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自民党の新総裁に石破茂氏が選ばれた。

総裁選は9人の候補者による激しい戦いであり、予測不能な結果となった。

総裁選での議員の投票基準や駆け引き、特に高市氏との比較が焦点となっている。

高市氏が総裁になっていたら惨敗する可能性があり、その政治姿勢が女性支持を得られなかったことも指摘されている。

石破氏はクリーンなイメージがあり野党にとっては難敵。

小泉進次郎氏は選択的夫婦別姓などで自民党支持層を失う結果となった。

(要約)

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9月27日、自民党総裁選後に開かれた両院議員総会で手をつなぐ(左から)高市早苗氏、岸田首相、石破茂新総裁=東京・永田町の党本部(写真:共同通信社) 

 

 自民党の新総裁に石破茂氏が選ばれた。ほとんどの派閥が解散し、9人もの候補者で争われた今回の総裁選は、ギリギリまで結果が読めなかった。自民党員や党所属の国会議員は、何を基準に票を投じたのか。裏側にはどのような駆け引きがあったのか。9月23日掲載の対談に引き続き、元産経新聞記者で現在は永田町でロビイストとして活躍する山本雄史氏と、世論調査や選挙予測も手掛けるJX通信社代表の米重克洋氏に解説してもらった。(JBpress) 

 

【写真】自民党総裁選で勝利した石破茂氏の挨拶を仏頂面で聞く麻生太郎副総裁 

 

 (参考記事)【対談】決選投票は「石破vs高市」の構図か、あるいは進次郎が食い込むのか、最後までもつれそうな自民党総裁選(9月23日) 

 

■ 「高市総理」だったら自民党は総選挙で惨敗 

 

 山本雄史氏(以下、山本) 今回の総裁選、一回目の投票が終わった時点で高市さんの勝利を確信した人が多かったんじゃないですかね。 

 

 米重克洋氏(以下、米重) そうですね。一回目の高市さんの得票は大方の予想を上回るような伸びでした。党員票が石破氏に並ぶ勢いなのは党員調査で分かっていましたが、議員票は30票台という読みが多かった中で、72票もとりました。結果、石破氏を大きく上回ったので、もしかすると決選投票でも…と思わせるものがありました。 

 

 山本 非常に競った争いでした。私は投開票の中継を、永田町の議員会館で、ある自民党議員の秘書と一緒に見ていたんですが、一回目の投票結果が出た直後、2人で石破さん、高市さんそれぞれの議員票の票読みをし、「石破さんのほうが15票程度多いんじゃないか」という結論に至っていました。結果的にだいたい当たっていた。 

 

 各陣営の動向を丁寧にウォッチしていた人には、最終盤で「石破勝利」の流れを読んでいた人も結構いたんじゃないでしょうかね。もっとも企業経営者や市場関係者の中には、石破さんの勝利にかなり慌てた人もいるみたいですが。 

 

 米重 当日、党員票が各県連で開票される中、高市さんの健闘が伝わり、さらに第一回投票で高市さんがトップに立った時点で、マーケットは完全に“高市トレード”になりました。為替は円安に振れ、日経平均も大きく上昇しました。株式市場は午後3時に締まりますからそこまではよかったのですが、その後、決選投票で石破さんが勝った瞬間に、市場関係者は仰天して急に2円以上円高に振れ、日経平均先物は2000円以上下落しました。 

 

 山本 すぐ「石破ショック」というワードがネットに出回っていましたね。 

 

 しかし、決選投票で自民党議員が誰に投票するかを決める基準は、結局「誰が総裁なら国政選挙で勝てるかどうか」です。そのときに、高市さんで本当に総選挙に勝てるのかというと……。 

 

 米重 勝つのは難しい、と思います。 

 

 山本 同感です。というかむしろ惨敗の可能性もある。思想や政策もありますが、自民党議員の多くも最後に判断するとき、そう見切ったんだと思います。 

 

 

 米重 高市さんは総裁選の期間中、「総理大臣になっても靖国神社に参拝する」など、支持基盤の右派の層に対する“ファンサービス”に勤しんできました。それはその層の人たちには響きますが、しかしそんなに旗幟鮮明にしてしまったら仮に総裁選で勝利しても政権を担い続けるのは難しい。現職の国会議員であればなおさら「本当に総理大臣が務まるのか」と心配したはずです。 

 

 特に北朝鮮問題や対中国への向き合いを考えた時、岸田政権が進めた韓国・尹錫悦政権との関係改善や、日米関係にも悪影響が必至です。日韓・日米関係が離間されて、得をするのは誰なのか?  どの国なのか?  ここを考えれば、過去の発言が足かせになるのは間違いありません。安倍氏ですら、首相在任中の靖国参拝は1回だけ。日本の安全保障や国益を考えた政治判断でした。 

 

 山本 ハッキリ言えば高市さんは右に寄り過ぎた。これは自民党員全体、ましてや世論全体の中で見れば支持層は広がらない。しかも野党からみれば極めて攻撃しやすい相手です。 

 

■ 「政治とカネ」の問題を甘く見過ぎた 

 

 米重 それから今回重要だったのは「政治とカネ」の問題です。われわれJX通信社も日本テレビの党員調査に協力しましたが、この調査結果を見ると、党員は「政治とカネ」で政治への不信感を非常に強めている。特に党員の本当にコアな人たち――「岩盤保守層」と自称するような人たちではなく、本当に地域に根付き、自民党統治の一端を担っているような党員が、不透明な政治資金の問題に対して本気で憤っています。彼らの多くは「党は信用できない」「裏ガネ議員は選挙で非公認にすべし」といった厳しい意見を持っている。 

