( 215481 )  2024/09/26 01:33:03  
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「Palworld/パルワールド」というゲームの運営企業が、任天堂とポケモン社から特許侵害訴訟を受けた。

運営企業の声明に対してSNS上で批判が相次いでおり、その理由は声明に含まれる"大きすぎる主語"や"同情を求める描写"が問題視された。

ポケモンに酷似したキャラクターと特許侵害の問題が取り上げられており、声明文の表現が適切でなかった点が注目されている。

(要約)

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パルワールドは複数の特許権を侵害しているとして9月19日、任天堂とポケモン社に訴訟された(画像:『PALWORLD』HPより) 

 

 ゲームソフト「Palworld/パルワールド」の運営企業に対して、任天堂などが特許権侵害訴訟を起こしたと発表した。これに対して、運営企業側は声明文を発表したのだが、その文面にSNS上では批判の声が相次いでいる。 

 

【画像で見る】ポケモンに酷似、パルワールドの登場キャラと、発表された声明文 

 

 反感を集めている要因は、声明に「大きすぎる主語」や「同情を求める描写」が盛り込まれている点にある。SNS時代のコミュニケーションでは、これらを効果的に使うことで支持を集められることもある一方、裁判をめぐる声明などシリアスな内容に用いるときには、あまり適していない傾向がある。そこで今回は、経緯を振り返りつつ、実際の声明文を見ながら、何がマズかったのかを考えたい。 

 

■登場キャラがポケモンに酷似 

 

 パルワールドは、ゲーム制作会社「ポケットペア」が開発したゲームだ。公式説明文から引用すると、「広大な世界で不思議な生物『パル』を集めて、戦闘・建築・農業を行わせたり、工場で労働させたりする全く新しいマルチ対応のオープンワールドサバイバルクラフトゲーム」と称している。 

 

 2024年1月に公開されて、一躍注目を集めたが、その最大の理由が「登場するキャラクターがポケモンに似ている」ことだった。ポケモンとは、ポケモン(企業名)や任天堂が手がける「ポケットモンスター」を指し、その動向が注目されていた。 

 

【画像で見る】「マジか…」と唸ること必至?  ポケモンに酷似したパルワールドの登場キャラと、発表された声明文 

 

 そして、発表から半年以上がたった9月19日、任天堂とポケモン社は、前日付でポケットペアに対する特許権侵害訴訟を、東京地裁に提起したと発表する。 

 

 パルワールドが複数の特許権を侵害しているとして、侵害行為の差し止めと損害賠償を求める内容で、「当社は、長年の努力により築き上げてきた当社の大切な知的財産を保護するために、当社のブランドを含む知的財産の侵害行為に対しては、今後も継続して必要な措置を講じていく所存」とした。 

 

 

 これに対して、ポケットペアも同日、「当社に対する訴訟の提起について」と題する声明文を出した。発表時点では「当社は訴状を受領しておらず、先方の主張や侵害したとする特許権の内容等について確認できておりません」として、パルワールドを継続運営しつつ、「訴状を受領次第、必要な対応を行ってまいります」と表明した。 

 

■SNS上では「インディーゲーム業界を代表するな」 

 

 今後については法廷に任せられるわけだが、現時点でのSNSを見ると、ポケットペア側に批判的な意見が多い。その理由は、声明文の後半に「当社は東京を拠点とする小規模なインディーゲーム開発会社です」の書き出しから、同社の考え方を書いていることにあった。 

 

 声明では、訴訟によりゲーム開発以外にも時間を割く可能性があるとして、「ファンの皆様のため、そしてインディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ萎縮することがないよう、最善を尽くしてまいります」と決意を示した。この文章に「インディーゲーム業界を代表するな」とのツッコミが相次いだのだ。 

 

 任天堂といえば、改めて言うまでもないゲームのトップメーカーだ。その知名度は日本だけでなく、全世界に広がっている。あえて「東京を拠点とする」と書くことにより、絶対強者たる任天堂と、無名の弱者であるポケットペアという図式を作りたかったのかもしれない。こうした対立構図による「下克上のストーリー」は、確かにイメージ戦略的にはアリだ。しかし、自らに批判の目が向けられているタイミングには、あまり適した手法とは言えない。 

