( 220779 )  2024/10/10 16:35:29  
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埼玉県を中心に140店舗を展開するスーパー、ベルクが好調な成績を収めている。

ベルクは業界の常識にとらわれず、他社が行わない取り組みを積極的に行い、独自の経営スタイルを貫いている。

例えば、レジ袋を無料で提供するなどの斬新な取り組みを行っており、これにより顧客の支持を得ている。

また、コロナ禍の中でも、祈願商品を販売するなど消費者に寄り添う施策も行っている。

ベルクは他社とは異なる戦略を取りながらも、従業員の働きやすい環境整備や新しい顧客層の取り込みにも力を入れており、安定した企業成長を実現している。

ベルクは他と一線を画す真面目なスーパーであり、地域社会により充実した生活を提供することを経営理念として掲げ、人を大切にする経営を展開している。

(要約)

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ベルク川越むさし野店 - 筆者撮影 

 

埼玉県を中心に140店舗を運営するスーパー、ベルクが好調だ。特徴は、業界常識にとらわれず「他がやらないことをやる」。いったいどんな取り組みを行っているのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんがリポートする――。 

 

【画像】3位はマルエツ系、2位はフジ、1位は…食品スーパー売上ランキング 

 

■埼玉発のスーパー「ベルク」が行う異色の取り組み 

 

 埼玉を拠点に成長を続けているスーパーがベルクです。既存店の売り上げを伸ばして連続増収を続けています。 

 

 ベルクの取り組みはかなり異質で、同業他社がやっていないようなことに積極的に取り組み、独自の経営を貫いているのです。 

 

 そのひとつがレジ袋をいまだに無料にしていること。まさに絶滅危惧種のスーパーです。このような変わった取り組みがベルクにはたくさんあります。 

 

 なぜ一風変わった取り組みを行うのか。そして、それをなぜ打ち続けるのか。 

 

 そこにはベルクの「他がやらないことをやることで生き残りを図る」という強い意思が見えました。これからの経営のヒントが見えてくるベルクに今回は注目します。 

 

 埼玉に仕事に行く度に私が必ず立ち寄るスーパーがベルクとヤオコーです。 

 

 両社ともに埼玉を代表する食品スーパーです。毎月、埼玉で仕事をしているため、両店には顔をだしています。両社はそれぞれ業績も良く、地元・埼玉県民に愛されているスーパーです。 

 

 食品スーパー業界ランキングでヤオコーは6位、ベルクは12位。両店とも増収増益。売上高はヤオコーの方が上ですが、ベルクの方がわずかに利益率も高い。 

 

 ベルクは当期営業利益率が3%です。図表1をみるとよくわかりますが、粗利率が高くないスーパー業界では立派な数字です。それだけベルクは稼ぐ力が高いことを意味しています。 

 

■寺に海苔を持参して祈願する 

 

 ベルクに私が強く興味を持ったのはコロナ禍の2020年です。同年4月に緊急事態宣言が出て世の中がパニック状態になっていた時です。この時に小売業や飲食店などは3密を避けるために、営業時間の短縮や来店を制限するよう、チラシやポスターで告知していました。 

 

 しかしほぼ同じ時期に、ベルクは下記画像右側のようなチラシを作っていたのです。消費者のために佐野厄除け大師でコロナの終息を祈願する商品部社員の写真が掲載されたチラシです。 

 

 たまたま私はこれを手にして、正直驚きました。同時にベルクにとても興味を持ちました。お客のために祈るスタンスはステキだなあと思ったのです。 

 

 このベルクの佐野厄除け大師の祈願は、コロナ禍だけでなく、恵方巻を販売する際にも行っています。毎年、お寺に恵方巻で使う海苔を持参して祈願しているのです。 

 

 こんな発想、普通のスーパーではなかなか見られません。このベルクというスーパーは「他の会社ではやらないことをやる」と決めている会社なのだろうと私は思いました。 

 

■「レジ袋が1枚5円もするわけない」 

 