 

 高市さんはこの部分は脇に置いて、自分の党内支持層を固めることには奏功しました。しかし「その後」が見えなかった。世論の「政治とカネ」の問題への強烈な不信感を軽く見ているフシがあるように感じました。推薦人にはいわゆる裏ガネ議員がたくさんいたし、そうした議員を「裏ガネ議員ではなくて不記載のあった方」と言ってみたり……。そういう部分で、結局最後まで内向きの発信ばかりでした。 

 

 仮に高市さんが総裁になって、そのまま総選挙に突入したら、選挙で負ける。そう思った議員は多かったでしょうね。 

 

 

 山本 高市さんが女性の支持がほとんどないことも、選挙の顔にはなりにくい要因のひとつと見られている。 

 

■ 野党から見れば「石破はやっかい、高市は攻めやすい」 

 

 米重 高市さんは選択的夫婦別姓に反対していますが、その代わりに「通称使用の拡大」を主張しています。これは、選択的夫婦別姓を臨む人の意見の根っこ、つまり世論が考える問題の本質があまり分かっていない証拠です。 

 

 選択的夫婦別姓というのは、結婚した女性が「もともとの姓を名乗れなくなって不便だ」とか「生活上不都合がある」とかという話ではなくて、根本的には社会に出ている女性が「個人」として人権を認められていないという個の権利の問題。要は個の権利と、男性を中心とした明治民法の家制度の名残のどちらを優先するかということ。ですから、「夫婦別姓の代わりに通称使用の拡大を」というのは、世の女性からすれば問題の解決策になっていない。 

 

 世論調査のデータを見ると、高市さんの支持層は一貫して男性偏重です。高市さんのそういう姿勢や態度が、最後まで女性支持層を増やせない大きな要因になっていた。高市さんがしたのはもともと安倍さんファンだった右寄りの、中高年男性層を中心にアピールし続けること。その層を固めきることで、総裁選で候補者が9人もいたおかげで党員票で1位にはなりましたが、候補者がもっと少なかったら同様の結果にはならなかった可能性が高いと思う。 

 

 高市さんが今後も総理大臣を目指すのであれば、そのプレースタイルや党内での立ち位置を必ず変えないといけないと思います。無党派層には女性が多いので、女性から「自分たちの利益を代弁しているとは思えない」と見られていたら、選挙では致命的です。 

 

 山本 高市さんが総裁になっていたら立憲民主党が喜んだはずです。 

 

 米重 実際、知人の立憲の議員も「高市総理待望論」を私に漏らしていました。立憲も保守的な政治信条を旨とする、野田佳彦元首相が代表になりました。「野田vs.高市」なら、裏ガネ問題や政治改革、現実的な外交・安全保障、選択的夫婦別姓などなど、あらゆることで立憲に有利な争点設定をしやすくなる、という意見です。 

 

 

 山本 勝った石破さんの方は、リベラル感もあるし、カネにクリーンなイメージがある。 

 

 米重 令和の三木武夫っぽい雰囲気があります。党内基盤が弱いところも似ている。 

 

 山本 野党にしてみれば、石破さんは「やりづらい相手」でしょう。 

 

■ 演説で何度も手元の原稿を見る進次郎 

 

 米重 一方、総裁選序盤では本命視されていた小泉進次郎さんは最終的に決選投票に残れず敗れました。世論調査で小泉支持者が多い、刷新感や世代交代の象徴というアイコンになっているのが強みでしたが、小泉さんが掲げた政策が、世論にはともかく、地方の自民党員にリーチするものではありませんでした。 

 

 党員票にもっともネガティブに働いたのは、やはり選択的夫婦別姓の導入です。高市さんとは逆の方向ですが、いろいろな世論調査を見ると、自民党支持層の中でもコアな支持層、党員に近い政治的志向の人たちは選択的夫婦別姓にネガティブなんです。これは自民党という政党の特質が影響している。家庭と個人、どちらが優先かと問われれば、やはり家庭と考える。国家と国民、どちらが優先かと問われたら、国家を優先させるような考え方が多くの自民党員の根底にあります。 

 

 選択的夫婦別姓の導入は、世論全般で見れば多くの理解を得られていたとしても、党員とか自民党のコアな支持層には響かない。小泉さんが選択的夫婦別姓に賛成の立場を明確にしたことで、それまで「次の総裁は小泉さんがいいな」というようにふわっと小泉さんを支持していた人たちの中から脱落していった人たちが結構出たように思います。 

 

 小泉さんのブレーンは、若手の政治家や経営者たち。少し乱暴に言えば、同質的な人々が集まって、やれ解雇規制の見直しだとか、やれ選択的夫婦別姓とかという政策作りをしたのでしょう。それらはひとつひとつを見れば確かに世論のマジョリティを捉えてはいるけれど、ただ無党派層から自民党支持層に作用し、自民党支持層から党員に作用するという総裁選に必要な戦略にはまる政策やメッセージではなかった。そこに気づかずに、小泉進次郎という若い“お世継ぎ”に対し、自分たちが仕掛けたいこと、やってもらいたいことを言わせる形になっていたように感じます。 

 

 

 
 

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