( 218864 )  2024/10/05 15:04:05  
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10月11日に公開される映画「室井慎次 敗れざる者」に向けて、「踊る大捜査線」シリーズが盛り上がっています。

このシリーズは、日本の映画市場を大きく変革させた存在であり、1997年に放送されたドラマ「踊る大捜査線」から生まれた映画が大ヒットを記録しました。

その成功により、90年代に低迷していた邦画市場が復活し、2000年代には邦画の興行収入が洋画を上回る状況にまでなりました。

 

 

「踊る大捜査線」シリーズや「海猿」シリーズなど、テレビ局と映画制作会社の連携による作品群が日本映画界に活気をもたらし、成功を収めました。

しかし、現在の映画市場ではアニメーション作品や他の映画会社も台頭し、テレビ局の影響力は以前ほどではなくなっています。

今後は、テレビと映画が一体となって新たな作品を生み出す文化が続くことが期待されています。

 

 

「踊る」シリーズの新作映画では、主人公である室井慎次が描かれ、映画とテレビの関係を象徴しています。

テレビと映画がどのように連携していくか、その力強さについて考えさせられます。

テレビと映画が連携して作品を作り上げる新しい時代が到来しており、業界の壁を超えて新しいものづくりに取り組むべき時期であると感じられます。

(要約)

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10月11日に公開される映画「室井慎次 敗れざる者」に向けて、「踊る大捜査線」シリーズが盛り上がっている(画像:映画「室井慎次 敗れざる者」公式サイトより) 

 

 「踊る大捜査線」シリーズが盛り上がっている。9月16日からドラマが関東地区で昼間に放送され、28日には「踊る大捜査線 THE MOVIE」が、30日にはスピンオフ映画「容疑者 室井慎次」が放送された。10月5日には映画化第2弾「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」が放送予定だ。 

 

【グラフで見る】邦画と洋画で2000年代の興行収入を比べてみると? 

 

■「踊る大捜査線」が日本の映画市場をひっくり返した 

 

 これらは、10月11日に公開される映画「室井慎次 敗れざる者」に向けての、フジテレビの盛り上げ策だ。90年代にコピーライターとして映画のポスター制作にも関わり、2000年代半ばには「踊る」シリーズの映画の制作協力会社ROBOTに在籍した筆者としては、思い起こすことが多々ある。ハッキリしているのは、「踊る大捜査線」が日本の映画市場をひっくり返したことだ。 

 

 90年代、邦画はどん底だった。このままでは洋画に押しつぶされて消滅するのではと心配したほどだ。そんな状況を一変させたのは、ドラマから生まれた1本の映画だった。 

 

 90年代の邦画がいかに惨憺たる状況だったか。日本映画製作者連盟の「日本映画産業統計」を見れば誰でも理解できる。今は興行収入(劇場の売り上げ)で映画の成績を示すのに対し当時は配給収入(配給会社の売り上げ)なのがややこしいが、配収のおよそ2倍が興収と考えればいい。 

 

 例えば邦画が最低だった1996年は配収230億円。洋画は403億円で約1.8倍だ。最新の2023年では邦画の興収が1480億円。1996年の配収を2倍にすると460億円だから、今の約3分の1だった。2023年の洋画は733億円で、1996年の配収の2倍が806億円だから、洋画は下がっている。 

 

 90年代は圧倒的に洋高邦低だったのが、現在は逆。この逆転の端緒となったのが「踊る大捜査線」だったのだ。 

 

 よく知られた話だが、1997年1月クールに放送されたドラマ「踊る大捜査線」は当時としては高視聴率でもなかった。だが徐々に熱いファンがついたとき、主演の織田裕二氏はフジテレビのプロデューサー亀山千広氏に「最終話が20%取れたら映画化してほしい」と頼み込んだ。目標通り20%を達成したので、亀山氏は約束を守り映画化へと動いた。その際、映画業界のスタッフで行こうとすると織田氏が猛反対したという。ファンはテレビが好きなのだからテレビのまま映画にするべきだ、と。 

 

 

 亀山氏は学生時代映画青年で映画をリスペクトしていたからこそ、自分たちが制作してはいけないと思い込んでいた。だが織田氏の説得を受け入れ、監督脚本はドラマと同じ本広克行氏と君塚良一氏に任せた。ただ当時は映画館はフィルムで上映するなどプロセスがドラマとまったく違ったので、映画制作の経験値が高いROBOTに制作協力の依頼が来た。 

 

■公開当日「事件は映画館で起こった!」 

 

 ドラマから生まれた映画「踊る大捜査線 THE MOVIE」は1998年10月31日に公開された。配給の東宝としては、12月のお正月映画が始まる前に、映画館を賑わせてくれればとの日程だったようだ。 

 

 ところが公開当日、びっくりする報告が届いた。映画館で行列ができている!  

