( 214996 )  2024/09/24 16:20:54  
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タワーマンションの決定的な弱点は、築年数が経つと変わらずに直面する構造上の問題点です。

通常のマンションとは異なり、タワーマンションは上層階の荷重を下層階が支える構造を持っているため、その強度が求められます。

特に、外壁や戸境壁、そして床の構造に違いがあり、外壁の修繕過程でコーキング剤を使用する必要があるという問題もあります。

これにより、騒音問題や長期的な建物修繕に関連する課題が生じる可能性があります。

(要約)

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タワーマンションの「決定的」な弱点とは何だろうか(写真はイメージ、Photo/Shutterstock.com) 

 

 華やかさや成功の象徴として見なされてきたタワーマンション(以下、タワマン)。ここにきて、その負の側面に注目が集まり始めている。実はタワマンには、築年数が経つとどうしても直面してしまう、普通のマンションにはない「決定的」な構造上の弱点があるのだ。一体その弱点とは何だろうか。タワマン乱立時代の今、知っておくべき問題点を不動産ジャーナリストの榊淳司氏が解説する。 

 

【詳細な図や写真】タワマンには上層階の荷重を下層階が支える構造が求められる(写真はイメ―ジ、Photo/Shutterstock.com) 

 

 近頃、タワマンに関して、否定的な論調の記事を多く見かけるようになった。今日、タワマンが内包するにさまざまな問題が社会的にも注目され始めていると言えるのではないだろうか。 

 

 タワマンにおける問題点を理解するためには、まずタワマンの構造的な特徴を正確に把握することが必要だ。 

 

 タワマンは通常のマンションの階数が高くなった形態である、と認識している方も多いだろう。しかし実は、そこにはある誤解がある。 

 

 タワマンとは一般に20階以上の集合住宅を指す。19階までの鉄筋コンクリート造の集合住宅なら通常のマンションで、20階以上ならタワマンと分類されている。これは法令などの根拠があるわけではなく、慣例のようなものだ。 

 

 日本で「マンション」と呼ばれる集合住宅の建築上の構造は通常、鉄筋コンクリート造(以下、RC)である。タワマンも基本的にはRCである。ただし、15階程度の通常タイプのマンションとタワマンとは、同じRC構造と呼ぶにはふさわしくないほどの違いがある。 

 

 その相違点とは「外壁」と「戸境壁」、そして「床構造」だ。 

 

 タワマンは狭い敷地に多くの住戸を設けることができる。その代わりに天空に向かう超高層となる。建物が上に伸びれば、当然上層階の荷重が重くなる。それを下層階が構造的に支えなければならない。 

 

 

 2001年に米国で起きた「9.11」事件でニューヨークのワールドトレードセンターという超高層のツインビルが相次いで崩落した情景を覚えておられるだろうか。 

 

 9.11では、110階建てのビルの中層あたりに旅客機が突っ込んだ。その後、崩れた上層階の荷重に耐えられなくなって、ビル全体が崩落してしまった。瓦礫に押しつぶされて亡くなった方は合わせて約3000人という、悲惨なテロ事件である。 

 

 あの情景でも分かるとおり、超高層の建築物はそれ自体の荷重が尋常ではないのである。 

 

 さらに言えば、日本は世界一と言っていいほどの地震大国である。先月も、南海トラフ地震の想定震源域において巨大地震が発生する可能性が高まったとして「南海トラフ地震臨時情報」が発表され話題を呼んだが、いつ何時、震度7程度の地震に見舞われるかもしれないのが日本なのだ。 

 

 そのため、この国ではタワマンのような超高層建築にはかなりの「強度」が求められると言える。RCの場合、強度の基本は構造の丈夫さだ。一般的に鉄筋コンクリートを厚くすれば、強度は増す。 

 

 

 しかしその一方で、柱や壁を厚くすれば居住空間を圧迫する。 

 

 タワマンの内部をご存じの方は、柱型が大きなことに気付いたはずだ。建物の強度のために、それはある意味仕方のないことと言える。 

 

 しかし、壁まで厚いと住空間は息苦しくなってしまう。そこで登場したのが「軽い素材」である。 

 

 タワマンの場合、外壁には軽量気泡コンクリート素材である「ALCパネル」というものが使用されている。ALCパネルは耐久性が高く地震に強いほか、断熱性や耐火性にも優れている軽量の素材だ。そして、住戸と住戸の間には石膏ボードを用いる「乾式壁」と呼ばれるこちらも軽量の素材が採用されている。これらを使用することで建物全体の荷重を軽減しているのだ。 

 

 通常タイプのマンションの場合、外壁や戸境壁にもRC構造が採用されている。鉄筋を配した周りに型枠を組み、コンクリートを流し込んで固める。だから頑丈であり、隣戸の生活音などは聞こえにくい。 

 

