( 214531 )  2024/09/23 01:27:40  
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自民党総裁選では9名の候補が立候補しており、金融市場からの評価はまだ定まっていない。

候補者の経済政策を金融政策・財政政策・通貨政策の3軸で分析しており、それぞれの候補者が異なる政策を掲げていることが分かる。

特に財政政策に関しては、石破氏と河野氏が引き締め的なスタンスを取っており、他の候補は拡張路線を支持している。

金融政策に関しては、高市氏がアベノミクスの継承者として緩和路線を支持しており、他の候補はあまり情報を発信していない。

全候補にとって、物価高対策が重要であり、今後の日銀の動向にも注目が集まっているが、具体性のない政策が目立っている。

それぞれの候補者が金利のある世界への対応には課題があるとされている。

(要約)

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自民党総裁選の立候補している面々。コバホークが頭一つ抜けている(身長の話)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 自民党総裁選の投開票が迫っているが、各候補に対する金融市場の評価は定まっていない。それぞれの候補の発言を元に、金融政策・財政政策・通貨政策の3つの軸で、各候補のポリシーミックスを分析する。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト) 

 

【著者作成表】総裁選に立候補している9名の経済政策のスタンス。各候補ごとに、金融政策、財政政策、通貨政策の3つのポリシーミックスをまとめている。この表を見ると、かなり異質な政策を掲げている候補がいることがわかる。 

 

 >>表で一目瞭然、総裁選各候補の財政・金融・通貨政策 

 

■ 総裁選、市場の争点定まらず 

 

 9月27日に投開票が迫った自民党総裁選について、相場との関連で問い合わせが増えている。経済政策について相場を動かすほどの争点が浮上しているわけではないが、現時点の情報に基づいて簡単な論点整理はしておきたいと思う。 

 

 票読みは筆者の専門外だが、今回は過去最多となる9名が立候補していることから、1回目の投票で過半数を得る候補が現れず、上位2名に対して国会議員票(367票)と地方票(47票)を用いた決選投票が行われると目されている。 

 

 麻生派以外の派閥が解消に向かったことも相まって国会議員票は分散が予想され、決選投票に勝ち残るためにはまず一般党員票をいかに集められるかが鍵と言われている。この一般党員票にまつわる世論調査がメディアによって相当乖離があり、市場予想が定まらないのが現状である。 

 

 かかる状況下、優勢と報じられる候補として石破茂元自民党幹事長、高市早苗経済安保担当相、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル改革担当相などの名前が挙がっている。一方、茂木敏充自民党幹事長、林芳正官房長官などについては党員票で劣後するとの評が目立つ(ゆえにこの2名に関しては注目度がやや低い印象がある)。 

 

 いずれにせよ、現時点で必勝を約束された候補が見当たらないことから、総裁選自体は重要な材料であるものの、金融市場でどのように消化すべきかという焦点は定まっておらず、また、有力候補の政策にも具体性がないことから「リアクションに困る」というのが現状と見受けられる。 

 

 強いて言えば、現時点で入手可能な情報を元にした場合、有力候補として石破氏、高市氏、小泉氏、河野氏の名前が上がり、今回は厳しいが将来のホープとしての小林鷹之元経済安全保障担当相が取り上げられることが多い印象がある。 

 

 以下では、この5名に絞って考察を与える。これら5名は新政権下でも要職に就く可能性が高いとすれば、注目しておく価値はある。 

 

 

■ 財政政策に関しては石破・河野とそれ以外 

 

 金融市場が興味を持つのは各候補の経済政策スタンス、より具体的には財政・金融・通貨政策の方向性に尽きる。金融政策と通貨政策は理論的に一致すべきなので、別個に考える必要はない。 

 

 まず、財政政策に関して言えば、現状、石破氏と河野氏以外は引き締め的な色合いを封印しているように見受けられる。特に、石破氏は金融所得課税の必要性を訴えた印象が金融市場に色濃く残っているので、当選の暁には株式市場の荒れ模様が懸念される。河野氏も、折に触れて財政規律の必要性に言及してきた経緯がある。 

 

 これに対し、小林氏などは「経済が財政に優先する。 経済を冷え込ませるような財政運営はあってはならない」とかなりはっきり述べている。高市氏も「何よりも経済成長は必須」「戦略的な財政出動」など財政については拡張路線を支持している。財政政策に関しては、現状、石破氏/河野氏とそれ以外という区分けで筆者は見ている。 

 

