( 216763 )  2024/09/29 17:55:50  
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JR貨物で不正が発覚した背景は、2024年の脱線事故がきっかけで、車軸や車輪の組み立て整備時に基準値を超えた圧入が行われた後、検査値が不正に差し替えられていたことが明らかになった。

他の鉄道事業者でも同様の不正が発覚し、安全上の問題が指摘された。

車輪と車軸の組み立てはJISで規定されており、基準値を超えると脱線リスクや金属疲労からの脆弱性が生じる恐れがある。

このような不正が10年以上にわたって行われていたことが明らかになり、安全を軽視した行為が行われていたことが物議を醸している。

(要約)

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JR貨物の貨物列車(画像:写真AC)。 

 

 JR貨物の発表を皮切りに、JRグループや私鉄各社で相次ぎ発覚した「車軸取り付け時の値超過」と「検査値の書き換え」。ただ、利用者からすると、何がいけなくて安全にどう影響するのか、いまいちわかりにくいものでした。一体何が起きていたのか、安全上の問題はどこにあったのか、改めて読み解きます。 

 

【現代の貨物列車で見かけなくなったものとは?】 

 

 そもそもJR貨物での不正が明らかになったきっかけは、2024年7月24日に新山口駅構内で発生した貨物列車の脱線事故でした。詳しい事故原因は運輸安全委員会で調査中ですが、列車を牽引していたEF210形電気機関車は、進行方向1番目の車軸が折れていたことが判明しています。 

 

 安全確保のためJR貨物が緊急点検を実施したところ、脱線した車両を整備した車両所で車軸と車輪の組み立て整備をした際、車軸を車輪に押し込む作業(圧入)で基準値を超えたにもかかわらず、検査値を不正に差し替えていたことが判明しました。そこで、ほかの車両所についても調査したところ、全国3か所、631両(機関車4両、貨車627両:2024年9月12日現在)で同様のケースが発覚したのです。 

 

 この結果を受け、国道交通省が各鉄道事業者に点検を要請したところ、9月20日までにJRグループをはじめ、東京メトロなど3社(メトロ車両が整備を受託)、そして京王重機整備が整備を受託した31社局の車両で同様の不正が判明しました。JR貨物では少なくとも2014年頃から、京王重機整備でも記録の残る2016年以降で数値の差し替えがあったことが判明しています。 

 

 鉄道車両の車軸と車輪は溶接されているわけではなく、いわゆる「はめ込み式」になっています。車輪の穴は車軸の直径よりわずかに小さく、そこに圧力をかけて車軸を挿入する「圧入」という手法で組み立てられ、相互に働く摩擦力で固定されます。 

 

 この作業に関しては、日本産業規格(JIS)で各数値が厳格に定められており、具体的には車輪の穴と車軸の直径との差(締めしろ)、それに対応する挿入時の力(圧入力)と圧力変化(圧力チャートの波形)などが規格化されています。 

 

 

貨物車の車輪のアップ(画像:写真AC)。 

 

 一応、車輪や車軸の製造時に発生するばらつきを許容するため、基準値に対して90%~110%の幅が認められていますが、作業を実施する事業者では、それより厳しい基準を設定している場合もあります。 

 

 では、定められた値から外れてしまうと、どうなるのでしょうか。挿入時の圧力が小さければ、車軸と車輪を固定する摩擦力が足りず、走行を重ねるうちレールからの圧力などによって車輪がずれ、脱線につながる恐れがあります。 

 

 逆に圧力が大きかった場合はどうでしょうか。今度は挿入時に無理な力がかかり、はめ込む部分が削れてしまったり、車軸や車輪に“ひずみ”が発生したりする恐れがあります。 

 

 そのまま放置して走行を重ねると、削れてしまった部分や、ひずみが発生した部分には想定を超える力が集中し、金属疲労からヒビが入ります。このヒビが広がると、最終的に車軸が折れたり、車輪が割れたりして脱線につながります。 

 

 新山口駅構内で脱線した機関車の車軸が折れており、車軸取り付け時の圧力値が正常なものに差し替えられていたという事実は、車軸を挿入する圧力が基準から外れていた影響と考えることもできます。通常、想定していたものとは異なる力が、車軸にかかっていたのかもしれません。 

 

 今回、各社から発表された事案について、深刻なのは「基準未満はともかく、基準をある程度超過している分には問題ない」と担当者が考えていたことです。このことが少なくとも10年ほど続いていたということは、作業にあたっていた担当者個人ではなく、職場での共通認識だったことがうかがえます。 

  

「安全は何よりも優先される」まさしく「安全第一」であることに、異論はないでしょう。 

 

咲村珠樹(ライター・カメラマン) 

 

 

 
 

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