( 216022 ) 2024/09/27 17:03:21 0 00 写真はイメージです Photo:PIXTA
自民党総裁選の争点に関して、IPOを目指すスタートアップ・ベンチャー経営者から意見を募ったところ、興味深い回答ばかりでした。厳選して紹介します。(トライズ 三木雄信)
【画像を見る】ベンチャー経営者ならではの、さまざまな意見がありました
● 自民党総裁選の論点に喝! スタートアップ経営者のリアルボイス
自民総裁選が告示され過去最多となる9人が立候補し、熱い論戦が交わされています。9月27日の午後1時から議員投票と開票、党員投票も開票され、午後6時ごろに新総裁の記者会見が行われる予定です。
筆者は英語コーチングスクールを経営しているのですが、今回の政策・主張の論点について興味があったので、周りのIPO(株式上場)を目指すスタートアップ・ベンチャー経営者仲間に、あくまで個人的にアンケートをしてみました。
論点は、主に企業経営に関係が強いと思われる五つに絞りました。 ◆解雇規制の見直しについて ◆金融所得課税強化について ◆選択的夫婦別姓について ◆ライドシェアの本格的導入について ◆コンテンツ産業を国家戦略として育成することについて
アンケートの回答者は40代(全体の36%)と50代(同36%)が9人ずつ、30代が5人(同20%)、60代が2人(同10%)でした。総回答数が25人と、統計的には十分ではありませんが、それらの政策の影響を直接的に受けるメンバーばかりなので、ビジネスで責任のある立場の人なら参考になる部分もあるかと思います。また、自由回答欄にはさまざまな意見があったので、私も考えさせられることが多かったです。
それでは早速、紹介しましょう。
● 生産性向上と賃上げのため 解雇規制を見直すべき!
まず、解雇規制の見直しについて。賛否が明確になりました。賛成が17人(68%)、やや賛成の4人も合わせると全体の84%にもなりました。主な意見は次の通りです(以下、回答してもらった文章そのままで掲載しています)。
「頑張りたい社員、結果を出している社員に給与アップや賞与を出したいため、原資を確保したい。その中で解雇規制緩和により、パフォーマンスが良い社員を厚遇できるため」
「流動化させないと、結果的に全体的に給与が上がらない」
「人材の流動性が高まり、賃金水準や経済全体にとっても好循環を生む」
「経営者の立場から考えると当然。プロアスリートの様に厳しい環境でこそ真の競争と真の生産性が得られる。サラリーマンは守られすぎ。と元サラリーマンとして思う」
総じて経営者は、生産性向上や賃上げをするためにも解雇規制を見直しすべき、と考えていると思います。しかし一方で、「解雇規制緩和のためにセーフティーネットが必要」との意見も複数ありました。「あまりに社会的に摩擦が大きいと頓挫する」との指摘は、その通りだと私も思います。
「解雇に際して企業側が労働者に支払う上乗せ一時金に関しての言及がない。最低1000万円程度の上乗せ一時金がセットになるなら理解も出来るが」
「解雇規制見直しの当初は、解雇に伴う金銭補償を多めにすることで濫用を防ぎ、社会的にリスキリングをする風潮を徐々に作ることが重要」
「ただし、従業員の雇用の安定を確保するためのサポートや社会保障とのバランスも重要であり、規制緩和は慎重に進めるべきだと考えます」
大きな政策を実行するためには、現実的に考えることが大事ですよね。社会保障やリスキリング(学び直し)に加えて、解雇に伴う一時金について、総裁候補9人で言及する人が少ないのが私も気になっていました。
いち経営者として私も思うところは、経営も長くやっていると、解雇一時金を払ってでも解雇したい従業員も出てくると思います。それは決して悪いことではなくて、会社にとっても個人にとってもミスマッチは不幸なだけで、次のステップに進む、結果的に良い方向に行くためには、必要なことではないでしょうか。
● チャレンジに「冷や水」となる 金融所得課税強化には反対!
次に、金融所得課税強化について聞きました。反対が12人(48%)、やや反対も合わせると17人(68%)となっています。回答者がIPOやM&Aによる株式の売却をエグジットと考えている経営者であることから、当然にも思われます。「リスクを取るスタートアップや投資に対して冷や水になる」「起業家や投資家が海外に逃げる」といった意見が多かったです。具体的には次の通り。
「チャレンジする意欲が低下」
「起業家の海外流出につながり、ますます経済がジリ貧になる」
「資本市場の円滑化を阻害し、ひいては日本国経済の成長の妨げになる」
一方で、賛成の人もいました。経済成長への貢献や国民の投資意欲の向上など、さまざまな視点から考える必要があるということだと思います。
「他の税制を見直すなら賛成」
「老後資産形成目的のような長期保有の結果で発生した利益への課税には反対」
● 選択的夫婦別姓が 議論になること自体、理解できない!
