( 217649 ) 2024/10/02 02:42:17 1 00 石破茂氏が自民党の新総裁に就任し、内閣総理大臣になる予定。 |
( 217651 ) 2024/10/02 02:42:17 0 00 ネットとの親和性の高さを感じる石破茂氏。ネット上で「適度にイジれる政治家」として位置づけられた、初期の政治家ではないだろうか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
自民党の新総裁に、石破茂元幹事長が就任した。まもなく首班指名を受けて、第102代内閣総理大臣に就任する予定だ。
【画像】会見にて、笑顔を見せるゲル長官改め「ゲル総裁」こと石破氏
長年の「冷や飯」イメージからの同情もあって、石破氏に期待する声もある。しかしながら、ネットでは批判的な声も散見される。その一因となっているのは、安倍晋三元首相の長期政権から続く、保守色が薄らぐのではないかとの心配からとみられる。
一方で、ネットメディア編集者として、長年ネット世論を見てきた筆者からすると、ネットユーザーと石破氏の相性は、意外と良いのではないかと考えている。そこで今回は、不人気な側面がある一方で、石破新総裁が持っている「ネットウケ」する要素を考察したい。
■決選投票で「悲願」の逆転勝利
2024年9月27日に開票された自民党総裁選は、1回目の投票で、議員票・党員票どちらも高市早苗経済安保相が優勢だった。決選投票では議員票・都道府県票とも石破氏に軍配が上がり、逆転勝利となった。
石破氏は長年、国民人気は得ていたが、議員からの支持は伸び悩んでいた。5度目の総裁選挑戦で、これを最後と明言して勝ち取った「悲願」となる。ただ一方で、ネットの反応は、必ずしも歓迎ムードとは言えない。
SNS上では、リベラル色の高い新政権になるのではといった危機感や、日本銀行の利上げをめぐるスタンスから、反発を覚えたユーザーも少なくなく、ショックの声が相次いだ。高市氏に期待していたユーザーからも、石破氏への不満が続出。Xでは「石破かよ」なるフレーズがトレンド入りした。
今回の総裁選では、高市氏のSNS人気が、かなり高まっていた。発信力のある「応援団」の存在が、その原動力になったと考えているが、反面、他陣営やその支持者に攻撃的な投稿も多数見られていたのも事実だ。
こうしたユーザーは、決選投票で逆転当選となったことで、石破氏への反感がより高まったのではないか。中には「自民党に失望した」と嘆く声も珍しくない。前総裁の岸田文雄首相が、退任表明会見で「真のドリームチーム」による挙党体制を求めたのと反して、石破氏の就任で離れた自民党支持者もいるようだ。
■石破氏とネットの親和性
このように、今回の総裁選は、SNS面では「高市氏勝利」とも言える状態だった。しかしながら、これまでの「ネット政治史」を振り返ると、石破氏のほうが、より親和性の高さを感じる。筆者の記憶する限り、ネット上で「適度にイジれる政治家」として位置づけられた、初期の政治家ではないだろうか。
石破氏が一般的に知られるようになったのは、「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。」(日本テレビ系)での「爆笑問題」太田光さんらとの討論からだっただろうか。「太田総理」がレギュラー放送されていたのは2006年から2010年だが、それ以前からネット上では「ゲル長官」の愛称で知られていた。
ゲル長官とは「いしばしげる」が「石橋ゲル」と変換できることから、防衛庁長官時代に付いたニックネームで、ネット掲示板「2ちゃんねる」(後の5ちゃんねる)などでは、この呼び名で親しまれていた。
石破氏はある種の「ネタキャラ」として位置づけられており、それが親しみを醸し出してきた。2018年にはイベントで、人気マンガ『ドラゴンボール』のキャラクター「魔人ブウ」のコスプレに身を包んだ。今回の「首相内定」によって、その当時の画像が再び脚光を浴びているが、拡散される根底には、十余年におよぶ「イジられポジション」の歴史があるように思える。
ちなみに「ゲル」と前後して、ネットで普及した有名政治家のあだ名が「ローゼン閣下」だ。マンガ好きで知られる麻生太郎氏が『ローゼンメイデン』を読んでいたのではないかとのウワサから「ローゼン麻生」などと呼ばれるようになった。
