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そばの全国展開には、「西日本の壁」が立ちはだかっている。

西日本ではうどんが主流であり、関東地方がそばの知名度が高いが、全国展開できていない。

ただし、逆転例として「ゆで太郎」が北海道や四国、九州まで店舗を展開しており、全国チェーンを目指している。

彼らのビジネスモデルは、技術をマニュアル化して味を均一化し、全国展開を前提としている。

ただ、西日本での展開はまだ進んでいない。

しかし、池田氏は朝食時間帯の課題に取り組んでおり、大都市である大阪では好調な反応もある。

一方、鈴木弘毅氏は、全国には「そばが全く食べられない地域はない」とし、全国展開可能性を高く評価している。

(要約)

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そばの全国展開には「西日本の壁」が立ちはだかる。画像はイメージ(GettyImages) 

 

 うどん、ラーメン、ちゃんぽん、パスタ……麺類を扱う外食チェーンは全国に展開されており、日々、各社がしのぎを削っている。各社の公式サイトを見ると、うどんの「丸亀製麺」が829店舗、ちゃんぽんの「リンガーハット」が557店舗、ラーメンの「日高屋」が418店舗……という具合だ(いずれも9月10日時点)。 

 

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 だが、本来ならうどんやラーメンに負けないくらい日本人が大好きな“そば”の全国チェーン店がないことはあまり知られていない。首都圏在住の人ならいくつかは社名を挙げられるかもしれないが、西日本の方々は思いつかないはずだ。 

 

 その理由について、外食産業に詳しいライターはこう話す。 

 

「もともと東日本はそば、西日本はうどんという地域性があります。さらに関東と関西ではだしの味が違う。関東地方では知名度の高いそばのチェーン店が複数ありますが、店舗展開は東京都内が中心で、せいぜいが神奈川、埼玉、千葉まで。うどんやラーメンは全国展開が珍しくないにもかかわらず、そばは皆無です。そばの全国チェーン化には“西日本の壁”が大きく立ちはだかっています」 

 

 ところが、例外中の例外として、そばで全国展開を目指しているのが「ゆで太郎」だ。創業会社である「信越食品」は1982年に設立され、ゆで太郎グループで現在は1道1都1府23県で218店を展開している。そばのチェーン店が北海道や東北地方に進出するだけでも珍しいが、大阪を筆頭に四国や九州でも店舗を運営している。 

 

 後述するが、「ゆで太郎」のチェーン展開は2004年に設立された「株式会社ゆで太郎システム」が担っている。同社の池田智昭社長は「最初から全国展開を考えていました」と断言する。 

 

 池田氏の全国展開への思いは「ゆで太郎」創業時までさかのぼる。「信越食品」を創業した水信春夫氏は、もともと都内の有名老舗店で修行したそば職人だった。厳しい修行を終え、念願の独立を果たすため必要な資金を集めようとしたのだが、その手法がユニークだった。池田氏はこう振り返る。 

 

 

■「街のおいしいそば屋のFC化」 

 

「私は大学時代、中学校の教員を目指していました。ところが先輩がその頃はやり始めた『ほっかほっか亭』を『一緒にやってくれ』言ってきたのです。弁当を食べて感動して快諾し、22歳でフランチャイズチェーン(FC)店のオーナーになりました。4店舗まで増やした時に本部からスカウトされました。そして本部の社員として出会ったのが、水信さんだったのです。水信さんは、そば屋の独立資金を『ほっかほっか亭』のFC店を経営することで捻出しようとしており、その頃は4店舗を経営していました」(池田氏) 

 

 水信氏のFC店は順調で、利益を元に念願のそば屋を開業した。腕は確かなので評判となったのは驚くべきことではなかったが、ひょんなことから水信氏が「立ち食いそば」の経営にも乗り出したことで興味深い展開になっていく。 

 

「立ち食いそばは現在でも狭い店舗で経営することが多く、麺もつゆも工場など他の場所で作って持っていくのが一般的です。また当時は“安かろう悪かろう”という店も少なくありませんでした。ところが水信さんの立ち食いそば店は、ご自身が経営しているそば屋の麺とつゆを使っていたから味のレベルが全く違う。たちまち人気店となり、水信さんは『ゆで太郎』の経営に乗り出したのです」(同) 

