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中国発の越境ECアプリ「Temu」が日本でも人気を集めている。

安さや豊富な商品が利用者に満足をもたらしているが、品質問題や広告効果などさまざまな疑問もある。

テレビCMやYouTube広告などで知名度を上げ、日本市場でも勢いを見せているTemuだが、利用者数のピークを超えている可能性も指摘されている。

日本国内でも一部の消費者が危険性を指摘する声が上がっている。

(要約)

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日本でも利用者が広がるTemu(當舎慎悟/アフロ) 

 

 「Temuをダウンロードしたんだけど、あまりの安さに驚いて! 通知が次々来るし、いろんなものを買った。アメリカ人のコメントが多いけど、あれなんなの?」 

 

【写真】Temuでは家具も販売している。 

 

 知人の50代女性が雑談の中でふいに中国発越境ECアプリ「Temu」の話を始めたので驚いた。 

 

 2022年9月にアメリカでサービスを始め、日本に上陸したのは2023年夏。わずか1年ちょっとでここまで浸透しているのか。データ分析会社によると、日本の月間利用者はすでに2000万人に迫っているという。 

 

前編では日本でTemuの利用者が広がる要因、後編では品質問題など、SNSでも話題になるさまざまなギモンをTemuの広報担当責任者にぶつけた。(後編:「激安EC「Temu」が答えた! "利用者が抱くギモン」) 

 

■桁が1つ違うと思うほどの安さ 

 

 ワンピースが1000円、ビーズがちりばめられた帽子が400円……。Temuのアプリで商品名を検索すると、桁が1つ違うんじゃないかと感じる価格が表示される。 

 

 「なぜそんなに安いのか」。彼女の疑問に対する答えの1つは、Temuの運営企業であるPDDホールディングスの出自にある。 

 

 同社は2015年、中国で激安ECプラットフォーム「拼多多(ピンドゥドゥ)」を開設した。アリババグループなど既存のEC企業が日本や欧米のブランドを誘致し、高品質の商品を販売する方向に向かっていた中、拼多多は地方の中高年層を主なターゲットに激安商品を販売。「ローエンド専門」など、揶揄の対象にもなった。しかし消費者の「安さ」へのニーズは大きく、気づけば拼多多のユーザーは9億人に達した。 

 

 ECプラットフォームとしての差別化に成功すると、iPhoneのような高額品も取り扱うようになり、2018年にはナスダックに上場した。中国の消費が低迷し、デフレがささやかれるこの1、2年は、さらに存在感を高めている。 

 

 同じく中国発の越境アパレルEC「SHEIN」がアメリカ市場で大成功したのを受け、PDDホールディングスは2022年9月、「Temu」を立ち上げアメリカでサービスを始めた。激安商品のサプライチェーンを中国で確立したうえで参入したため、海外でも最初から大規模に展開できたのだ。 

 

 日本には2023年夏に上陸したが、Temuは市場が大きいアメリカに力を入れており、日本市場はテストマーケティングと見られていた。 

 

 

 何かと比較され、Temuと訴訟合戦を繰り広げているSHEINは日本にチームがあり、ニュースリリースを発表したり、広報代理店を通じて取材を受けているのに対し、Temuはその手の窓口も日本にない。 

 

 だが最近、Temuの日本での勢いはすさまじいものがある。 

 

 冒頭の50代女性だけでなく、50代の男性会社員から「Temuで部屋着を数セット買ってみた」と聞いた。40代の在日中国人男性は「中国に住んでいたとき、安物しかない拼多多は絶対使わなかったが、中学生の息子がTemuで買い物をしたいと言い出して、しぶしぶアプリをダウンロードした」と苦笑した。 

 

 失礼ながら情報感度がそれほど高そうでない人たちがTemuを使っているので、どこで知ったのか尋ねると、「テレビCM」だと返ってきた。 

 

■YouTubeやテレビCMなど広告が増える 

 

 そう言われて調べてみると、Temuは今年に入って日本で次々に広告を打っている。 

 

 YouTubeのタイアップ企画は2月ごろから急増し、「Temu 提供」で検索すると渡辺美奈代などのタレント、整理収納系、キャンプなどのユーチューバーによる動画が多くヒットする。 

 

 たくさん買い物をして届いた商品を紹介し、アプリで使えるクーポンコードをコメント欄で紹介するのがお決まりのパターンだ。YouTubeにはタイアップでない「Temuが危ない」系の動画も同じくらいあり、こちらも再生数を伸ばしている。 

 

 Temuの認知が一気に拡大したのは、今年春頃から投入され始めたテレビCMだろう。確認できただけで「芸能人格付けチェック」「THE SECOND~漫才トーナメント~」「オールスター感謝祭」「FNS27時間テレビ」の番組内で、ミニコーナー風の長尺のCMが流れていた。インフォマーシャルと言われる手法で、いずれもコロコロチキチキペッパーズなど知名度の高い芸人がTemuの特徴、特に安さを強調し、割引商品を購入できるコードを表示してアプリに誘導している。 

 

 

