( 216915 ) 2024/09/30 02:03:54 0 00 「自分では気をつけているつもりなのに、遅刻を何度もしてしまう」、そのような悩みを抱えていませんか?(写真:kikuo / PIXTA)
「遅刻、忘れ物が多い」「仕事がうまく回らない」「人とコミュニケーションがうまくとれない」ーー。このようなことを繰り返してばかりだと、仕事や人付き合いの場面で本人も苦労が続きます。周囲からは性格や能力、また個人の努力の問題だと見られがちですが、その生きづらさには「もしかしたら」発達障害が影響しているかもしれません。 「発達障害は子ども時代にわかることもあるが、違和感を抱いたまま大人になる人も多い」というのはADHDなど発達障害に詳しい医師の司馬理英子さん。「生きづらさを減らすには、発達障害に気づいて適切な対応を知ること、周囲の理解とサポートを得ることが重要なポイント」だという司馬さんに、発達障害のタイプや特性について聞きました(本記事は司馬さんの著書『もしかして発達障害? 「うまくいかない」がラクになる』より一部を抜粋したものです)。
【写真】これまで抱えてきた生きづらさの正体は「もしかして発達障害!?」を解き明かす
■のび太やジャイアンはADHD的?
発達障害が日本で知られるようになったのは、20年ほど前からです。それまで、落ち着きがなく衝動的だったり、人とうまく関われなかったりするのは、しつけや教育、あるいは本人の性格の問題とされることがほとんどでした。
しかし研究が進むにつれて、生まれつきの脳の機能特性により生きづらく感じる人がいることがわかってきました。
発達障害の人は脳に集まった情報を整理・選択し、適切な行動につなげるのが苦手です。はっきりとした原因はわかっていませんが、脳の一部の働きが弱かったり、役割がかみ合っていないからではないか、と考えられています。
発達障害の特性のあらわれ方や程度は人それぞれ。ある特性だけが強くあらわれる人もいれば、あまり目立たない人もいますが、大きく分けると3つのタイプになります。
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)注意欠如多動症 ASD(Autism Spectrum Disorder)自閉スペクトラム症 SLD(Specific Learning Disorder)限局性学習症
それぞれのタイプの概要を見てみましょう。
ADHD:いつもバタバタせかせか。やりたいことが最優先 不注意で落ち着きがなく、衝動的で思いついたらすぐにやりたい。「やるべきこと」より「やりたいこと」が優先します。根気が続かない、時間が守れないなども、ADHDの人にはよく見られます。
【暮らしの中の「あるある」例】 • しょっちゅう忘れ物をする • 片づけが苦手 • 順番を待つのが大きらい • 落ち着きがなくソワソワ
• 締め切りが守れない マンガ『ドラえもん』に出てくるのび太とジャイアンは全く違う性格に見えますが、実はADHD的だという共通点があります。
のび太は不注意で忘れ物が多く、集中力が続きません。エネルギッシュに動き回るジャイアンは多動性や衝動性が強いタイプで、前後の見境なく相手に突っかかっていくのです。
■「推し活をしすぎてお金がない」人は?
