( 214268 ) 2024/09/22 14:52:33 0 00 運動会に参観した家族を案内するのもPTAだ。PTAを退会したら、「子どもに不利益がありますよ」と脅されて……(写真はイメージ/gettyimages)
PTA活動にはさまざまな課題があり、過渡期にある。一部のPTA役員たちの熱意や義務感が暴走して、退会しようとする保護者や非加入会員に対し、「子どもへの差別」をちらつかせるケースもある。
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■職場に「役員決め」の電話
鹿児島市に住む岩元美紀さんは、数年前の5月、子どもを通わせている幼稚園のPTAに退会を申し出た。園では初めての退会者だった。
きっかけは、「バザーの役員決め」の電話が、携帯電話ではなく、仕事中の職場にかかってきたこと。この幼稚園では各家庭から持ち寄った物品を販売したり、ゲームなどの出し物をしたりする「PTAバザー」を毎年開催していた。PTA会費は半年ごとに3000円を支払っていた。それまでほかの保護者と同様にPTA活動に参加してきたが、「あまりに非常識」と感じた。
だが、12月上旬になって、「退会をとりやめてほしい。会費の納入をお願いしたい」という趣旨の手紙を、園長から手渡された。
10日後には、園長やPTAを仕切る保護者たちが、職場の昼休みに押し掛けてきた。保護者たちはこう言った。
「退会するんですってね。退会したら、お子さんに不利益がありますよ」
■進級祝い「ぼくのはある?」
園長まで、「幼稚園の行事で4月にPTAから贈られる進級祝いや月ごとの誕生日会のプレゼント、運動会でのメダルも渡せない」と言う。
残念ながら、それは脅し文句ではなかった。
幼稚園児たちは4月の進級祝いでは絵の具セットを手渡される。でも、「うちの子は何もなかった」。
その日、岩元さんが息子を園に迎えに行くと、「ぼくのはある?」と、心配そうに尋ねられた。
最初は何のことかわからなかったが、棚に整然と並べられたほかの子どもたちのかばんを見て、理解した。かばんには進級祝いの大きな絵の具セットが入っていた。
「ぼくのは『おうちにあるよ』って、先生が言ってた」
■退園し、自宅で保育
岩元さんはやるせなさに震えた。
「こんな小さな子どもに、大人たちがいじめみたいなことをするんだ、と思いました」(岩元さん)
岩元さんが市の保育幼稚園課に相談、仲裁を頼んだところ、またしても園長やPTAの役員ら6人が職場に現れた。役員らは、「あなたのせいですごく傷ついている」と岩元さんを責め立てた。
「親子でこれ以上、嫌な思いをするのは耐えがたかった」(同)
岩元さんはその日のうちに退園を決心。小学校入学までの半年間は自宅で保育した。
■学校は「差別」を抑止すべき
PTA問題に詳しい大塚玲子さんによると、非加入会員の子どもへの差別は(1)物品を渡さない、(2)登校班などの活動に参加させない、という2つのパターンがあるという。もちろん、「どちらの差別にも強く反対します」と訴える。
「全国の複数の教育委員会は『非加入会員の児童に対する差別禁止』の通達を学校長に出しています。学校はPTAがそうした差別を行うのを止めるべきですし、抑止力になるべきです」(大塚さん)
だが、それでも暴走した正義感は歪みを生む。千葉県在住のヨウコさん(仮名、40代)は数年前、小学校PTAで本部役員になった2年目に、信じられない現場を何度も目の当たりにした。
ヨウコさんがPTAの本部役員になった理由は、「子どもたちのために何かできればいいなと思った」からだ。2年の任期のうち、1年目は平穏に過ぎた。だが、翌年、AさんがPTA本部の実権を握ると、雰囲気が一変した。
「押しの強い人で、仕切り屋。意に沿わない意見が出ると、形相を変えてバサッと切るんです」(ヨウコさん)
■「仕事はできないなんて許されない」
PTAの今後について話し合っているときのことだ。同じマンションに、障害がある兄弟を育てている保護者や、親の介護をしている保護者もいたことから、ヨウコさんはこう提案した。
「PTAの仕事をやりたくても無理がある人たちもいるから、会費だけ払ってもらい、仕事を免除したり、減らしたりしたらどうか」
Aさんは「無理」と一蹴、「会費は払うけど仕事はできないなんて許されない。PTAに入らない親の子どもは『差別しなくちゃダメだ』と言ったんです」(同)。
■そんなPTAはいらない
Aさんの「差別」は続いた。災害に備えて水や缶パンなどの防災備蓄品をPTA予算で購入することを検討したときはこう言った。
「PTAに入っている家庭の子どもには配るけれど、PTAに入っていない子どもにはあげない」
市のスポーツ大会に出場する6年生のユニホームをPTA予算で買い替える話が出たときは、こう言った。
「この子の親はPTAに入っていないから、新しいユニホームは着せられない」
ヨウコさんは言う。
「こんなPTAは子どもたちのための組織ではない、ですよね」
結局、ヨウコさんは精神的に参ってしまい、本部役員を退任した。ヨウコさんはせつせつと語る。
「PTAは子どもを差別してはいけない。そんなPTAはいらないと思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
米倉昭仁
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