンに関して、他の大手ネット銀行とは異なる戦略をとり、ローンの低金利競争から距離をおいている。信用リスクの低い顧客からきちんと収益を上げるという方針で、調達する短期金利が上がれば、その分、迅速に貸し出す金利も上げるというスタンスだ。 

 

 この楽天銀行の動きは要注目で、他のネット銀行の調達金利のコストも同程度上昇していると推測される。今後、さらに短期金利が上昇するようであれば、唐突ともいえるタイミングで引き上げに動くところが出てきてもおかしくはない。 

 

■変動金利型住宅ローンはこれからどこまで上がるか 

 

 では、肝心の変動金利はどこまで上昇するのだろうか。まず、日銀の政策金利について。エコノミストやシンクタンクの見通しでは、早ければ12月、遅くとも25年3月までには、政策金利を0.25%から0.5%に引き上げる、といった見方が増えている。短期金融市場も、25年3月までの0.25%利上げを、ほぼ織り込んだ金利を形成している。 

 

 そして、そこから半年ごとに0.25%ずつ引き上げて、26年の3月末頃には1%にする。それ以降は、しばらく1%をキープしつつ、日銀は景気や物価の動向を見ながら金利の水準を検討する――というのが大まかなシナリオだ。 

 

 これを前提とすると、ここから政策金利が0.75%上がるならば、ネット銀行の変動金利は1.0%程度上がる可能性が出てくる。現在、変動金利を0.4%で借りている人は1.4%程度になる計算だ。 

 

 

■固定金利型への借り換えが有効なケースとは 

 

 ローン金利1.4%に家計が耐えられるなら、今後の変動金利の上昇については、それほど心配する必要はない。ただ、予想外のインフレや円安などにより、さらに金利が上昇する可能性は残る。 

 

 もし、住宅ローン減税の控除も終了していて、返済期間が短くなっていれば、固定金利への借り換えも視野に入ってこよう。例えば、20年以下の固定金利型ローン「フラット20」の9月分の最低金利は1.43%。ネット銀行でも期間10年の固定型で1.2%台のローンがある。 

 

 変動金利から借り換えをした場合、変動金利がそれほど上がらなかったら損をしてしまうことになる。だが、これまで変動金利の恩恵を十分に受けていた人であれば、それほど気にはならないだろう。固定金利への借り換えは、ライフプランも立てやすくなり、今後の金利上昇によるストレスからも解放される。 

 

■変動金利型を借りている人はNISAに手を出してはいけない 

 

 変動金利を借りたばかりで、借り換えも難しいという人はどうすべきか。対策はシンプルだ。将来の繰上げ返済のために、今から余裕資金を貯めることを強くお勧めする。「貯蓄から投資へ」というNISAブームの中、貯蓄というとガッカリする人も多いかもしれない。 

 

 しかし、ほとんどの人は、住宅ローンを組んだ時点で、個人のリスク許容度は最大限に近い(それが変動金利ならなおさら)。投資で新たなリスクをとる余裕はないだろう(くれぐれもNISAはやらないように)。 

 

 貯蓄と言っても工夫の余地はある。1つ目は個人向け国債。預貯金と同じく「元本割れ」のリスクは無く、10年満期の「変動10年」なら、長期金利が上昇すれば適用利率のアップが期待できる。確実に預貯金より有利になるはずだ。 

 

■iDeCoで定期預金を利用する方法も 

 

 2つ目は、やや変則的だが「iDeCo」(個人型確定拠出年金)という手がある。ただし、運用する先は、投資信託などではなく定期預金。iDeCoには運用益が非課税になることの他に、掛け金が全額所得控除の対象になるという大きなメリットがある。たとえば、年収が700万円の人の場合、毎月2万円の掛け金で年間約7万円の税金が軽減される。 

 

 iDeCoは、口座管理手数料(最安は月171円)がかかるので、定期預金の場合、手数料を差し引くと、当初の運用収支は赤字になってしまう。しかし、所得控除のメリットは、その赤字を補って余りあるほど大きい。「60歳まで原則引き出し不可」など、注意すべき点はあるが、還付金をきちんと貯めておけば繰上げ返済の原資として有意義に活用できる。 

 

 iDeCoで定期預金を選ぶような客は、金融機関は嬉しくないだろうが、往々にして、そういう商品の方が個人にとってはメリットがあるものなのだ。 

 

 

 

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松岡 賢治 

ファイナンシャルプランナー/マネーライター 

1963年生まれ。89年東京都立大学法学部卒業。証券会社のリサーチ部門等を経て96年独立、97年ファイナンシャルプランナー資格を取得。クレジットカードをはじめ資産運用・投資関連等の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』(SBクリエイティブ)、『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本』(ソーテック社)など。AllAboutガイド。 

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ファイナンシャルプランナー/マネーライター 松岡 賢治 

 

 

 
 

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