 一方、ALCパネルや乾式壁は工場で大量生産された軽い素材であり、現場で嵌めこむ方式だ。施工方法としては、いわばプレハブ住宅にも近い作られ方をしている。 

 

 通常型のマンションの場合、柱型や外壁、床、そして戸境壁にはRC構造でアナログ的につながっている。 

 

 タワマンの場合、柱型と床はRCでつながっているが、外壁と戸境壁は現場で嵌め込む構造だ。 

 

 ちなみに多くの場合、床は荷重を軽減する「ボイドスラブ工法」と呼ばれる手法が採用されている。この手法を簡単に説明すれば、優れた剛性や強度を実現しつつ、鉄筋コンクリートの内側に空間を多く設けて荷重を低くするのである。 

 

 つまり、タワマンは、躯体構造を軽くすることで超高層な集合住宅の建築を可能にしたが、居住性能や耐久性を一部犠牲にした構造を採用せざるをえない構造物なのだ。 

 

 そのことにより生じ得る具体的な障害としてはまず、騒音問題が挙がる。戸境壁をRCではない軽い乾式壁にしたことで、通常型マンションではあり得ない隣戸との騒音問題が生じることがある。 

 

 たとえば、超一流の財閥系デベロッパーが都心で分譲したタワマンでも、隣戸のくしゃみや掃除機の音が聞こえてしまう、という事案を筆者は聞いている。コロナ禍によるリモートワークでは、隣人がYouTubeのヘビーユーザーであることが分かってしまった、もちろん、タワーマンションは高層なので暗騒音(生活音のようなもの)が少なく、物音が大きく聞こえてしまう面があるかもしれない。ただ、高層ゆえに風は強いので、少し空けた窓や通気口からの風切り音に悩む人もいる。 

 

 そしてもう1つの致命的な「欠陥」は、長期的な視点での建物修繕で生じやすい問題だ。 

 

 前述したように、タワマンの外壁に使用されているALCパネルは、軽量で耐久性、耐火性、遮音性にも優れているが課題もある。それはタワマンが通常のマンションに比べて継ぎ目が多すぎることによる。通常型なら継ぎ目はRC躯体とサッシュなどの間に限られる。しかし、タワマンはALCパネル同士の継ぎ目やサッシュとの間に生じる。 

 

 そこには必ずコーキング剤という防水と接着の機能を果たす液体が使われる。白くて粘り気のあるとした材料で、建築現場ではよく使用されるので、見かけたことのある方もいるだろう。 

 

 コーキング剤は便利な材料だ。隙間をきれいに埋めてくれる上に防水機能にも優れている。しかし寿命があり、15年程度で劣化して隙間ができる。すると、そこから雨水などが浸透する可能性が生じてしまう。 

 

 したがって、築15年程度でこのコーキング剤をほじりだして新しいものを注入し直す必要がある。 

 

 つまり、すべてのタワマンは築15年程度で外壁のALCパネルの継ぎ目に、コーキング剤を注入し直す修繕工事が必要なのだ。潮風にさらされる湾岸のタワマンは、この15年という目安がもう少し短くなるかもしれない。 

 

 

 タワマンの場合、この外壁の修繕工事に手間や時間がかかってしまいがちだ。 

 

 工事に際し、作業用の足場を組めるのはおよそ17階までだ。それ以上の階の外壁を修繕するには、屋上に設置したクレーンから、作業用の足場を吊るす方法になる。その費用は、足場を組む場合の倍以上だ。しかも、風の強い日には危険なので作業ができない。1層分の作業を行うのに2カ月の時間が必要と言われる。もちろん、修繕積立金をしっかりと積み立てていれば問題ないが、相応の費用がかかることは理解しておく必要があるだろう。 

 

 一方、17階までのマンションなら、足場を組むことで外壁の修繕工事が可能。しかも継ぎ目が少ないので、タワマンに比べて修繕工事も容易な上、費用もタワマンほどではない。 

 

 多くの人は未だにタワマンに憧れている。たしかに、そこでの生活は華やかかもしれない。 

 

 しかし土地が限られている都心の一部エリア以外で、ここまで見てきたような問題が生じ得る可能性のあるタワマンを建設する必要があるのだろうか。 

 

 今後年月が経つにつれて、築20年や30年のタワマンが激増する。その深刻なメンテナンス問題に取り組むのは、タワマンの区分所有者によって形成されている管理組合である。 

 

 タワマンの維持・管理における責任は100%管理組合に帰属する。つまり、タワマンの区分所有者たちが「自分たちで何とかしなければならない」のが実情だ。 

 

 かつては山間や高地にマンションを建設し、見晴らしのよさをアピールしていた時期があった。今、高齢化が進む中で、山の上の住居を行き来したいニーズがどれほどあるだろうか。同様に、タワマンも今後メンテナンスや管理の問題で「自業自得」と憐れまれる存在になる可能性を秘めているのではないだろうか。 

 

執筆:不動産ジャーナリスト 榊 淳司 

 

 

 
 

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