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青山学院大学法学部の木山泰嗣教授によると、税金と社会保険料の違いや共通点、そして「国民負担率」の実態について理解することが重要だと説かれている。

日本の国民負担率は50%近くに達しており、他国と比較すると高いが、各国の社会制度や歴史を考慮して単純比較は難しい。

(要約)

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諸外国と「単純比較してよいか」の議論はむずかしいという(写真:genzoh/PIXTA) 

 

「なんで額面と手取りがこんなに違うんだ……」。毎月手にする給与明細を目にして、こんな感想を持つサラリーマンは多いことでしょう。 

自動的に天引きされるため、あまり深く考える機会のない「税金」や「社会保険料」ですが、青山学院大学法学部教授の木山泰嗣氏は、それらがいったい、どのような理屈に基づき徴収され、どういった用途に使われているのかについて、私たちはもっと興味をもったほうがいいと説きます。 

税金と社会保険料の違いや共通点、また、最近「五公五民」などと話題に上がることの多い「国民負担率」の実態について、木山氏の著書『教養としての「税金」』から、一部を抜粋・編集して解説します。 

 

【グラフ】諸外国と比べて、日本の「国民負担率」はどれくらい? 

 

■「似ているけれど違うもの」に意識を向ける 

 

 わたしは、私立大学の法学部で教員の仕事をしています。学生に講義をするときに、どの授業でも必ずいっていることがあります。それは「『似ているけれど違うもの』を意識しなさい」、ということです。 

 

 法学部の授業では、専門的な用語や概念、制度がたくさん出てきます。教室の席に座っているだけだと、これらの言葉のシャワーを浴びることになり、ちんぷんかんぷんになってしまいがちです。しかし、「似ているけれど違うもの」が意識できるようになると、ただの言葉の羅列に思えたものが、違うものとして活き活きとしてきます。 

 

 それはひとことでいえば、「興味をもつ」ということです。 

 

 人の名前を覚えるときも、好きなプロスポーツのチームがあれば、所属チームや背番号はもちろん、きっと応援しているチームではないチームの選手の名前さえも覚えることでしょう。それは興味があるからです。 

 

 学校で習うことも含めて「学ぶこと」の対象も、じつは興味をもてば、全然違った意識が芽生えます。とはいえ、そこまで強い興味をもてない。でも学ばなければならない。そういうことが多いかもしれませんし、現実にはそういうことが多いでしょう。 

 

 

 こういうときこそ、「似ているけれど違うもの」に意識を向けて、それぞれの違いを明確にしていくことが重要です。 

 

■税金と「似ているけれど違うもの」とは?  

 

 ということで、税金の話に入りましょう。では、税金と「似ているけれど違うもの」には、どのようなものがあるでしょうか?  

 

 税金と似たものには、社会保険料があります。会社で働くようになると、毎月もらう給料の中から会社から先に天引きされており、実際には稼いだはずなのに、もらうことができない負担(控除)がさまざまあります。 

 

 逆にいえば、会社が従業員に代わって、従業員が負担すべきものを支払っていることになります。その典型例が「税金」です。 

 

 そうすると、同じように会社員の例で考えると、会社に天引きされてしまっている負担はなにかという発想で考えてみると、社会保険料があるわけです。これは働いている人には、次の具体例を挙げると、「ああ、あれか」とわかるでしょう。 

 

 ①厚生年金保険料 

 

 ②雇用保険料 

 

 ③健康保険料 

 

 これらは給与明細書をよくみると、給料から差し引かれたものとして目にすることができるものです。 

 

 もちろん、まずは所得税、住民税という「税金」があります。それ以外にも、先ほどの①厚生年金保険料、②雇用保険料、③健康保険料などの「社会保険料」が、そこには記載されています。40歳になると、④介護保険料も払います。 

 

 これらは、いずれも国民がいざとなったときに国から受けられる社会保障の給付としてのサービスのために、国民が負担している保険料の支払いになります。 

 

 あなたが高齢者であれば、あるいは高齢者になれば、年金を国からもらって生活の支援を受けることができます。会社を辞めて失業したときには、一定期間にわたって生活にあてるためのお金をもらうことができます。 

 

 病気やケガをして病院にかかるときには、実際に病院に支払うべき医療費(診療にかかった費用)や、お医者さんに処方してもらって薬局で購入する医薬品(薬)代の支払いが必要になります。 

 

 しかし実際に、処方薬を含む医療費については、健康保険の制度があるため、3割(30%)のみをわたしたちは支払っています(年齢などにより割合は異なります)。 

 

 残りの7割(70%)はというと、病院や薬局にわたしたちが負担した健康保険料を財源に、健康保険組合から支払いがなされているのです。 

 

 

■「税金」と「社会保険料」の違いとは?  