なぜ親しまれたのかを考えると、そこに今後の「ネットウケ」に向けてのヒントが見えてきそうだ。あくまで個人的な考察でしかないが、その頃の2ちゃんねるは「リアルな友人には言えない、内に秘めた思いを打ち明ける場所」といった立ち位置だった。
筆者は当時、中学生から高校生となる時期だったが、その頃はまだネット掲示板にはアンダーグラウンドなイメージが残り、あまり「2ちゃんねるを見ている」と公言できない雰囲気があった。
■「オタク」のシンパシーを感じたネット民
そうしたネット民が、軍事はもちろん、鉄道やキャンディーズの「オタク」として知られる石破氏に、シンパシーを感じたのではないか。武骨な求道者ゆえに、なかなか周囲には理解されない様子に、ネットユーザーは自らと重ね合わせ、勝手に親しみを覚えた……。
少し考えすぎかもしれないが、石破氏しかり麻生氏しかり、愛称が付いた背景には、どこか「俺たちの代表」としての思いが込められていたように思える。
それから10年以上がたち、ネット世論の中心は、2ちゃんねるから、ツイッター(X)などへと移った。各投稿はアルゴリズムによって出し分けられるようになり、ユーザーに協調したコンテンツに出会いやすくなった反面で、異なる意見と出会う機会は少なくなり、分断を生んだ。おそらく今後、「ゲル」や「ローゼン」のような形で、ネットで話題になる政治家は生まれないようにも思える。
とはいっても、石破氏そのものに視線を戻すと、どこか「古い政治」の面影がちらつく。鳥取県知事や自治相などを歴任した父親の死を受けて、田中角栄元首相から政界入りを誘われた。1986年に衆院初当選し、現在までに当選12回を重ねている。小沢一郎氏が18回、麻生太郎氏が14回、二階俊博氏が13回と考えると、かなりのベテランだ。「昭和の自民党」の系譜にあることは間違いない。
世襲かつ地方創生に軸足を置く姿勢からも、どこかハコモノ行政や、バラマキ政策を思い起こす人は多いだろう。今回の総裁選にあたっては、SNS上の「縦型動画」や、noteを導入するなど、デジタル面にも注力し始めたが、どこか本人よりも陣営の意向に感じられてしまう。
■自民党からの離党が、今でも「裏切り者」とされている
ネットに情報があふれる時代では、「ブーメラン」となる過去発言が掘り返されやすいことも、足を引っ張りかねない。石破氏は1993年、自民党を離党して、新生党へ移籍。その後進となる新進党を経て、1997年に復党したが、永田町では30年近くたっても「裏切り者」とされているという。
おそらく本人としては、熟慮した上での判断だったのだろうが、周囲に「ブレ」と感じさせる言動は、デジタルタトゥー(ネットなどに残る痕跡)の発掘が前提となる現代社会において、あまり得策ではない。
新総裁となった石破氏は、首相就任後、早期の衆院解散を表明した。しかし、かつて石破氏が、安易な衆院解散に否定的な立場を示していたことから、野党から言動不一致なのではとの指摘を受けている。これもまた、「原典に当たりやすいSNS時代」だからこそ、すぐに発掘され、拡散されてしまう。
経済政策が不安視され、開票日直前に岸田路線を踏襲すると表明したことも、よく言えば「柔軟」だが、悪く言えば「日和見」や「変節」となる。株式市場がご祝儀相場にならないのも、そういう雰囲気が漂っているからだろう。
昨今のSNSでは、高市氏や石丸伸二前広島県安芸高田市長のように、ハッキリとした物言いと親和性が高い。小泉純一郎政権でワンフレーズ・ポリティクスが話題になったが、「タイパ重視」の現代は、より当時よりも切り抜きやすい発言を求める。
つまり、いまは「ゲル・ローゼン時代」とは違い、共通のコンテクストを持ちながら、腰を据えて、じっくり語るスタイルは、あまり求められていない。
とはいえ、時代の変化は目まぐるしく、いつまた風が吹いてくるかわからない。ほどよいタイミングで「イジられ宰相」が望まれるようになれば、意外と石破氏も長期政権になるのではないか。
城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
|
![]() |