 日本ユーザーの利便性を高める施策も進んでいる。今年3月、決済にPayPayを選べるようになったほか、7月にはTemuの買い物で共通ポイントPonta(ポンタ)のポイントを貯められるようになった。 

 

 YouTubeやSNSで「クレジットカード情報を抜かれる」という不安の声が上がっていたため、PayPayを導入することで、決済の安心感を高める目的もあったのかもしれない。 

 

■実際にTemuを利用してみたところ… 

 

 Temuのビジネスモデルの特徴は、出品する業者が注文を受けると、指定されたパートナーの倉庫に製品を発送するだけで仕分け・梱包され、世界中の消費者に配送される点だ。 

 

 Temuが通関、輸送、支払い、返品・返金手続きを行う「フルマネージド・モデル」によって、貿易の経験がない企業でも出品しやすくなり、多くの商品を集められている。 

 

 Temuは日本で8月下旬、出品企業が物流部分を管理し、日本の拠点から配送するセミマネージド・モデルも導入した。この場合Temuは物流以外の部分(支払いや返品、返金手続き)を手がける。 

 

 Temuは「(中国から配送するのに比べ)配送時間が短縮され、商品の種類を増やせる」と狙いを説明する。家具のような大型商品の出品も想定しているという。 

 

 筆者も今回、アプリに「国内配送」と表示されたアクションカメラを購入してみた。9月21日夜に注文し、26日朝到着した。期待したほどは早くなかったが、日本の拠点から配送できる出品者だったからか、Amazonや楽天市場でも同じ商品が販売されており、そちらのレビューも参考にできた。 

 

 ほかのECサイトでは8000円弱~1万1000円台で販売されていたのに対し、Temuでは7000円台。そこまで価格優位性がないように見えるが、複数のクーポンを組み合わせると送料込みで約2000円になった。最初の買い物だったので特に割引率が大きかったようだが、引くほど安い。 

 

 広告を大量投入した効果はデータにも現れている。デジタル行動分析を手掛けるニールセンによると、今年5月の日本のECプラットフォーム利用者数(閲覧のみを含む)で、Temuは4位にランクインした。Amazon、楽天市場の半分ほどだが、Yahoo Japanショッピングに迫っている。 

 

 

 データ分析を手掛けるヴァリューズによると一連のテレビCMが始まる前の2024年2月の利用者数は1270万人(推計値、月に1度以上利用した人を1と数える)だったが、6月には1960万人まで増えた。 

 

 Temuはサービス開始時から、赤字をいとわず巨額のマーケティング費用を投入している。1億人がテレビ観戦するともいわれるアメリカンフットボールのスーパーボウルの中継で、2023年、2024年と2年連続で広告を出稿したことでも話題になった。2023年にアメリカでのマーケティングに投じた費用は約30億ドル(約4300億円)とも言われる。 

 

 一方で昨年秋からアメリカでの伸び悩みが報じられるようになった。SHEIN、アリババ系「アリエクスプレス」、TikTok Shopの中国勢に加え、Amazon、ウォルマートといったアメリカ本土の企業との競争も激しい。 

 

 加えて中国発ECがアメリカに商品を発送するにあたって恩恵を受けてきた、価格が800ドル(約11万円)以下の貨物を関税なしでアメリカに輸入できる「デミニミスルール」についても、見直しの議論が進んでいる。 

 

■アメリカから日韓にシフト?  

 

 中国からのEC貨物を規制する動きは他国でも広がりつつあり、こうした状況を踏まえ、中国では「Temuがマーケティングの重心をアメリカから日韓にシフトしている」と何度か報じられている。 

 

 Temuの広報責任者は日本が「質の高い製品とサービスを重視する洗練された消費者を抱える大きな市場」だと強調し、広告を増やしていることは否定しなかったが「アメリカからシフトしたという報道は誤解」と述べた。「日本の消費者の期待に応えることで、他地域でのサービス向上につながる」とも語った。 

 

 ただ、日本市場でも伸び悩みの兆候が見られる。ヴァリューズは「Temuの利用者数は2024年6月をピークに、現在は踊り場にある」と指摘する。 

 

 YouTubeやCMで興味を持って、クーポンに惹かれて一度は利用したものの、継続利用につながっていない可能性がある。冒頭で紹介した50代女性は、頻繁な通知に急かされるように数度買い物をした後、利用をやめた。 

 

 「たまにいいのもあるけど、粗悪品も多くてもう2度と買わないと思う」 

 

■Temuは危険とプチ炎上も 

 

 韓国で売られている商品から発がん性物質が検出されたというニュースも、消費者の不安を高めており、TemuのテレビCMが放映されるたびに、SNSで「怪しい中国アプリ」「Temuは危険」とプチ炎上が起きる。 

 

 Temuはこういった批判をどう受け止めているのか。筆者がTemuに取材を申し込んだところ、回答を得ることができたので、その全文を後編で紹介する。 

 

後編はこちら:「激安EC「Temu」が答えた! "利用者が抱くギモン」 

 

浦上 早苗 :経済ジャーナリスト 

 

 

 
 

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