 

 一方の池田氏は本部で頭角を現し事業所長を経て役員に就任した。ところが、会社の売却や社長交代などを大きな転機を目の当たりにして「ほっかほっか亭」の退社を決意する。 

 

「自分で飲食ビジネスを始めようと模索していると、そばに関する案件が同時に3つも飛び込んできたのです。縁を感じて水信さんを思いだし、連絡を取って再会すると、あれよあれよという間に私が『ゆで太郎』のFC化を担当することになりました。そして2004年に『株式会社ゆで太郎システム』を設立したのです」 

 

 池田氏が勝算を見いだしたのは「立ち食いそばのFC化」ではなく「街のおいしいそば屋のFC化」だった。熟練のそば職人が持つ技術をマニュアル化し、水信氏の味をFC化して展開すれば、必ずヒットすると確信したのだ。 

 

 

■全国展開を前提としたビジネスモデル 

 

「私は『ほっかほっか亭』で働いていた時、車で担当地域を回っていました。食事は幹線道路沿いの“ロードサイド店”が多かった。うどんやラーメンはありますが、そばがないのが個人的に不満で、それが『ゆで太郎』の原点になりました。『ゆで太郎』は麺もつゆも店で作っています。店舗は一定の面積が必要ですし、製麺機など初期費用もかかります。しかし原価は抑えられるので安価でおいしいそばを提供できます。また自社工場でそばとつゆを作る方式だと、工場から離れた地域には出店できません。自社工場を必要としない『ゆで太郎』は、店で仕込むというメリットを最大限に生かすため、最初から全国展開を前提としたビジネスモデルなのです」(池田氏) 

 

 とはいえ、大阪府への出店は「堺筋本町店」の1店舗のみで、京都や兵庫へは進出していない。まだ“西日本の壁”を乗り越えた言える段階ではないのかもしれない。池田氏もこう話す。 

 

「大阪市の店舗はしっかりと利益を出していますが、福岡市や福井市では苦戦しています。ただデータを精査すると、味が原因ではなく、苦戦している店舗は朝食の時間帯が伸び悩んでいるという共通点がありました。実は『ゆで太郎』は朝の売り上げが全体の1割から2割を占め、これほど高い割合は外食産業では珍しいのです。なぜ苦戦店は朝食が不振なのか、原因を探っていきたいと考えています。まだ挑戦は始まったばかりですから」 

 

 もっとも、大都会である大阪は“東京と縁のある”消費者も少なくない。池田氏も手応えは感じているようだ。 

 

「『この間、出張で東京に行って食べたそばはおいしかった』と、『ゆで太郎』を訪れてくれる、生粋の関西人の方もいらっしゃいます。これだけ人とモノが動く時代ですから、『東京はそば、大阪はうどん』という区分は過去のものになりつつあると実感しています。そのため、現時点で私たちは味のローカライズ、つまり『大阪の店舗では関西風のだしにする』といった地域ごとの微調整が必要だとは考えていません。あくまでも『江戸切りそば ゆで太郎』の味で全国展開するつもりです」 

 

 

■郷土の味と全国の味が共存 

 

『ご当地「駅そば」劇場』などの著書があり、“全国の駅そばを1万杯食べた男”としても知られる鈴木弘毅氏は、「ゆで太郎」の挑戦についてこう語る。 

 

「日本全国を回ってそばを食べると、『そばが全く食べられない地域はない』ということが分かります。うどんが極端に強い南九州、広島県や山口県などの中国地方、そして四国でも、そばが全く食べられないというわけではありません。関西もうどんのイメージが強いとはいえ、駅そばの『阪急そば』(現・若菜そば)も人気ですし、京都にも『にしんそば』を筆頭とするそば文化があります。そばの全国チェーン店が誕生する可能性は十分にあるでしょう。また、だしの味を調整するなどのローカライズも必要ないと思います。例えば全国には個性豊かな“ご当地天丼”がありますが、『天丼てんや』は全国均一の味です。郷土の味と全国の味が共存することこそ、私たち消費者にとっては理想的な状況ではないでしょうか」 

 

「ゆで太郎」の挑戦は“西日本の壁”を越えることができるのか。注目が集まる。 

 

(井荻稔) 

 

井荻稔 

 

 

 
 

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