選択的夫婦別姓については、経済同友会、新経済連盟、経団連も制度の早期実現を求めています。このアンケートでは、賛成とやや賛成を合わせて16人(64%)ですが、自由回答欄をよく読むと、「そんなにこだわることなのか?」「個人が選択すれば良い」などと、「反対する理由がないから賛成」という感じの意見が目立ちました。また、「特定の宗教や支持者に対してのアピールでは?」という意見もありました。
「選択肢が広がることはとても良いことだと考えるから。選択的なので反対の人は従来通りの慣習に従えば良いと思います」
「同姓がいい人は同姓にすればよいだけで、他人の別姓を認めない理由がよくわからない」
「選択なので何がダメ?反対者は宗教などの票集めの為に反対している様に思える」
「そもそも武士や貴族でも北条政子が良い例だが、夫婦別姓は日本の古来の伝統だし、庶民には姓が江戸時代までなかった。これが大問題になるのはおそらく統一教会の影響」
なお、「どちらでもない」が6人(24%)いて、他の質問よりも多かったのが特徴です。
● ライドシェアの導入には賛成だが 労働条件や安全に目配りを!
ライドシェアの導入については、賛成とやや賛成の合計で18人(72%)となりました。次のような意見が出て、特に目立ったのは「地方の活性化につながる」という視点でした。
「ベトナムでは、500メートル先でも乗るほどライドシェアが普及している。関東でも夜タクシーが捕まらないし、地方ではタクシー自体が少なく不便で、不法行為を防止する手立てを作りすぐにでも実施すべき」
「地方での移動手段に選択肢を増やす事で観光の活性化に繋がる」
「労働力不足への対応、地方の移動手段確保のためにライドシェアと自動運転の推進をすべき」
「雨降っただけで呼べないわけだから、インバウンドの前にそもそも需要と供給の緩急をタクシー会社だけで受け切れる訳がない」
「既得権益によって、ユーザーの利便性が損なわれているから。産業力強化にも繋がるから」
ただし、単純に賛成ではなく、環境整備について言及する声も複数ありました。経営者としてQCD(品質・コスト・納期)をマネジメントする感覚からすると、バランスも重要のようです。
「現時点では賛否を決めるのが難しいという立場です。確かに、地方など交通手段が限られている地域では住民の利便性向上に大きな効果をもたらす可能性があり、移動手段としての選択肢を増やす点では魅力的です。しかし、一方で、タクシー業界との競争や交通安全の確保、さらには労働条件の問題など、解決すべき課題も多く存在します。これらの点を慎重に検討し、社会全体にとって最適な形を見極める必要があると考えています」
「海外での犯罪が多い事例や日本人以外の人が認可された場合、海外並みのモラルや不安定さを生む為。逆に厳しい基準を設けるとライドシェアの価値が消える」
「使う車両の安全装備やナビゲーションシステムの要件、支払手段の制約など、乗客やドライバーの安全を確保するための法整備が不十分に見える」
● コンテンツ産業の国家戦略化 国は関わらないほうがいい?
コンテンツ産業を国家戦略として育成することについても、賛成とやや賛成の合計で18人(72%)となり、積極的な意見が多くを占めました。
「日本の宝であり、積極的に育成すべき」
「日本はIP産業は親和性があり、得意分野だと感じるから」
「コンテンツは国境を越えて日本の文化や価値観を発信する力があり、観光や製品輸出とも連動して経済全体に大きな利益をもたらす可能性があります。さらに、デジタル技術の進展により、新しい市場の創出や雇用機会の拡大も期待されるため、積極的に支援・育成していくべき分野だと考えます」
「日本は、アニメ、ゲーム、マンガ、映画など、世界的に評価されている独自のコンテンツを持っており、この産業は国際的な競争力を強化するための重要な資産です」
一方で、「むしろ国が関わらない方が良い」との意見もありました。国は具体的に何をするのか、という疑問も出ました。
「国のバックアップはあってもいいと思いますが、国が関与してうまくいくとは思えないです」
「コンテンツ産業は国が関わらないが故に国際競争力がある作品が生まれている」
「賛成だが、育成対象から大手を除外すること。 要は、大手は投資効率の面から一握りの有名IPを広めるのに適しているが、その前駆となる流行るための対象となる『種』を生み出す存在へ投資するべき」
「賛成だが、国家戦略としてコンテンツの質を高める他の競争的な仕組みが重要。Netflixやディズニーチャンネルのようなサブスクサービスのドラマが地上波より人気があるのは、世界展開を前提として巨額の予算ということもあるが脚本や配役など制作段階からオープンで競争的な環境があるから」
ここまで、スタートアップ・ベンチャー経営者の意見を紹介しました。仲間の意見を読んでいるうちに感じたのが、今回の総裁選で議論されている政策は、何だかキャッチフレーズ的な側面が強い気がしたことです。
27日に新総裁(新首相)が決まれば、今後の政策がある程度明確になるでしょう。政策の効果やその副作用を多方面から検討し、より良い効果をもたらす、または副作用を軽減するための詳細を詰めていくことが重要だと痛感しました。
三木雄信
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