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自民党総裁選で、高市早苗氏が主要候補として急浮上している。

自民党内では警戒感が広がり、石破氏、小泉氏との大接戦が展開されている。

高市氏はアベノミクスの後継者として支持を広げ、安倍支持層だけでなく経済界からの支持も得ている。

小泉氏が混戦に引き込まれ、高市氏の猛追が続いている。

高市氏の逆転の可能性もあるが、決選投票が注目されている。

高市氏は「初の女性首相」になるためにはさらなる支持が必要とみられている。

(要約)

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自民党総裁選立候補者討論会で、パネルを手に発言する高市早苗経済安全保障担当相=2024年9月14日、東京都千代田区の日本記者クラブ[代表撮影] - 写真=時事通信フォト 

 

自民党総裁選で高市早苗氏が主要候補に急浮上している。ジャーナリストの鮫島浩さんは「国会議員からは相手にされず立候補すら危ぶまれていたが、石破氏、小泉氏に割り込みトップ争いをするまでになった。安倍支持層の熱狂的な支持だけではく、アベノミクスの後継者として支持を広げているが、『初の女性首相』になるためには絶対に必要な条件がある」という――。 

 

【写真】ずっと「二番手」だった。安倍氏の一番のお気に入りはこの人 

 

■石破氏、小泉氏、高市氏の「三つ巴」の大接戦 

 

 過去最多の9人が出馬した自民党総裁選(9月27日投開票)で、高市早苗経済安保担当相が「大穴」に急浮上した。「本命」の小泉進次郎元環境相と「対抗」の石破茂元幹事長に割り込み、三つ巴の大接戦になっている。この3人のうち上位2人の決選投票にもつれ込むのは確実な情勢だ。自民党内では「高市政権誕生」への警戒感が一気に広がり始めた。 

 

 高市氏は9月12日の告示前まで出馬に必要な推薦人20人を集めるのに四苦八苦し、自民党内では泡沫(ほうまつ)扱いする向きさえあった。ところが告示後、マスコミ各社の世論調査で小泉氏と石破氏を猛追し、自民党の党員・党友を対象に行った調査では小泉氏を抜いて石破氏とトップを争っているという報道が相次いでいる。 

 

 なかでも読売新聞が9月16日に報じた『自民党総裁選で高市・石破・小泉氏が競る、決選投票の公算大きく』の記事は波紋を広げた。党員・党友を対象にした電話調査は1位石破氏(26%)、2位高市氏(25%)、3位小泉氏(16%)だった。 

 

 読売新聞が自民党国会議員の動向を取材したところ、取材時点で小泉支持は45人、高市支持は29人、石破支持は26人。これをもとに党員・党友票と国会議員票が同数に換算される第一回投票の結果を試算すると、高市氏と石破氏が123票でトップに並び、小泉氏は105票で出遅れていると報じたのだ。 

 

■進次郎氏の失速、高市氏の猛追 

 

 他のマスコミでは小泉氏がトップを走り、石破氏と高市氏が激しく追っているという内容もある。けれどもこの3人の大接戦になっているのは間違いない。国会議員票では小泉氏が頭一つリードし、石破氏と高市氏は苦戦。逆に党員・党友票では石破氏と高市氏に勢いがあり、小泉氏は当初予想に比べて伸び悩んでいる傾向はおおむね一致している。 

 

 小泉氏が想定外の混戦に持ち込まれた要因は、①「聖域なき規制改革」の目玉公約である「解雇規制の見直し」に批判が噴出し、小泉氏が主張をトーンダウンさせて迷走したこと、②選択的夫婦別姓への賛成姿勢が党員・党友の保守層に敬遠されたこと、③43歳の小泉氏の首相就任で世代交代の歯車が一気に進むことへの警戒感が50~60代の国会議員の間でくすぶっていること――があげられる。 

 

 

 小泉氏が本命視されたことで、序盤は小泉氏を標的にとした報道が突出し、9人の総裁候補による討論会でも小泉氏への追及が相次いだことも影響したとみられる。 

 

 決選投票は国会議員票の重みが格段に増す。小泉氏が上位2人に踏みとどまって決選投票にさえ勝ち進めば、相手が石破氏であろうと高市氏であろうと、優勢は揺るがない。第一回投票で敗退した7陣営が「勝ち馬に乗る」ことを競って小泉氏に雪崩を打つ展開も予想される。 