 ベルクではレジ袋がいまだに無料です。今や世の中の小売店ではレジ袋は「有料」が当たり前になっています。しかしベルクではレジ袋はバイオマス素材25%配合のレジ袋へ変更することで無料にしています。さらにはレジ袋が不要の場合は、「お買物袋ご辞退カード」をレジで渡すと会計から2円引いてくれます。 

 

 なぜ今も無料を続けているのか、理由は「レジ袋が1枚5円もするわけない」(原島一誠社長、「ツギノジダイ」2022年9月7日『「バケツの底がぬけていた」拡大路線に危機感 ベルク4代目の人材戦略』)というもの。5円ももらったらレジ袋で儲かってしまう。そんなことはしたくないということで今も無料を続けているのです。なかなか変わったスーパーです。 

 

 ベルク4代目の社長、原島一誠さんが社長に就任されたのが2020年です。ベルクが次々とおもしろい企画を打ち出し、特に若者をターゲットにした企画を打ち始めたのはこの頃からです。 

 

 原島社長は「顧客の先細り」というローカルスーパー特有の課題に直面し、危機感を持っていました。主婦のイメージが強いスーパーですが、実際には共働きの増加で専業主婦世帯は減っています。主婦層だけに支持されてもスーパーに未来はない。そう考えたのです。 

 

 

■過去に実践してきた「他ではありえない企画」 

 

 また、最近ではタイパを重視する消費者が増えました。安い店を探して買い回りをすることなく、1カ所で満足のいく買い物をしたいニーズが高まっています。つまり、これからのスーパーマーケットは、「来店顧客層を広げていかなければならない」と原島社長は感じていたのです。 

 

 そこでベルクでは、新しく開拓する客層として「Z世代(1990年代半ばから2010年代に生まれた世代10代~20代後半までの年齢層)」に焦点を当てて、Z世代の客層を取り込むことを決めました。 

 

 2020年以降はZ世代に向けた新しいアプローチを次々と開始。これによってSNSで情報が拡散されることもぐっと増えて、ベルクの知名度が一気に広がっていきました。 

 

 図表2をみると、飛び道具的な、ちょっと遊び過ぎている企画もあります。しかし、私はこれこそ、ベルクの成長を支えている一番のポイントだと考えています。 

 

 それは小売業の基本戦略、「小は大と違うことをやる」という原則です。これを忠実に守っていることが大きいのではないでしょうか。 

 

 なぜこの戦略に至ったのか、そして企画以外にはどんな取り組みを行っているのか紹介していきます。 

 

■最大のライバル「ヤオコー」とは違うことをやる 

 

 ヤオコーは1890年に埼玉県比企郡小川町に「八百幸商店」として創業しました。創業130年を超える食品スーパーの老舗です。 

 

 ベルクは1959年に埼玉県秩父市に「主婦の店秩父店」としてスタートしました。創業65年の企業です。ヤオコーに比べたら歴史の浅い会社です。 

 

 結果的に売り上げもヤオコーにはまだ及びません。売り上げで1.7倍、利益で1.8倍の差があります。両社とも伸びていますから、なかなか差が縮まってはいきません。 

 

 だからこそ、ベルクとしては同じ埼玉県内を中心に店舗展開する先輩企業とは「違った戦略」をとらなければ、どうしても陰に隠れてしまうのです。その意味でもターゲットを変えて、おもしろいと言ってもらえる企画を次々と打ち出し、客層を変えようとしています。 

 

 結果的にこれは、両店の強い客層が異なることとなり、お互いに生存できる「共生」へとつながるのだと筆者は考えます。 

 

 

■こんなに髪型が自由なスーパーはない 

 

 ベルクが他と違った企画を打ち続けるためには、それを実行する従業員が、企画を楽しみ、現場でやりきる必要があります。そのためには働く従業員の働きやすさを会社が担保する必要があります。 

 

 その結果、ベルクは一般的なスーパーよりも、徹底的に働きやすい環境づくりに力を入れています。その代表的なものが2023年に発表した従業員の身だしなみ基準の大幅緩和です。これまでの基準を見直して、ベルクの安全・衛生上のルールの範囲内ではありますが、ほぼ自由になりました。 

