( 218184 )  2024/10/03 16:36:45  
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国税庁の調査によると、日本の平均年収は460万円となり、増加しているが、生活を不安視する声が広がっている。

石破茂新首相の誕生と解散総選挙の発表にもかかわらず、不安が解消されるかは不透明。

非正規雇用の問題や男女、正社員と非正規雇用の格差が依然として存在し、安定した生活が送れない現状に懸念が広がっている。

(要約)

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〔PHOTO〕gettyimages 

 

国税庁から2023年の「国民給与実態調査」が発表され、日本の平均年収が2014年以降で最高の460万円になったことが分かったが、生活を不安視する声は大きい。 

 

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10月1日、石破茂新首相が誕生し、10月27日に解散総選挙に打って出ることを表明した。首相が変わって総選挙が行われるが、私たちの不安は解消されるのだろうか。 

 

「どうせ選挙なんて出来レース。誰が総裁になるかは自民党の重鎮が決めることなのでしょう。これから収入がどうなるか、生活がどうなるか。そんな私たちの心配なんて関係ない世界にしか見えない」 

 

地方の中小企業で働く男性(40代)は、諦め顔だ。男性の年収は約500万円。妻は契約社員で年収が約300万円。小学生2人の子どもの大学進学を考えて日々、節約する。 

 

もともと妻は正社員だった。子どもたちが保育園の頃によく熱を出して仕事を休んだ。子育て中の女性社員が少ないことで職場の理解が得られず、退職せざるを得なくなった。1年ごとの契約を更新する妻の職がいつなくなるか分からない。今年の夏休みはホテルの宿泊代が高く、家族旅行を諦めた。男性は続ける。 

 

「立ち食い蕎麦屋で500円を使うのも懐が痛いと思うのに、スターバックスでコーヒーなんて高くて買えません。これからまた消費税が上がるかもしれないし、子どもの学費だって上がっていく可能性が高い。年金はもらえるのか。日本全体の年収が上がったといっても、”安定”も”平均的な暮らし”もできていないと感じます」 

 

大手企業に勤めているからといって安心してもいられない。都内の金融機関で正社員として働く女性(30代)も、今後が心配だ。 

 

「小泉進次郎さんが首相になったら、金融機関で働く”年頃”の女性の正社員が真っ先にクビを切られると思っていたので、総裁選で負けて一安心しました。けれど、経済界の意向を汲むのが自民党。石破茂さんだって首相になってすぐ解散総選挙になるなら、やはり、経営者寄りの自民党政治からは抜け出せないのではないか。これから結婚や出産しても働き続けられるのか不安しかありません」 

 

総裁選が始まった当初、小泉元環境相が勝利するだろうというムードがあったが、小泉氏が提唱した「解雇の規制緩和」に社会は敏感に反応した。批判を受けて小泉氏は「規制緩和」を「見直し」と言い直すなど、迷走した。 

 

9月23日に立憲民主党の代表選が行われて野田佳彦氏が選ばれると、自民党内のムードが変わったという。自民党の関係者によれば「小泉進次郎では野田さんとの論戦に耐えられない。代表選のあとで菅義偉元首相と岸田文雄前首相の支持が石破氏に回ってまとまった票が動いた」とされている。 

 

過去に石破氏は筆者の取材に対して次のように答え、非正規雇用の正社員化を重視していたことなどから、雇用不安を抱える一定の層からの支持がある。 

 

「非正規雇用は企業が人件費を削減するためにあり、減らさなければならない。1991年のバブル経済の崩壊を契機にして雇用の非正規雇用化が進み、就職氷河期の年齢層が40代になっている。非正規労働では、年功序列による賃金上昇も役職による昇進もなく、退職金も厚生年金もない。中年層の非正規労働者は2040年に高齢者になり、大きな集団として登場することになる」 

 

 

今回の国税庁の調査結果を見ると、決して格差が縮小しているとは言えない状況だ。まず、日本の平均年収は2021年の443万円、2022年の458万円、2023年の460万円と回復しているが、これはあくまで平均だ。 

 