 一方、市場が注目する金融政策へのスタンスに関しては、高市氏がアベノミクスの継承者としてのイメージを前面に押し出し、「金融緩和は我慢して続けるべき、低金利を続けるべき」と旗幟鮮明である。 

 

 裏を返せば、それ以外の候補はこれといった情報発信をしていない。強いて言えば、河野氏(や茂木氏)は7月利上げ直前に、利上げを求めるような発言が話題になったものの、今回の選挙戦においてこれを強弁しているわけではない。小林氏もこれといった言動が見られない。 

 

 恐らく高市氏以外の候補において、金融政策については「喋りたくない」が本音なのだと察する。 

 

 全候補にとって、物価高対策が国民の支持を取り付ける上での最優先事項には違いない。ならば、ようやく正常化に着手した日銀を今一度緩和路線に引き戻し、円安を助長させるような言動は本来的にリスクでしかない。その意味で高市氏の立ち位置は特殊なのだが、だからこそエッジが立ち、特定層からの支持を惹きつけているとの見方もできる。 

 

 その他候補の「喋りたくない」という本音をよりかみ砕けば、「既に日銀が憎まれ役として利上げに着手しているのだから、わざわざ火中の栗を拾いに行くべきではない」という思いが強いはずだ。 

 

 自身の発言が8月初頭のような大波乱を起こしてしまえば、当分の間、汚名を着せられることになる。黙っていても日銀が処理してくれるのだから、わざわざ金融政策について言及するのはローリスク・ハイリターンである。金融政策に関しては、高市氏とそれ以外という区分けで良いのだろう。 

 

 

■ 表で一目瞭然、各候補の財政・金融・通貨政策の組み合わせ 

 

 財政・金融・通貨政策の組み合わせを整理したものが下の表になるが、高市氏が(1)であることを除けば、それ以外の候補の立ち位置は判然としない。とはいえ、この期に及んで日銀の追加緩和を支持する候補は多くないと仮定すれば、石破氏/河野氏が(8)で、それ以外の候補が(6)といった振り分けになるだろうか。 

 

 もっとも、推測に推測が重なっており、これでは市場期待に基づいた方向感を伴う資産価格の形成は難しいように思うし、実際、あまり注目されているとは言えない。 

 

 なお、参考までに今後の欧米におけるポリシーミックスを考えた場合、インフレ再燃に配慮しつつ財政政策は控えめ、金融政策は緩和という組み合わせで景気の軟着陸を図ろうとしているように見受けられる。高市氏が総裁にならない限り、内外金融政策格差は為替市場のテーマであり続けよう。 

 

■ 誰がなっても課題となる「金利のある世界」への対応 

 

 いずれにせよ、現時点では必勝が約束された候補はおらず、また各候補の財政・金融政策への思想もよく分からないので、実のある議論を展開しづらい。 

 

 ただ、今後の日本が人口減少を背景として名目賃金の上昇が持続性を伴うのだとすれば、デフレからインフレへ、という経済環境の変化は不可避である。 

 

 それは「金利のない世界」から「金利のある世界」への局面変化も意味する。誰が総裁(ひいては総理)になるとしても、四半世紀以上も変わらなかった財政・金融政策の大前提が変わる中、新政権の経済政策は執行されなければならない。 

 

 その大前提の変化は何を意味するのか。一般論に倣えば、「金利のある世界」での歳出は「金利のない世界」でのそれに比べて抑制的であることを求められ、いわゆるバラマキと揶揄される拡張財政路線は望む・望まないにかかわらずやりづらくなる。しかし、それが嫌だからと言って「金利のない世界」を志向すれば、今度は円安がぶり返す。 

 

 結局、新総裁は「円安か金利上昇の二者択一」を迫られる中、今までよりも制限された経済政策(財政・金融政策)の手札で戦うことが強いられる。何かにつけて低所得世帯に財政出動を頻発するような財政運営を重ねていれば、為政者の制御が働きにくい為替市場において野放図な通貨安のリスクが高まるだけだろう。 

 

 誰が当選しようと、選択できる経済政策の組み合わせが過去の政権よりも限定的になるのは間違いない。財政・金融政策の在り方よりも、夫婦別姓や解雇規制緩和などが争点化している選挙戦の現状が既にその先行きを暗示しているようにも思える。 

 

 ※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年9月18日時点の分析です 

 

 唐鎌大輔(からかま・だいすけ) 

みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。 

 

唐鎌 大輔 

 

 

 
 

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