( 221224 )  2024/10/11 16:51:06  
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「やきとり大吉」が新モデル「白い大吉」へのリブランディングを進めており、この新しい取り組みは店主の高齢化と店舗減少を打破することを目指している。

経営母体であるダイキチシステムは若い店主の育成や新規出店に注力していますが、平均年齢がなかなか下がらず、課題が続いています。

2023年にはサントリーホールディングスからエターナルホスピタリティグループが鳥貴族を買収しており、グループ間の連携も進んでいます。

店主の若返りや顧客の若返りを最優先課題とし、「白い大吉」や新たな契約方式など様々な施策を導入しています。

グループ内での相互協力や海外展開の検討も進めつつ、今後の成長を目指しています。

(要約)

( 221226 )  2024/10/11 16:51:06  
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やきとり大吉では、従来の「赤と黒の看板」というイメージから、新モデル「白い大吉」へのリブランディングを進めている。「入りにくい」という課題を解決する狙いがある(写真:ダイキチシステム提供) 

 

 一時は1000店舗あった「やきとり大吉」。だが、現在は491店舗に減っている。 

 

 原因は店主の高齢化だ。現在の店主の平均年齢は55歳。大吉では20年以上続けている店主が320人、約6割を占めており、70代、80代と歳を重ねている。そのため、体力が続かず閉店してしまうケースが相次いでいるのだ。 

 

【画像14枚】グッと入りやすくなった印象の、「白い大吉」の外観や店内の様子 

 

 大吉を運営するダイキチシステムはこの事態を食い止めるために、新規出店や若い店主の育成に注力している。しかし平均年齢がなかなか下がらず、開店数が閉店数にまだ追いつかない状況だ。 

 

 そんな最中の2023年1月、ダイキチシステムはサントリーホールディングスから、鳥貴族を運営するエターナルホスピタリティグループに買収された。 

 

前編ー鳥貴族が買収「謎の焼鳥チェーン」人情派な儲け方 赤と黒の看板の「やきとり大吉」は“経営の教科書”だーに続き、後編では、その経緯や訪れた変化と共に、店舗数と来客数拡大へ向けた動きを解説する。 

 

■サントリーから鳥貴族へ。突然の買収 

 

 買収は突然だったという。事前に相談はなく、サントリーホールディングスとエターナルホスピタリティグループの上層部で決定がなされていた。 

 

 あとで聞いた話によると、買収の目的はこんな内容だったそうだ。 

 

【画像14枚】最盛期から半減の「やきとり大吉」、反転攻勢の秘策は“白い大吉”、若者にも入りやすい店づくりと新しいメニュー 

 

 鳥貴族と大吉が合併すれば1000軒以上の大型チェーンになる。鳥貴族もセントラルキッチンを持たずに自店で仕込みを行っており、クオリティの高い焼鳥を出す日本のNO.1、NO.2の企業が合体することで、スケールメリットやアイデアを最大限に活かせるのでは? というものだ。 

 

 前編でも少し触れたが、元々、エターナルホスピタリティグループの大倉忠司社長が鳥貴族を開業したきっかけは、元大吉店主が開いた焼鳥店での修行だった。今でも大吉を非常にリスペクトしており、「一緒に日本の焼鳥界を盛り上げていきたい」という気持ちをずっと持っていたそうだ。 

 

 それにしても突然すぎる。情報漏洩を防ぐ意味では仕方なかったのかもしれないが、加盟店には複雑な思いもあるのではないか。 

 

 そう尋ねると、自身もサントリーホールディングス出身の近藤社長は、「最寄り駅から降りて、自分の店に行くまでの間に鳥貴族の前を通る店主は多くいます。ですからもちろん、驚きや戸惑いはあったのではないでしょうか。それでも大吉の看板を持ち続けてくれたのは、『自分たちは、地元密着の生業だから』と納得してくれたからかもしれません」と店主をおもんばかる。 

 

 

■生業主義とスケールメリットの融合へ向けて 

 

 2024年9月の取材時で、同グループになってから1年8カ月が経過した鳥貴族と大吉。まずは協力の一歩目ということで、焼鳥の串を共通化し、コストダウンする取り組みが始まっているそうだ。また、鳥貴族には店舗開発部があり、大吉にはないため、商圏調査や物件情報の入手ノウハウをもらうこともあるという。 

 

 けれど、それ以外については、どのようにスケールメリットを生み出し、アイデアの交換をしていくのか、まだ模索中とのこと。2ブランドは同じ焼鳥中心の業態だが、さまざまな点で違いもあるからだ。たとえば、鳥貴族の顧客は20~40代中心で、大吉は30代後半~60、70代中心。鳥貴族は、駅からの徒歩圏内や繁華街に店が多く、地下や空中階の店が多い。大吉は、住宅街の1階路面店だ。 

 

 さらに、鳥貴族は全651軒のうち400軒超が直営で、残り200軒超がFC店だ。FCに加盟するのは個人ではなくFC運営企業で、複数店舗を経営している。これに対し、大吉は全店個人FC店だ。広さも、鳥貴族は大吉の倍以上あり、そのためFCの初期投資額は重くなる。 

 

 店舗スタイルも運営形式も企業文化も違うのだから、一朝一夕に協業するのは難題だろう。しかし、そんな状況を打破するべく2024年7月、まずは東京と大阪のオフィスが合併された。鳥貴族も大吉もトリキバーガーも、グループ社員がワンフロアに顔を揃え、フリーアドレスで働く環境となったそうだ。 

 

