( 217404 )  2024/10/01 15:58:30  
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スポットワーク(スキマバイト)が急速に普及しており、企業と働き手を瞬時にマッチングさせる仲介アプリが登場している。

働く人にとっては履歴書や面接不要で即日働け、即日報酬を得られる魅力があり、大企業も参入している。

仲介業者のアプリ登録者数は急増しており、働き手の「スポットワーカー」は増加傾向にある。

雇用企業側にもスポットワークのメリットがあり、人手不足の解消に寄与できると期待されているが、トラブルやリスクもあり懸念されている。

(要約)

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(イメージ) 

 

 空き時間に単発で働く「スポットワーク(スキマバイト)」が急速に浸透している。ピンポイントで人手を確保したい企業と、隙間時間に稼ぎたい働き手が即座にマッチングできるようになり、国内の総ユーザー数は2000万人を突破した。人手不足にあえぐ日本にとって、スポットワークの浸透は「良いシナリオ」なのだろうか。「新しい働き方」の実態を探った。【時事ドットコム取材班キャップ 太田宇律】 

 

【画像】記者のスマホに表示された「タイミー」の求人情報 

 

◇ずらりと並ぶ「即日バイト」 

 

 「ランチタイムの洗い場スタッフ募集 12時15分~14時半、2163円」「倉庫内軽作業 体力に自信のある方」―。記者がスマートフォンで仲介アプリ「タイミー」を起動すると、東京都内でその日のうちに働ける職場と仕事内容が数十件表示された。居酒屋、コンビニ、工場…。並んでいるのはどれも、短期・単発で働く「スポットワーク」の求人だ。 

 

 仕事ごとに応募できる残り時間がカウントダウンされており、「未経験者歓迎」の仕事もあれば、調理経験やレジ業務経験などが「必須」と書かれているものもある。応募後に選考を受ける必要はないが、タイミーではキャンセルや遅刻をしたユーザーに「ペナルティポイント」が与えられ、累積するとアプリの利用停止などの罰則を受ける仕組みだ。 

 

◇「気軽さ」魅力、大企業も続々参入 

 

 働き手にとって、スポットワークの最大のメリットは、履歴書や面接なしでその日のうちに働くことができ、報酬まですぐに受け取れる気軽さにある。例えば、仲介アプリ大手の「タイミー」では、働き手への報酬をいったんアプリ運営企業が立て替える形で「報酬の即日払い」を実現している。雇用企業は立て替え分に加え、働き手への報酬金額の3割を「サービス利用料」としてタイミー側に支払う。 

 

 スポットワーク仲介業はかつてない活況を見せている。「タイミー」「ショットワークス」「ワクラク」「シェアフル」の4サービスのアプリ登録者総数は、2019年末は約330万人だったが、今年9月時点で2000万人を突破した。タイミーは今年7月に東証グロース市場に上場を果たしたほか、LINEヤフーやメルカリといった大企業も続々と参入。自治体との事業連携も始まっており、「スポットワーカー」は今後も増加していきそうだ。 

 

◇雇用企業側のメリットは 

 

 「深刻な少子高齢化で、人手不足に悩む雇い主側にとっても、スポットワークにはさまざまな魅力がある」と説明するのは、関連事業者で作る業界団体「スポットワーク協会」(東京)の後藤一重事務局長だ。必要な働き手をその日のうちに確保できるスピード感に加え、採用や労務管理に掛かる費用も節減が可能。人材派遣と違って働き手は仲介企業の従業員ではないため、魅力的な人材の長期雇用化、つまり「引き抜き」がしやすい点もメリットだという。 

 

 実際に、「シェアフル」が2024年8月、自社アプリのユーザー6万人余りを対象に実施したアンケートでは、全体の23.5%が「スキマバイトがきっかけで長期の仕事に繋がった」と回答している。このうち61%がアルバイト・パートとしての長期採用で、スポットワーカーから正社員になれた人も22%いた。 

 

