( 214213 ) 2024/09/22 01:42:00 0 00 米アップルのティム・クックCEOは9月20日、「iPhone16」の発売日に米NYのアップルストアを訪れた(写真:AP/アフロ)
米国のIT大手・アップルの新型スマートフォン「iPhone 16」が2024年9月20日、日本でも発売になりました。「16」の4機種にはいずれも独自の生成AI(人工知能)サービス「Apple Intelligence(アップル・インテリジェンス)」を搭載するなど、大きな話題を呼んでいますが、最近は高額になりすぎたことや目ぼしい新機能がないことなどから、iPhone人気にも陰りが出ていると言われています。「iPhone離れ」は本当でしょうか。「AIスマホ」競争にiPhoneは勝てるのでしょうか。現状をやさしく解説します。
【グラフ】AIスマートフォン市場規模の推移・予測
(フロントラインプレス)
■ 発売日にアップルストアに列
iPhone 16シリーズが発売された9月20日、都内のアップルストアなどには早朝から新機種を求める人が列をつくり、表参道店など一部の店舗では開店時間を大幅に繰り上げるなどして対応しました。
今回新しく発売されたのは、「iPhone 16」と「16 Plus」、「16 Pro」、「16 Pro Max」の4種類。いずれも「Apple Intelligenceを前提にした新しい世代のiPhone」をうたっています。
ただし、この生成AIは当面、英語にしか対応しておらず、日本語に対応できるようになるのは2025年になってからです。一方、「16」シリーズはカメラの機能が向上したとしてユーザーの注目を集めています。
気になる販売価格はどうなっているでしょうか。
シリーズ最安値のモデル「iPhone 16」(容量=128GB)の国内販売価格は12万4800円(アップルストア直販)で、ひと世代前の「15」と同じ価格です。iPhoneに関しては最近、「ブランド力はあるが、高過ぎる」といった声が広がっていることなどから、ユーザーの買い控え対策として、米国などと共に価格据え置きの戦略を取ったようです。
これに合わせて、国内の携帯大手4社は、それぞれ独自の販売条件を設定しました。ソフトバンクはオンラインで購入し、かつ、1年後に下取りに出すことなどを条件に、実質税込みで1万9836円という価格を設定。NTTドコモも1年で下取りに出すなどした場合、負担額は実質3万5640円となるプランをつくっています。
調査会社MM総研によると、128GB「16」が販売された主要39カ国・地域の直販価格(円換算)では、日本の12万4800円が3番目の安さでした。日本より安いのは中国の11万9800円、次いでタイの12万4500円。世界平均は14万7000円となりました。
そうした世界最安値クラスの日本で、いま、iPhone離れが起きていると言われているのです。本当でしょうか。
■ 価格が「高過ぎる」…「iPhone離れ」と言われる根拠
日本のiPhone離れがニュースとなったのは、最近では2023年9月から10月にかけてのことでした。香港の調査会社カウンター・ポイント・リサーチの調査結果として、同年4~6月期に日本国内で販売されたスマートフォン販売に占めるiPhoneの割合が前年同期比で12ポイントも減少し、46%となったと報じられたのです。iPhoneの販売シェアが日本で50%を下回るのは過去2年で初めてでした。
苦戦の原因はiPhoneの高額化です。
円安の影響などにより、iPhoneはここ数年、価格上昇が続いています。例えば、最下位機種を比較していくと、2020年10月発売の「12」は8万5800円、2021年9月の「13」は8万9818円でしたが、2022年9月の「14」からは10万円を突破し、11万9800円に。そして「15」からは12万4800円となったのです。上位機種で容量の大きい機種には20万円台のものもあります。
さらに米アップルは2022年7月、急激に進んでいた円安を理由としてiPhoneを含むアップル社製品を一斉に値上げしました。発売時に10万円を切っていた「12」と「13」の最下位機種は1万6000円~1万9000円も値上がりし、双方とも10万円を突破。「SE」や「mini」を除いてiPhoneはすべて10万円以上する商品になってしまったのです。
日本はこの間、なかなか増えない賃金と物価高に悩まされてきました。いくらブランド力があるとはいえ、各家計に10万円を超すiPhoneを頻繁に買い替える余力があるかどうかは疑わしいかもしれません。実際、「16」シリーズをめぐっても、ネット上には「斬新な技術が載ったわけでもないのに高過ぎる」「ブランド品のバッグなどと同じような位置づけになってきた」といった声が溢れています。
こうしたiPhoneの状況に対し、日本市場で勢いを増しているのが、米グーグルのスマートフォン「Pixel(ピクセル)」です。MM総研の調査によると、iPhoneの販売が50%を割り込んだ2023年4~6月、Pixelの販売シェアは過去最高の12%を記録しました。前年同期の実に6倍です。その時期の主力だったPixel7(128GB)は8万2500円。性能に大差はないと言われるなか、iPhone勢より2万5000円以上も安かったのです。
■ 2024年8月、世界シェア3位に転落
アップルは世界のスマートフォン市場で、華為技術(ファーウェイ)などの中国勢、サムスン電子などの韓国勢と激しい競争を続けています。
米国の調査会社IDCによると、2023年には世界で11億6690万台のスマートフォンが出荷されました。世界的なインフレで前年比2.2%減となるなか、アップルは同3.7%増の2億3460万台を出荷。市場占有率も2割を超えました。2位のサムスン電子は2億2660万台を出荷したものの、前年比は13.6%減。13年ぶりに首位の座から陥落したのです。
ただ、iPhoneが厳しい環境に置かれていることに変わりはありません。
2023年は年間を通じて首位だったものの、2024年1~3月期の出荷台数は前年同期比10%の大幅な減少を記録したのです。4~6月期はプラスに転じたものの、伸び率は2%とわずか。直近の2024年8月には世界のスマートフォン販売で3位に転落し、サムスン電子、中国の小米(シャオミ)に抜かれてしまいました。
低迷の大きな理由とされているのが、新しい機能の搭載が遅いことです。iPhone 16シリーズには生成AIのApple Intelligenceが搭載されていますが、AIを利用した機能ではAndroid端末の方が先行しています。米グーグルのOSであるAndroidを使うスマートフォンでは多くのメーカーが新機能を競って搭載しますが、アップルは自社のみで開発を続けているため、コスト負担が大きく、競争による技術開発も生じにくいとされているのです。
スマートフォン市場では今後、製品の主流はAI機能を搭載した「AIスマホ」になると言われています。調査会社の予測はさまざまで、例えば、カウンターポイントは「生成AIスマホの世界市場シェアは2024年の8%程度だが、2027年までには40%に拡大し、出荷台数は5億台を突破するだろう」と指摘。一方、MM総研は(1)2024年度のAIスマホ出荷台数は1149万台で、スマートフォン市場全体の44.2%を占める、(2)2025年度は1913万台(AIスマホ比率71.5%)、2028年度には2317万台(同88%)へ拡大するなどとする予測を公表しています。
技術開発競争はAI分野に限った話ではありません。中国の華為技術は2024年9月初旬、三つ折の折りたたみ式スマートフォンの予約販売を始めました。受付開始から7時間で約130万件の予約が入ったとされ、折りたたみスタイルが市場で大きく伸びるのではないかと言われています。
こうした多面的な技術開発競争に1社ですべてをこなすアップルは対応できるのでしょうか。その行方に関心を寄せているのは、根っからのiPhoneユーザーだけではありません。
フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
フロントラインプレス
|
![]() |