 

 当時の映画館はネット予約はできないので、チケット売り場に詰めかけた「踊る」ファンが行列を作ったというのだ。実写の邦画で行列ができるなんて前代未聞だ。「事件は現場で起こっているんだ!」の有名なセリフの通り、映画館で事件が起こった。興行は賑やかしどころか年を超えて正月まで続き、配収は50億円に達した。興収換算では101億円と言われている。 

 

 先述の最低だった1996年には「Shall we ダンス?」が実写の邦画としては類い稀なヒットとなり、配収16億円を記録した。同じ年の邦画トップは「ゴジラVSデストロイア」の配収20億円。「踊る」の50億円がどれだけすごかったかがわかるだろう。1997年には「もののけ姫」が配収117億6000万円を記録し、ランキングは「ドラえもん」や「エヴァ」など、アニメ作品が占めていた。邦画はアニメでいい、実写はお呼びでないという空気感を「踊る」が吹き飛ばした。 

 

 快進撃はそれで終わらない。2作目の「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」が2003年の7月に夏休み映画として公開されると空前のヒット、興収173億5000万円となった。1作目の配収50億円、興収で101億円に驚いたのにそれを超えてあまりある数字を叩き出したのだ。この数字は、実写の邦画としてはいまだに破られていない。 

 

 フジテレビはROBOT制作で「海猿」シリーズを、映画→ドラマ→映画の順で世に送り出し、2006年に公開された2作目の映画「LIMIT OF LOVE 海猿」は71億円のメガヒットとなった。 

 

 

 「踊る」シリーズからは2005年に2本のスピンオフ作品も公開された。それが「交渉人 真下正義」と「容疑者 室井慎次」だった。それぞれ42億円と38億3000万円のヒットとなった。この秋公開されるのは、「室井慎次」のその後の世界ということになる。 

 

 2000年代は、フジテレビを筆頭に映画ビジネスにテレビ局が取り組んだ時代だった。TBS、テレビ朝日もそれぞれドラマを映画化してヒットさせた。日本テレビは「20世紀少年」を2008年から2009年にかけて3部作で制作し、テレビ放送も活用したクロスメディア展開でプロジェクトを大成功させた。 

 

 そして「踊る」シリーズと「海猿」シリーズで信頼を得たROBOTはVFXを駆使する山崎貴氏の監督で「ALWAYS 三丁目の夕日」を日本テレビの力を得て制作し、32億3000万円のヒットとなった。テレビ局による映画界の活性化の波にうまく乗れたと言える。 

 

 かくして、90年代に洋画に押しつぶされそうだった邦画は、2000年代にテレビ局のパワーで復活した。 

 

 2000年代の興収を邦画と洋画で比べると、2000年には邦画543億円、洋画1165億円だったのが2006年には邦画1079億円に対し洋画949億円と逆転している。2007年に一度抜き返されたものの、その後は邦画のほうが高い状況が続き今に至っている。 

 

 「踊る大捜査線」と「海猿」の2つのヒットシリーズはその後も続編が公開され、2012年に最終作が公開されて最後の輝きを放った。 

 

■テレビと映画は渾然一体となりつつある 

 

 その後、テレビ局は放送収入が行き詰まり、以前ほど映画制作に出資しづらくなった。それでもドラマを映画化したヒット作はあったし、今も映画業界の重要なプレイヤーではあるが、2000年代に力強く牽引したほどのパワーは発揮できていない。むしろアニメーション作品が新たな作家たちの登場でまた驚くようなヒットとなり、東宝など映画会社も力をつけてきた。 

 

 

 だが「踊る大捜査線」がテレビと映画の境界線を突き崩し、両者が渾然一体となって作品作りをする文化を生み出した、その成果が今に続いている。ROBOTと共に映画を作ってきた山崎貴監督は、東宝のIPであるゴジラを原点以上に回帰させた「ゴジラ-1.0」でアメリカ映画界に切り込んだ。山崎氏のアカデミー賞受賞の元を辿ると「踊る大捜査線」があると言えるかもしれない。 

 

 この秋に公開される「踊る」シリーズの2つの映画は、室井慎次が主人公。「支店」つまり湾岸署の現場で事件と戦う刑事青島が、「本店」つまり警視庁の室井に警察を良くしてくれと言った、その約束を果たせるかの物語らしい。テレビと映画を2人の関係に見立てると、テレビは映画界を良くしていくのか、そんな力はもう残ってないのか。 

 

 私は、テレビが映画のためにできることはまだあるし、力を発揮してほしいと思う。いや、当時とは別の意味でテレビと映画は渾然一体となりつつある。もはやどちらが上か下かではなく、新しいものづくりに業界の壁を超えて取り組むべき時なのだと思う。 

 

境 治 :メディアコンサルタント 

 

 

 
 

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