 24年4―6月期の「労働力調査」(総務省統計局)によると、労働時間が週35時間未満で、もっと働きたいと考えている「追加就労希望就業者」は国内に約195万人おり、前年同期比で約14万人増加している。後藤事務局長はこうした点を踏まえ、「日本には、こうした働き手や『すき間時間』のある学生、長時間でなければ働ける高齢者など、『短時間なら働けて、働きたい人』がまだまだいる。そうしたニーズをとらえることで、日本の人手不足改善に大いに貢献できると考えています」と話す。 

 

 

市民団体「非正規労働者の権利実現全国会議」(大阪)では、スキマバイト(スポットワーク)をめぐるトラブルの調査に乗り出した(公式サイトより) 

 

 ただ、新しい働き方にはトラブルもつきものだ。「作業の内容が事前に聞いていたものと違った」「予定時間よりも早上がりさせられ、その分の賃金がもらえなかった」―。市民団体「非正規労働者の権利実現全国会議」(大阪)には近年、こうしたスポットワーカーからの相談が寄せられるようになったという。 

 

 団体の事務局長を務める村田浩治弁護士は「いわゆる『日雇い派遣』は雇用の不安定さが問題視され、12年の法改正で原則禁止されたが、あのとき起きていたのと同じ問題が復活したような印象がある」と指摘。「雇用契約を結ぶのは利用企業側で、アプリの運営側はプラットフォームを提供しているだけ…という立て付けだが、利用企業側には雇用主としての責任感や自覚が希薄に見える」と憂慮する。 

 

 反社会勢力が犯罪の手伝いをアプリで募集し、知らないうちに巻き込まれる恐れもある。前出の「スポットワーク協会」もこうしたトラブルやリスクを懸念しており、スポットワークを巡る苦情を受け付けるコールセンターを設置し、各仲介事業者に向けたガイドラインを策定。今後は、悪質業者の新規参入を防ぐ仕組みも検討しているという。 

 

◇「自浄作用働くか注視」川口大司教授 

 

 スポットワークの流行は、働き手不足にあえぐ日本経済にとって良いことなのか、それとも悪いことなのか―。労働経済学を専門とする、東京大大学院の川口大司教授にインタビューした。 

 

 ―スポットワークの急浸透をどう見ていますか。 

 

 浸透の背景にあるのは人手不足ですが、テクノロジーの進歩で、これまでできなかった労使間の高速マッチングが可能になったという要素もある。効率性が改善したという意味では、日本の労働市場にとって良いことと言えるでしょう。若者がスポットワークを通じていろいろな仕事を経験できたり、正社員への転換に繋がったりするのであれば、それは「良いシナリオ」です。 

 

 ―懸念される「悪いシナリオ」とは。 

 

 スポットワークだけをしていても、専門的なスキルは蓄積しにくいですよね。雇用契約を結んでいるので、労災の対象にはなりますが、健康保険や厚生年金などの社会保険に加入できない問題もあります。スポットワーカーは言わば「究極の非正規」ですので、更なる格差拡大に繋がる懸念があります。 

 

 他にも、例えばスポットワークの運営側が利用企業と結託して、労働者の賃金相場をこっそり押し下げたり、アプリ上の表示を操作して、特定企業の求人に応募が集まりやすくしたりする可能性はあると思います。運営企業同士で、サービス利用料を高止まりさせる「カルテル」が行われる恐れもありそうです。 

 

 ―そうした事態を防ぐにはどうしたらいいのでしょう。 

 

 まずは、業界による自浄作用が働くかどうか。同じ企業で働き続ける正社員とは違い、スポットワーカーが労働組合を作るのは困難です。コールセンターやガイドラインによって、問題を早期発見して改善する仕組みを作り、どれほど透明性を上げられるかが今後問われるでしょう。 

 

 ただ、自浄作用にも限界はあります。今後の展開によっては、新しい働き方に合わせた規制や法整備、公的機関が客観的に監視する仕組みといったものが必要になっていくかもしれません。 

 

 ―スポットワークで働いている人、これから働きたい人へアドバイスをお願いします。 

 

 報酬の不払いや労働条件の不利益変更など、何か働く上で困ったことがあったら、地方の労働局など公的機関に相談してみてください。自分には労働者としてのどんな権利があるのか、問題が起きたときにどういったことができるのか、知っておくことが重要だと思います。 

 

 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。 

 

 

 
 

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