 

■高市氏が「初の女性首相」になるための条件 

 

 けれども小泉氏が第一回投票で3位に沈み、「石破vs.高市」の決選投票になる可能性も十分にある。石破氏も高市氏も国会議員の間では不人気のため、決選投票の行方は予断を許さない。どちらが「勝ち馬」なのか国会議員たちも読み切れず、どちらに投票するかギリギリまで迷うことになろう。高市氏が「初の女性首相」に就任することが現実味を増してくる。 

 

 告示前まで泡沫扱いされていた高市氏は、なぜここまで追い上げてきたのか。そして大逆転の可能性はどのくらいあるのか。考察を進めていこう。 

 

 高市氏の初当選は、自民党が下野した1993年の衆院選だ。安倍晋三元首相や岸田文雄首相と同期である。ただし高市氏は自民党公認ではなく無所属だった。96年の衆院選は新進党公認で当選した。その後新進党を離党して自民党に移り、清和会(現安倍派)に身を置いた。 

 

 だが、自民党は「外様」に冷たい。高市氏が自民党や清和会に溶け込むのは並大抵ではなかった。清和会会長の森喜朗氏が首相に就任した時は「勝手補佐官」を自称して支持率が低迷する森内閣を懸命に応援したが、2003年衆院選は奈良1区で落選。同じく清和会出身の小泉純一郎首相が郵政民営化法案の否決を受けて衆院を解散した05年の「郵政選挙」で、自民党の造反議員への刺客として奈良2区へ鞍替え出馬し、国政に復帰した。 

 

■脚光を浴びる稲田氏、「二番手」だった高市氏 

 

 高市氏はその後、清和会ホープだった安倍氏に付き従う。2012年の総裁選で当時の清和会会長だった町村信孝氏ではなく、安倍氏を支援するとして清和会を離脱した。それが認められ、安倍政権で女性初の政調会長に抜擢され、総務相にも起用された。「外様」の高市氏は、最大派閥・清和会の親分である森氏や安倍氏に忠誠を示すことで、出世の階段を一歩一歩のぼってきたのである。 

 

 しかし、安倍氏が寵愛したのは高市氏ではなく、05年の「郵政選挙」で初当選した稲田朋美氏だった。稲田氏は政調会長や防衛相に次々に登用され、安倍氏の一番のお気に入りと目され、右寄りの安倍支持層にもてはやされた。この間、高市氏の影は薄かった。清和会の後輩である稲田氏が脚光を浴びるなかで、高市氏は「二番手」として、じっと耐える日々が続いた。 

 

 

 その稲田氏が安倍氏が反対する選択的夫婦別姓やLGBT法案への賛成に転じたことは、高市氏にも想定外の出来事だっただろう。稲田氏は安倍氏の寵愛に自信を深め、「初の女性首相」を目指してジェンダー問題に踏み込んでも容認してもらえると判断したのかもしれない。けれども、稲田氏の「裏切り」を安倍氏は許さなかった。稲田氏を露骨に遠ざけるようになり、入れ替わるようにして高市氏を持ち上げ始めたのである。高市氏についに出番が回ってきたのだ。 

 

■「二番手」からの卒業、保守のプリンセスに… 

 

 安倍氏が前回2021年の総裁選で担いだのは、無派閥の高市氏だった。安倍氏の後継を争う萩生田光一氏ら安倍派5人衆には不満が広がったが、安倍氏はお構いなしだった。右派メディアや安倍支持層は高市氏を「安倍後継者」と認め、絶賛しはじめた。 

 

 総裁選に勝利した岸田文雄首相も、岸田政権の生みの親である麻生太郎副総裁も、高市氏の後ろ盾である安倍氏に配慮し、高市氏を厚遇した。高市氏は初の女性首相候補の最右翼に躍り出たのである。稲田氏の存在はすっかり薄れた。 

 

 稲田氏の凋落と高市氏の飛躍――。高市は、安倍氏や安倍支持層を絶対に裏切ってはならないと肝に銘じたに違いない。その信念は安倍氏が2022年の銃撃事件で急逝しても揺るがなかった。5人衆ら安倍派の面々が新たな庇護者を求めて岸田首相や麻生副総裁、菅義偉前首相らになびくなか、高市氏は安倍氏が掲げた憲法改正、靖国参拝、選択的夫婦別姓への反対など右寄り政策を堅持し、アベノミクスの継続も訴え、右派メディアや安倍支持層から絶大な支持を得るに至ったのである。 

