( 218599 )  2024/10/04 17:10:05  
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自民党総裁選で石破氏が勝利して以来、為替や株価の変動が大きくなっており、石破氏の経済政策には注目が集まっている。

石破氏はアベノミクスに否定的で財政規律を重視しており、具体的な経済政策は不透明。

石破氏には増税など財政規律重視の考えがあり、これまでの相場の急変には「石破ショック」という批判もあった。

金融所得課税の強化や経済をノーマルな状態に戻す考えも持っており、マーケットや国民への情報提供が重要だとされている。

(要約)

( 218601 )  2024/10/04 17:10:05  
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経済政策をめぐる石破氏の発言はブレているが、腹の底は…(写真:代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 自民党総裁選で石破茂氏が勝利して以来、為替も株も振れ幅が大きくなっている。日経平均株価の急落は「石破ショック」と言われ、石破氏もマーケットに配慮する発言をするようになった。利上げに慎重な発言を受けて、3日のドル円相場は円安方向に大きく動いた。だが、そもそも石破氏はアベノミクスに否定的で財政規律を重視する立場。解散総選挙後までは具体的な経済政策が見通しにくい。石破氏の腹の底はいかに?  

 

【まとめ】本記事の3つのポイント 

 

 (中野晴啓:なかのアセットマネジメント社長) 

 

 自民党総裁選で石破茂氏が勝利して以来、日本株は荒っぽい値動きが続いています。高市早苗氏の勝利を織り込んで円安、株高に急速に振れた後、石破氏勝利が伝わると一気に巻き戻しました。週明けの30日、日経平均株価の終値は前週末比1910円安となり、その後も大きく上がったり下がったり…。為替も3日、利上げに慎重な発言を受けて円は急落しました。 

 

 「マーケットのおもしろさ」と言っては相場の急落で火傷をした方には不謹慎かもしれませんが、「こうだ」と思い込んだら早い者勝ちで動くマーケットの瞬発力、本質を目撃していると言えるでしょう。 

 

 財政規律を重視する姿勢を見せてきた石破氏が首相になったことで、マーケットには円高・株安になるという見方があります。確かに、短期的にはその傾向が強まる可能性があります。しかし、私は日本の産業界、そして日本経済が力を取り戻すには必要な過程だと考えています。 

 

 総裁選では「高市ラリー」が起きましたが、ある意味、それは当然です。高市氏は、いわば究極のMMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)論者。積極的な財政出動をよしとし、金融政策は緩和路線で利上げなんてとんでもない、という立場。目先の株価が上がるならなんでもしてほしいというマーケットには、市場にマネーをジャブジャブ供給してくれそうだった高市氏が政権を取れば超追い風になるはず、という思惑がありました。 

 

 他方、石破氏は高市氏とは真逆の財政規律を重視する立場ですが、基本的には岸田路線を踏襲すると見られています。高市ラリーが不発に終わった相場の巻き戻しを、世間は「石破ショック」と批判しました。私から見れば、高市ラリー前の状況に戻っただけで、石破氏のせいではありません。 

 

 ただ、石破氏がこの先、財政規律を重視する姿勢を前面に打ち出せば、円高・株安に振れる可能性はあります。「石破ショック」批判を受けて総裁選後はマーケットに配慮した発言をしていますが、腹の底では増税を含む財政規律重視のフィロソフィーは揺るがないでしょう。そう考えると、今年前半までのように日経平均株価が急速に右肩上がりで上昇するような相場は期待できないのは事実です。 

 

 しかも、10月9日には衆議院を解散し、27日は衆院選投開票という日程です。衆院選が終わるまでは、石破氏の経済政策ははっきりしないでしょう。それまではさまざまな思惑によって、相場は荒れ模様になると思います。 

 

 

■ 金融所得課税の強化が「資産運用立国」に必要な理由 

 

 石破氏が主張し注目を集めているテーマの1つに、金融所得課税の強化があります。金融所得課税の強化は特に投資家から警戒されています。しかし、私はこの金融取得課税の強化について、基本的には賛成です。 

 

 前回も簡単に触れましたが、金融所得課税の強化は、新NISAで非課税枠を拡大した時から議論の俎上に上っていたテーマだと見ています。いずれ非課税枠の外での投資、つまり金融所得課税の対象となる投資については課税を強化する、というシナリオがあったからこそ、新NISAで非課税枠を拡大できたのだと思います。 

 

 そして、金融所得課税を強化する際には、非課税枠をさらに拡大することで、個人投資家からの理解を得る、という方針を打ち出すのではないでしょうか。政府も金融庁も、「資産運用立国」を目指すという方向性は、石破首相になっても変わらないはず。その際、最も大切なことは、一般大衆に資産運用の行動文化を定着させることです。 

 

 資産効果の影響を大きく受けるのは、実は富裕層ではなく、普段は切り詰めた生活をしている一般大衆です。常に資金的余裕がある富裕層は、運用益が出たからといってすぐに消費を拡大するわけではないでしょう。他方、普段つつましい生活をしている一般大衆は、資産効果で資金的余裕が出たら、財布の紐を緩めて我慢してきた消費に一気にお金を回す傾向があります。 

 

 このような投資・消費行動を定着させることで、日本も米国と同じように、個人消費が経済をしっかりと支える構造に転換していく。それが、資産運用立国の究極のゴールです。 

 

 それは、アベノミクスの失敗を認め、明確に軌道修正することでもあります。 

 

■ アベノミクスを反省し経済を「ノーマル」な状態に 

 

 アベノミクスは、金融資産や不動産を多く抱える富裕層と高齢者にはメリットをもたらしましたが、多くの一般大衆にはほぼ無縁でした。金利をゼロに抑えたことは、日本の産業を強くすることにつながったのでしょうか。これも答えはノーでしょう。 

 

 インフレに見合った金利のある世界に戻していく、つまり経済をノーマルな状態に戻していくことが、国民の生活に一番寄与することだと思います。金利のある世界で企業、そして産業の新陳代謝を促し、やがては円高・株高という国民にとって最も望ましい状況に進んでいってほしいと思います。 

 

 石破氏は2日、マーケットに配慮して追加利上げに慎重な発言もしていますが、日銀には緩和的でも制約的でもない中立の金利として、1%までは段階的に利上げしていく考えがあると見ています。石破氏には、日銀の独立性を重視するという基本姿勢を大切にしてほしいです。 

 

 マーケットは目先のことしか気にしませんが、中・長期の視点で日本経済のあるべき姿を考えるなら、石破氏の方向性は正しいと思うのです。大切なのは、誤解に基づいて「石破ショック」などと呼ばれることがないよう、マーケット、そして国民にわかりやすく日本経済を活性化するストーリーを説明することです。 

 

 「石破氏にとっての最大野党はマーケットだ」といった指摘もありますが、中・長期の視点に立ってマーケットを味方につける、骨のある石破氏らしい経済政策に期待したいですね。 

 

中野 晴啓 

 

 

 
 

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