 

 加えて、SNS上のコミュニケーションにおいて、「大きすぎる主語」は批判の的にされがちだ。同じカテゴリーにくくられた人々から「お前に代表してもらった覚えがない」と言われたら最後、むしろかえって居場所を失いかねない。 

 

 そもそも、すでにポケットペアは「インディー」と言えないのではないかとの見方もある。7月にはソニー・ミュージックエンタテインメントと、アニプレックスとともに、パルワールドのライセンス事業を手がける「パルワールドエンタテインメント」の設立を発表している。ノウハウを持つ大手と組んでIP(知的財産)を展開するとなれば、それはもはやメジャーなのではないだろうか。 

 

 

 さらに声明文は、主語の大きさに加えて、「同情を求める文章」だったことが、火に油を注ぐ結果となった。文字ベースのコミュニケーションにおいて、感情をあらわにした表現は、どちらに転ぶか、状況によって変わってくる。うまく興味を引くことができれば効果的だが、そうでない場合には、不要な反感を買いかねない。 

 

 感情を込めた描写は、ときに「お気持ち表明」と呼ばれ、嘲笑の的になることもある。また使い方によっては、「お涙頂戴」もしくは「ユーザーにこびている」のように感じさせてしまう。そうなれば、本来は枝葉でしかない部分ばかりに目が向いてしまい、本来伝えるべきメッセージはかすんでいく。 

 

 筆者も含めて、ネットユーザーの多くは、あまのじゃくだ。ときには「あら探し」と言えるほど、ツッコミどころを探し、ちゃちゃを入れることに、ある種の達成感を覚えている部分がある。そうした性質を考えると、不用意に「ツッコミどころのある文章」を公開するのは、みずから炎上に飛び込んでいくのと同じだ。 

 

■ネットユーザーの視点を欠いた声明文 

 

 これらの状況を勘案すると、ポケットペアの声明文は、「ネットユーザーにどう受け取られるか」の視点に欠けていたように思える。主語の大きさや、感情をかきたてる文章は、平常時であればプラスになる場合もある。しかし、今回のように、その対応を問われている場面では、逆効果になりかねない。 

 

 加えて、任天堂のIP分野が、ある意味でネットユーザーから神格化されていることも大きい。これまで同社のゲームに関係する訴訟で勝ってきたことから、「任天堂法務部」は、ある種のネットミームと化してきた。 

 

 当然ながら、これは都市伝説的な意味合いが強いのだが、お堅いイメージのある「知的財産」が、エンタメコンテンツとして消費されている珍しい事例と言えるだろう。なかば冗談だとしても、「あの任天堂法務部に立ち向かうとは」といったSNS投稿は、今回のパルワールドをめぐる事案でもたびたび見られた。 

 

 

 つまり、パルワールドにポケモンとの類似性が指摘された時点で、すでにユーザーの脳内では、エンタメ的な「バトル」として扱われていたのではないか。そして訴訟により「ついに山が動いた」となり、そこへツッコミどころのある声明がかけ合わさることで、よりネット民のおもちゃと化してしまう。 

 

■法廷で何を語るかが重要 

 

 今回発表された訴訟は、あくまで特許権を争うもので、著作権や商標権を問うものではない。また、具体的に「どの特許の、どの部分が抵触しているか」まで公表されているわけではなく、あくまで両社がプレスリリースしている文面以上の情報がないのが現状だ。また、特許権である以上、ポケモンとの類似が指摘されていたデザイン面での争いでもないことにも、留意が必要となる。 

 

 今後の行方は、司法判断に任される。任天堂側の発表も、ポケットペアの声明も、その通過点でしかない。重要なのは法廷で何を語るかであり、その審判が評価を決める。そうした前提から考えると、自らに正当性があると主張するならば、一般向けの声明で熱弁するよりも、法廷で粛々とやるべきだろう。 

 

 よく「沈黙は金」と言われる。企業広報の場合、完全に沈黙してしまうと、それはそれで問題なのだが、「言うべき部分は言い、蛇足になるところは言わない」といったコントロールが重要となる。今回のパルワールドをめぐる声明に欠けていたのは、そのバランス感覚だったのではないだろうか。 

 

城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー 

 

 

 
 

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