 

 頭髪は髪色の種類や明るさ、髪の長さやパーマ等の制限をなくし、自由なカラーリングや髪型がOKになりました。ヘアアクセサリーの装着も可能、ピアス、指輪、ネックレス等の装飾品もOKです。ネイルもOKとなり、普段オシャレをしている人にはうれしい身だしなみ緩和です。 

 

 これによって実際に「髪色を明るく染めるため退職を申し出たが、身だしなみ基準の緩和を知って退職の撤回をお願いした」(ベルクプレスリリース資料より)という従業員も出てきており、優秀な人材の流出防止にもつながっているようです。 

 

■イスに座ってレジOK 

 

 また、最近、ベルクでは一部店舗でレジに椅子を導入し、レジで座って接客できるようにする取り組みも始めています。 

 

 24年に入って他の小売業でも少しずつ広がり始めている取り組みですが、「レジは立ってするもの」という固定観念を崩し、レジ担当者の身体的・心理的負担を軽減し、より良い接客ができるようにするベルク独自の取り組みです。 

 

 また最近新たに取り組みを始めたのが「従業員遺族サポート制度」です。 

 

 ベルクで働く従業員で子どもを扶養していた方が亡くなった場合、遺族家庭の経済的負担を軽減するために、「遺児育英支援金」(最大642万円)を支給するという制度です。同時に遺族就業サポートとして、遺された遺族がベルクのどこかの場所で働けるような機会も提供しています。 

 

 

■イオンと業務提携 

 

 ベルクはおもしろ企画を次々と打ち出して新しい客層を取り込み、かつ、従業員の働きやすさの追求に貪欲な企業です。 

 

 そう変化したのは原島社長が大学卒業後3年間の修行先からベルクに戻った時に始まります。 

 

 当時、店舗数は30数店舗で、1年間に6~7店舗出店していたそうです。現在は130店舗を超える規模ですが、当時も今と同じくらいの出店スピードで現場に人が足りず、教育も十分にできていない状態で退職も多かったようです。 

 

 人が足りないので商品補充なども十分にできず売り場が荒れ、既存店の売り上げも前年割れが続く状況。 

 

 そこで、店長レベルを一定以上に保つための社員教育と、仕事の仕組み化、標準化を進めようと考えたのです。 

 

 修行先だった「しまむら」から学んだ店舗数が増えても売り場の質が維持できる仕組みづくり、加えて2006年にイオンと業務提携し、大手量販店の仕組みも勉強。 

 

 2016年には社員教育専門施設「ベルクトレーニングセンター」を埼玉県寄居町に開設し、年間を通して社員教育ができるように整えました。こうした社員教育の充実によって、標準化された売り場を維持できるようになり、高い生産性を実現することが可能となりました。 

 

■ベルクとは真面目なスーパーである 

 

 こうしたベースが出来上がったことで、売り場の標準化が維持され既存店の売り上げが伸び続けるようになりました。この土台が出来上がったことで、競争力のある取り組み、つまり、おもしろ企画を実践できるようになりました。 

 

 結果として、1店舗あたりの売り上げが上がり、従業員一人当たり売上高は3702万円(2024年2月期)と業界平均の1.28倍に引き上がりました。 

 

 戦略の基本は「違い」を作って、それを「つなげること」です。ベルクはそれを人によって作り上げているスーパーと言えます。 

 

 ベルクとは飛び道具でおもしろ企画を打つ変わったスーパーではなく、高い生産性を背景に、安定した店舗売上を維持することを可能にしている、実に真面目なスーパーです。 

 

 Better Life with Community ~地域の社会の人々に より充実した生活を~。 

 

 これがベルクの経営理念です。 

 

 従業員を大切にし、地域の人々のためにできることを人の能力を最大限に発揮する環境を整えて実行する。そんな「人」を中心においた経営をするベルクに今後も注目していきたいと思います。 

 

 

 

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岩崎 剛幸(いわさき・たけゆき) 

経営コンサルタント 

1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。 

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経営コンサルタント 岩崎 剛幸 

 

 

 
 

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