 

■後ろ盾を失うも「裏金事件」で再浮上 

 

 だが、安倍氏の他界で高市氏には逆風が吹きつけた。5人衆は露骨に高市氏を遠ざけるようになり、安倍派の中堅若手が高市氏の勉強会に参加することを制した。 

 

 高市氏は今回の総裁選出馬に早くから意欲を示してきたが、推薦人20人の確保もままならない危機に陥ったのである。5人衆の目を気にせず高市氏のもとへ馳せ参じるのは人権侵犯で批判される杉田水脈氏ら一部に限られ、安倍派の大勢は高市氏に近づこうとしなかった。 

 

 安倍派の裏金事件で5人衆が失脚して重しがとれ、右寄り政策に共鳴する安倍派の中堅若手の一部が高市氏支持に回ったことで、高市氏は何とか推薦人20人を確保することができたが、それでも党内は泡沫扱いしていたのである。 

 

 高市氏の推薦人20人のうち、安倍派が14人。裏金議員は13人。他陣営が裏金議員をできるだけ推薦人から外すなか、高市氏は裏金議員か否かを仕分けする余裕はなかった。総裁レースに参加できるか土俵際に立っていたのだ。 

 

 

■「安倍支持層」だけではない強力な応援団 

 

 国会議員に相手にされていなかった高市氏が党員・党友票で首位争いに加わった原動力は、右派メディアをはじめとする安倍支持層の熱狂的な支持である。 

 

 安倍支持層はネット界で発信力・拡散力が圧倒的に強く、「本命」の小泉氏や「対抗」の石破氏のネガティブキャンペーンが急拡大した影響も見逃せない。9人が乱立した大混戦で支持が分散するなかで、高市氏を支持する強固な安倍支持層の割合が相対的に増したのも事実だ。 

 

 それに加え、株式市場をはじめとする金融界で高市支持が広がっているのも大きい。東京商工リサーチの企業向けアンケートでは、高市氏が24.4%でトップに立ち、石破氏(16.9%)や小泉氏(8.3%)を圧倒した。 

 

 金融関係者は「高市氏こそ安倍後継者であり、アベノミクスを必ず継承して株価を上げてくれるという期待感が証券会社や投資家に広がっている。小泉氏や石破氏はアベノミクスを修正して株価を下落させるという警戒感が根強い」と解説する。 

 

■右旋回への警戒感…「高市包囲網」の誕生 

 

 岸田首相は就任当初、格差是正のための分配政策を重視する「新しい資本主義」を掲げ、金融所得課税の強化も打ち上げてアベノミクスの修正を目指した。株式市場は反発し、株価が急落。岸田首相は一転して一般大衆に投資を奨励してNISAを拡充した。 

 

 今回の総裁選では、安倍氏と対立してきた石破氏が金融所得課税の強化を表明して株式市場から警戒されている。小泉氏は規制改革には意欲を示すものの、政策ははっきりせず、株式市場で期待感は高まっていない。それに比べて高市氏は何があってもアベノミクスを継承するという安心感があるのだ。 

 

 高市氏躍進に自民党内では警戒感が広がり始めた。 

 

 今回はお金のかからない総裁選を目指し、各陣営が党員・党友にパンフレットなどを郵送することを禁じていたが、高市氏が政策リーフレットを大量に送付していたことが発覚。選管が口頭注意したものの、各陣営は「ルールを守れない人にルールを守る政治は出来ない」(茂木敏充幹事長)、「私達が高市さんを支持してると誤解して高市さんに票を投じた例が複数ある」(林芳正陣営)などと収まらず、岸田首相ら執行部が選管に厳正な対応を求める泥仕合となった。 

 

 当初は「小泉包囲網」が形成されつつあったが、ここにきて「高市包囲網」が出来上がりつつある。 

 

 自民党関係者は「小泉vs.石破の間隙を突いて高市政権が誕生すれば安倍支持層の発言力が再び増大して自民党は右旋回し、裏金問題も棚上げになる。それでは総選挙で大逆風を浴びかねない」と懸念する。 

 

 

 
 

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