( 216708 )  2024/09/29 17:00:39  
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選択的夫婦別姓の議論の本質は、日本において約95%の女性が夫の姓を名乗ることが強制されている点にある。

夫婦別姓を選択できないことが招いた問題や不利益について、議論が続いている。

一方で、海外では多様な選択肢を認める国もあり、選択的夫婦別姓制度が家族の絆を強化し、個人の尊重などを促進する可能性が指摘されている。

日本政府は今回の選択的夫婦別姓制度の導入の進捗を問われる国連の委員会に、適切な回答を求められている。

(要約)

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選択的夫婦別姓議論の本質はどこにあるのか(写真:イメージマート) 

 

「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」──現在、民法ではこう定められており、結婚を機に約95%もの女性が改姓を余儀なくされている。約30年もたなざらしの状況が続いている「選択的夫婦別姓」の議論。日本の婚姻における“ゆがみの象徴”は、なぜ解消されないのか。【前後編の後編。前編から読む】 

 

【表】アメリカでは「創作姓」まで選択可能 諸外国の結婚と姓の関係 

 

 現状では夫婦別姓が認められないため、姓を変えたくないカップルは法律婚に踏み切れず、婚姻届を出さない事実婚を選ぶこともある。そのために不利益を被るケースも少なくない。選択的夫婦別姓制度導入を目指し、国を相手に提訴した第三次別姓訴訟弁護団の寺林智栄弁護士が語る。 

 

「事実婚の妻もしくは夫は、他方の法定相続人とは認められず、財産を相続するには遺言が必要になります。選択的夫婦別姓制度が導入されれば、別姓であっても、ふたりとも相続について問題なく本来の権利を得ることができます」 

 

 ここまで日本が夫婦同姓にこだわる理由はどこにあるのか。 

 

 導入を反対する層の主張で多いのは、「子の姓の安定性が損なわれる」可能性があることだ。父親と母親の姓が異なると、生まれた子供はどちらの姓を名乗るかという問題が生じる。複数の子供がいる場合は子供間で姓を統一するのか否かなど、より一層の混乱が指摘され、子供の心に与える悪影響や周囲からの視線を懸念する声もある。 

 

 また、夫婦や子供の姓がバラバラだと明治時代から続く「家」という概念が崩壊し、家族の絆が弱まり、家族の一体感が喪失されるという意見も聞かれる。 

 

 この懸念点について、寺林さんは、「子供の姓は、確かに揉める要素かもしれませんが、制度の作り方次第で解決可能です」と語る。 

 

「海外では結合姓や連結姓など多様な姓のあり方を認める国もあります。日本でも、父親の姓と母親の姓を両方併記し、一定の年齢になったら子供に選ばせるなど柔軟な制度を作ればいい。戸籍上での表記を心配するかたもいるでしょうが、それも戸籍法を改正すれば解消されるはずです」 

 

 

 30年もの間、遅々として進まない日本の議論について、亜細亜大学国際関係学部教授の秋月弘子さんが所属する国連の「女子差別撤廃委員会」は、今年10月にスイス・ジュネーブで、日本政府に対し、選択的夫婦別姓制度の導入の進捗を問う審査を行う予定だ。 

 

「これまで女子差別撤廃委員会は『女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択の法規定を改正すること』を2003年、2009年、2016年と3度にわたり勧告してきましたが、日本政府はまともな回答をしていません。今回の審査は、暖簾に腕押しの対応に業を煮やした同委員会の“最終勧告”といってもいいでしょう」(秋月さん) 

 

 1898年に日本で夫婦同姓かつ「妻は原則夫の姓を名乗る」ことを規定する民法が成立。これは戦後に「夫か妻のどちらかの姓を名乗る」ことに変わったが、実際は120年超、ほとんどの夫婦が「夫の姓」を選択してきた。 

 

 しかし、当時からは個人の働き方も夫婦のあり方も大きく変わっているのに、姓のあり方だけ不変のままでよいのだろうか。 

 

「この議論の本質は、すべての夫婦に夫婦同姓が強制されている点にあります。しかも日本では約95%の夫婦が男性の名字を名乗っており、ジェンダー平等が達成されているとはいえない。 

 

 既存の枠組みを押しつけられることなく、自分に合った生き方や働き方を選べる社会を実現するには、選択肢が増えることが好ましい。 

 

 同姓を選ぶ人がいてもいいし、別姓を選ぶ人がいてもいい。誰一人取り残されることなく、本人がやりたいようにできる社会にすることが大切です。選択的夫婦別姓はそのための制度なんです」(秋月さん) 

 

 長く続いた夫婦同姓から世界標準である夫婦別姓へ。夫婦別姓は家族を引き離すのではなく、個人の生き方を尊重する、よりよい家族になるための一歩なのかもしれない。 

 

(了。前編から読む) 

 

※女性セブン2024年10月10日号 

 

 

 
 

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