年収の中央値は男性で「400万円超500万円以下」(17.5%)、女性は「100万円超200万円以下」(20.5%)だ。平均年収を押し上げているのは、「電気・ガス・熱供給・水道業」で、同業界は2022年の平均年収747万円から2023年は775万円に伸びている。そうした業界でない限り、年収増の実感を得られなくても当然だ。 

 

物価は上がり、税や社会保険料負担が増しているため、手元に残る額が増えるわけではない。財務省によれば、租税負担率と社会保障負担率を合計した「国民負担率」は2024年度で45.1%になる見通し。そのデータが公表された時にはSNSで「五公五民」だとトレンドとなった。1975年度は25.7%、1985年度は33.9%であったことから考えると、相当な負担増になっている。 

 

2023年の給与の状況を詳しく見てみると、全体の平均年収は460万円で、正社員は530万円、正社員(正職員)以外は202万円だった。正社員(正職員)以外の収入は正社員の約4割しかない。 

 

男女別で見てみる。男性全体の平均年収は569万円で女性は319万円と、男女の格差も開いたままだ。全体として女性は男性の55%前後の収入しかない。正社員かどうかで見ると、正社員の男性は594万円で女性が413万円。正社員(正職員)以外の男性は269万円、女性が169万円となっている。正社員か非正規雇用かでも格差は大きい。 

 

夫が正社員で妻が非正規、というケースにあてはめて単純計算すると、妻の収入は夫の収入の3割しかないことになる。こうした収入格差がある以上、いつまでも「夫が稼ぎ、妻は家事と子育て」という状況から抜け出しにくくなる。だから家事や子育てが女性に偏ってしまい、少子化の一因にもなるのだ。 

 

大卒でも2人に1人しか就職できなかった就職氷河期時代に社会に出て、非正規労働が続く女性(40代後半)が憤る。 

 

「私は早稲田大学を卒業しましたが、2003年の就職氷河期だったので就職活動をしても箸にも棒にも掛からぬ状態でした。やっと見つけた仕事は非正規雇用で、激務でした。毎日、終電までサービス残業、土日もサービス出勤。それでも歯を食いしばって頑張りましたが、身体を壊してうつ病になって退職しました。 

 

派遣社員で食いつなぎ、そこで出会った正社員の男性と結婚しましたが、職場からは『寿退社』を迫られました。産後は子どもが小さいことでパートの仕事しか見つからない。交際中に一緒に暮らしていた頃は、夫と収入は同じくらいだったので家事は分担していましたが、今は私の稼ぎが少ないから夫の収入維持を優先してワンオペ育児。この不条理で、2人目の子どもが欲しいと思えなくなりました。 

 

首相が変わって、私たちの働く環境や子育て環境は良くなるのか?すぐに選挙になるのでは、政策も本気度も見えず、何の判断もできない」 

 

新政権が何を目標としているのか見えないなかで、どうやって衆議院議員を選べばいいのか。たとえ平均年収が上がったとしても、男女の差、正社員と非正規雇用の差が埋まらなければ、安心して働き生活していくことは簡単なことではない。 

 

国税庁の調査では、女性の平均年収は25歳から59歳まで、どの年齢層でも350万円前後となっている。これは、結婚や妊娠、出産、子育てで半数もの女性が非正規雇用になることが大きな原因になっている。 

 

著書『年収443万円』で紹介した事例でも、正社員の夫が長時間労働で非正規雇用の妻がワンオペ育児を担い、無職になっていた妊娠期から産後しばらくは、うつ病になっていた。こうした閉塞感が日本を停滞させるのだろう。 

 

私たちは日々の生活で精いっぱい。だからといって「思考停止」状態に陥ることは、為政者や経営者にとって都合がいい。私たちが、「あれ?おかしくないか?」と思わなければ、一部の企業や業界団体の利益にしかならない政治が続いてしまう。 

 

30年、40年に渡って作り上げられた格差は今や定着してしまい、「階級社会」が作り上げられる序章に入っている。その構造を今の政治が作っていることを改めて振り返り、平均年収があったとしても生活が苦しくなるのはなぜなのか、総選挙を前に考えてみたい。 

 

小林 美希(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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