 

 このように考えると、社会保険料の場合は、なんのために負担しているのかが明確になるという特徴があると思います。 

 

 税金の場合は「払わなければならないもの」という固定観念が起きがちです。それは払った税金がどのようなものに使われているかがわかりにくいからでしょう。そして、実際に直接的に自分に利益が起きる場面も想像しにくいからでしょう。 

 

 税金も社会保険料も、払わなければならないものであり、それが法律のルールで決まっているものである点は変わりません。これは「似ている」ところですね。 

 

 そうすると、「違い」はなにかといえば、その使い道が明確であるかどうか、ということになるでしょう。 

 

 社会保険料の場合、それぞれの保険料は、先ほどみたように、年金、失業手当、医療費の減額というように、それぞれの社会保障の給付のための財源にあてられることになります。 

 

 これに対して、税金の場合は、通常はその使い道が決まっているわけではありません。少しむずかしい言葉を使うと、「税金は、使途が決まっているわけではない」といわれます。 

 

 もちろん、税金のなかにも、なんらかの決まりがあるものもあります。 

 

 たとえば、消費税は、社会保障のための費用にあてることが、現在は法律のルールで決められています。ほかにも、地方自治体に支払う地方税にも、その使い道や、特定の財源にあてることが法律や条例のルールで決められているものもあります。 

 

 使い道があらかじめ決められている税金は「目的税」というのですが、税金の多くは通常その使い道までは決められていない「普通税」であるのが一般的です。 

 

 このように「違い」もありますが、実際に支払わなければならないものとして、わたしたちが法律のルールに従って負担することになる点では「似ている」ことがわかりました。 

 

■50%近くに達する日本の「国民負担率」 

 

 これらの「税金」と「社会保険料」は合わせて「国民負担」と呼ぶことがあります。そして、その割合を専門的には、「国民負担率」といいます。 

 

 統計データにおいても、日本の国民負担率がどれぐらいであるのか、諸外国の国民負担率がどれぐらいであるのか、ということが、比較検討の対象になっています。日本の国民負担率は、次のとおりです。 

 

 

 財務省のホームページをみると、2024(令和6)年2月9日付の公表で「令和6年度の国民負担率を公表します」というタイトルの記事があります。 

 

 これを読むと、「租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率について、令和6年度の見通しを推計しましたので、公表します」という文章があります。 

 

 そして次のように、3年分の最新の国民負担率が記載されています。 

 

・2024(令和6)年度 45.1%(見通し) 

・2023(令和5)年度 46.1%(実績見込み) 

 

・2022(令和4)年度 48.4%(実績) 

 出典:財務省HP「令和6年度の国民負担率を公表します」参照 

 

 50%近い負担を国民がしているとは、「けっこうな負担をしているのだな」と思われたかもしれません。財務省ホームページには、続けて、「国民負担に財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は、50.9%となる見通しです」という記述もあります。 

 

 税金と社会保険料の負担を合わせた「国民負担」は明確な支払いをともなう負担ですが、国の1年の収入は税金だけでまかなわれているものではありません。 

 

 それは「国債」といって、国が借金をしているからです。こうした借金をして将来返さなければならない部分の「収入」は、返す必要がない税金と違って、国の財政にとっては「赤字」部分になります。 

 

 この赤字部分としての負担も潜在的にはあるとしてかけ合わせたものが、この数値になります。 

 

■フランスの「国民負担率」は、なんと68.0% 

 

 国民負担率について、財務省のホームページには詳細なデータを示した資料も掲載されています。これによれば、国民負担は「国税」と「地方税」と「社会保障負担」を合計して計算されています。そして、その推移をみると、次のグラフのように、年々上昇していることもわかります。 

 

 ※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください 

 

 では、諸外国ではどうなのでしょうか。これも財務省ホームページに、続けてデータがあります。次のグラフを参照してください。 

 

 このグラフによると、68.0%もあるフランスよりはまだ低く、一方でいまでも33.9%しかないアメリカよりは高い国民負担がある。これが日本の現状であることがわかります。 

 

 もっともOECD加盟36カ国のデータによれば、ルクセンブルクのような86.8%にも上る負担率のある国も存在します。 

 

 このように諸外国との比較をすることで、客観的にみて日本の負担率は高いのか低いのかがわかります。 

 

 といっても、それぞれの国ごとに社会のあり方や文化や歴史も違えば、社会基盤となっている法制度にも違うところがあります。それぞれの国ごとに、抱える問題にも違いがあります。 

 

 単純比較をしてよいかの議論をすることは、むずかしいのです。 

 

 ただし、少子高齢化が加速する日本のなかでみたときに、国民負担率が上がり続けていることは、厳然とした事実です。 

 

木山 泰嗣 :青山学院大学法学部教授(税法) 

 

 

 
 

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