ASD:人とほどほどにいい関係が結べない ASDは、人との関わり方に特徴があります。自分の考えにこだわって全体が見えなかったり、気持ちをきちんと伝えられなかったりして人間関係がこじれがち。
臨機応変な行動ができない人、興味のあることにだけのめり込む人も。言葉やしぐさを通して、人とほどよくいい関係を結ぶのが苦手なのです。
「コミュ障」などといういい方もされますが、これがASDの大きな特徴です。
暮らしの中の「あるある」例 • 思ったことをすぐ口に出してしまう • 空気が読めない人だと言われる • 人と関わるのが苦手 • 会社の飲み会に出るのが苦痛だ • 推し活をしすぎてお金がない スペクトラムは「連続体」の意味。困り事の度合いが強い明確なASDの他にも、特徴をもっていても「障害」というほどに困っていない人もいます。
中には「これって私!?」と思い当たることが、ADHDとASDにまたがる人もいるでしょう。いくつかのタイプが混じり合うのは、珍しいことではありません。
SLD:特定の学習が苦手で勉強に苦労する 「読む」「書く」「話す」「計算する」など、特定の学習が目立って苦手なのがSLDです。
例えば、文字があちこちに散らばって見えるので文章がスムーズに読めない、という人がいます。読めるのに書けないとか、数の概念が理解できなくて算数が苦手という人も。
学校での「あるある」例 • 音読がたどたどしい • 鏡文字を書く • 作文が書けない。書くのが遅い • 計算問題ができない • 算数の文章題が解けない 幼いころは気づかれにくいのですが、小学校に入ると授業についていけなくなり、周囲の目にも特性が明らかになります。
知的発達には問題がないために、怠けていると思われがち。本人は努力してもできないので、自信を失ってしまいます。
■発達障害と「ふつう」の境界線
発達障害のひとつであるASDのSは、「スペクトラム」の略です。これは範囲や境界線があいまいなまま連続している、という意味の言葉。自閉(Autism)状態が連続しているとは、どういうことなのでしょう。
例えば、健康診断で胸にあやしい影が見つかったとしましょう。がんの可能性があるからと精密検査を受けました。結果は良性の脂肪のかたまり。ああよかった! ――こんなふうに、がんかどうかははっきりわかります。
ところが発達障害は、白黒をつけるのが難しいのです。細胞を調べればわかるがんと違い、「発達障害と〝ふつう〟の境界線はここだ!」と明確に言えません。発達障害なのか、定型発達の範囲なのか、専門家でも判断に迷うことがあるのです。
発達障害の特性の出方は、育った環境や周囲に理解者がいるかどうかでも変わります。ですから、ある特性のためにとても生きづらく感じる人がいる一方で、そこそこうまくやっていける人もいます。「ステージ2のがん」の定義は患者が誰であっても共通ですが、発達障害ではそう言えないのです。
こうしたあいまいさはASDだけでなく、ADHDも同じです。また、ASDとADHDの両方の特性をもつ人もいます。
では、何をもって「障害」と考えるのか。大切な目安は、その特性のために本人が困っているかどうかです。
特性のせいで生きづらい、周囲となじみにくい。苦労しているのなら、それは発達障害と言っていいでしょう。
特性を持っていても、それによる生きづらさを感じずに生活できている、自分なりの工夫で適応しているならば、障害ではありません。
発達障害の特性は、あなたの個性でもあります。自分の個性を理解しながら、生きづらさをやわらげる方法を考えていきたいですね。
■発達障害と間違われやすいこと
愛着障害 人は乳幼児期に、世話をしてくれる人(多くは親)との間にしっかりとした愛情の絆を結びます。これが人への信頼感や自己肯定感につながるのです。発達の土台に愛情の絆がないことであらわれるのが愛着障害。人とほどよい距離がとれない、過剰反応するなど、発達障害に似た様子が見られることがあります。発達障害は生まれながらの脳の機能によるものですが、愛着障害は成長の過程で起こります。
うつ病 暮らしに差し支えるほど気持ちがふさぎ、喜びややる気が極端に落ち込む病気。集中力が続かない、怒りっぽい、表情が乏しいなど、発達障害と似た様子が見られます。強いストレスが引き金になるとも考えられています。発達障害の人は、周囲とうまくいかず自分を責めることがよくあります。そのストレスが二次障害として、うつ病を引き起こす場合もあります。
強迫症 頭の中に何かのイメージが浮かんでとらわれてしまい、そこから抜け出す行為をくり返します。しょっちゅう手を洗わずにいられない、戸締まりを何度確認しても安心できないなど、症状のあらわれ方はさまざまです。きちょうめんな性格、仕事や家庭でのストレスなどが原因ではないかと考えられていますが、はっきりとはわかっていません。また、発達障害があると強迫症状を強めることもあります。
双極性障害 躁うつ病ともいわれる病気で、「躁」と「うつ」がくり返されます。躁のときには不注意で気が散りやすい、落ち着きがない、よく考えずに行動するなど、ADHDに似た様子があらわれます。双極性障害とADHDとの大きな違いは、周期性があるかどうかです。あるときはやたらと元気なのに別のときには深く沈んでいるというように、躁とうつが交互にくり返される場合はこの病気が疑われます。
ほかにも ●不安症 ●境界性人格障害 ●統合失調症などがあります。
司馬 理英子 :司馬クリニック院長・医学博士
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