 「毎日顔を合わせることで、シナジーが起きるのではというワクワク感があります。共同の販促キャンペーンをはじめ、さまざまなプロジェクトを始めようという話も進めています」と近藤社長。しかし一方で、商材やマーケティングについては議論を重ねていく必要がある、と慎重だ。 

 

■創業からの信念「仕入業者は大吉の宝だ」 

 

 近藤社長が慎重になる理由の1つに、あるポスターの存在がある。1978年3月、1号店のときから唯一、店内の壁に貼り続けているポスターだ。そこには、「仕入業者は大吉の宝だ。お客様と同じように感謝の気持で接しましょう」と書かれている。 

 

 

 これは創業から大吉が掲げるスローガンで、実際に店主にとっては、酒販店も鶏屋さんも宝のような存在だそうだ。特にリース契約で地元から遠い店舗の店主になった人にとっては、子供が熱を出したときに病院を教えてもらうなど、家族のように面倒を見てもらう間柄になることも少なくないという。人間対人間のつながりと信頼があるのだ。 

 

 「そこを一切遮断して、スケールメリットだけで物事を進めていくのが果たしていいのか」と近藤社長はためらう。もっともだ。ただ、店主によっては、「クオリティが高く、値段が安くなればいい」という人もいる。だからこそ、そこをどう進めるかは慎重に考えるべきなのだ。 

 

 新たな仕組みを作っても、それがどこまで現場に浸透していくか、全員に受け入れられるかは分からない。慎重さはイコール、店主それぞれに対する誠実さと言えるだろう。 

 

 一方でグループ内では、「グローバル焼鳥チェーン」として海外に打って出よう、日本の焼鳥をしっかり広めていこうという機運も高まっているという。 

 

 ただ、大吉としてはそこも慎重だ。現在、中国にも2店舗出店しており、そこはこれまで同様に地元の鶏店から仕入れている。つまり、日本と全く同じスタイル、同じ味での営業を貫いているからだ。 

 

 だが海外に広く展開するなら、そのスタイルのままでは難しい。卸業者と組んで、セントラルキッチンから配送するスキームに変える必要が出てくる。「今すぐにではなく、鳥貴族の海外出店の状況をしっかり見極めていきたい」と、近藤社長は前を見据える。 

 

■店主と顧客の若返りが最優先事項、秘策は「白い大吉」 

 

 そんな大吉が今注力しているのは、閉店を止める施策として、閉店を上回る出店数を確保し、店舗数を回復させることだ。そのためには何をおいてもまず、店主の若返りが必要である。 

 

 そこで2023年にスタートしたのが、「エリア指定リース方式」という新たな契約方式だ。この方式は、リース方式で2年間働き、保証金380万円を払えば、リース方式のまま地元の近くの店に移動できるというシステムである。 

 

 なぜこの方式が若返りにつながるのか。そこには、日本全体の高齢化の問題がある。ここ15年ほど、親の介護が必要になってきたり、親の面倒を見なければならないという店主が増えてきたのだ。そのため、新たに若者が「店を始めたい」となっても、どの店に配属されるか分からないリース形式を選べないという問題が出てきている。 

 

 

 しかし、2年働けばリース形式のまま親元に帰れるエリア指定リースならば、参入のハードルが低くなる。実際、すでに利用している店主もいるそうだ。 

 

 他方、店主と共に高齢化する顧客の若返りも図っている。そのなかでも象徴的なのが、2022年9月に登場した、リブランディング店舗「白い大吉」だ。 

 

 白い大吉は、その名の通り白と木目が基調となった明るい店で、窓から店内が見えやすい造りになっている。暖簾や提灯は白地に黒、シンプルな書体で「やきとり」「大吉」などの文字が入っている。これまでの大吉とはイメージが大きく異なる店舗だ。 

 

 このような店を作るに至ったのは、2021年、全国1万人に「大吉は世の中のお客様からどう見られているのか」というアンケートをとった結果を反映してのことだ。その結果、大吉の認知度は全国で非常に高かったそうだが、「入ったことがあるか」と聞くと極端にスコアが下がったそうだ。 

 

 さらに、「知っているけど行ったことない」人も多く、その原因で一番多かったのが、「中が見えにくい」「どんな店主がいてどんな雰囲気で、どんな席構成なのかが見えにくく、入りづらい」だったという。 

 

 「大吉の店主はよく『3回来た人は絶対常連にする』と自信満々に言うのですが、その最初のハードルが高いことが分かりました。そこで、最初の一歩を踏み入れてもらう店を開発したんです」(近藤社長) 

 

 白い大吉は現在、東京、神奈川、大阪、兵庫に9店舗あり、事業を検証するため、客層、客数、ABC分析などデータを取って検証中だ。現状、赤い大吉に訪れる顧客の女性比率が2、3割なのに対して、白い大吉は5割が女性。20代も取り込めているという。 

 

 また、白い大吉はメニューも「若者や女性に受けるものを」と、赤い大吉の焼鳥に加えて、ガリ・しそ・トマトを甘酢で味付けした「ガリしそトマト」など一品物を置いている。これらのメニューは、客の反応が良ければ赤い大吉へも随時移植しているそうだ。 

 

 「大吉には直営店がなく、テストキッチンもないので、これまで商品テストができませんでした。白い大吉はその役割も果たしてくれています」(近藤社長) 

 

 赤い大吉の店主からは、当初「こんなメニュー作れるかな」と不安の声もあったそうだが、顧客の好評を受けて、「これからもいいメニューがあったらうちにも回してね」とよく言われるのだとか。今後については白い大吉のデータを見定め、赤と白のすみ分けを考えていく構え。ただ、店主との会話から、すでに白と赤の大吉を回遊する客も出てきているそうで、幸先は明るい。 

 

 

 
 

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