( 221244 )  2024/10/11 17:09:21  
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中国本土株が9営業日連続で上昇し、政府からの景気後退懸念への対策が明確になったため、主要投資家が急速に買戻しを行った。

鉄鉱石などの商品市況にも影響が出ており、政府の経済政策に注目が集まっている。

しかし、中国の経済指標では工業利益が17.8%減少し、製造業PMIも低下傾向にあり、景気回復には疑問符がついている。

政府はこれまで国有企業への支援を重視してきたが、民間企業への支援が不足している可能性も指摘されている。

(要約)

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9月末まで中国本土株は9営業日続けて上昇した。 

 

9月24日の金融緩和、不動産支援策、株価維持策の発表、26日の中央政治局会議で明らかになった財政支出拡大方針の表明などを見る限り、中国政府はこれ以上の景気後退懸念の高まりは容認できなくなっていると考えられる。 

 

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主要投資家の一部は、中国の経済政策運営スタンスが変化したと判断し、これまで売りに回っていた本土株など中国関連の資産を急速に買い戻したようだ。中には、中国株を空売りし続けたところ想定を上回る経済対策発表に直面し、やむなく空売りした銘柄を買い戻さざるを得なくなった投資家もいる。 

 

また、商品市況にも影響は表れた。9月上旬、シンガポールで取引される鉄鉱石の先物価格は2022年以来の安値水準で推移していた。しかし9月30日、不動産市況の支援策などの発表を材料に鉄鉱石の先物価格は急反発し、一時11%近く上昇した。 

 

今回の経済政策の発表後、金融緩和、財政支出の拡大方針がこれまでより明確になったとの見方は強まっている。 

 

29日、中国人民銀行(中央銀行)は既存住宅ローンの金利を10月31日までに引き下げるよう銀行各行に指示すると発表。広州、上海、深圳、北京なども住宅購入規制の緩和や解除を相次いで発表した。政策対応のスピードはかなり速い。 

 

しかし、中国の景気が持続的に回復に向かうかは現時点で疑問符が付く。 

 

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気になるのが、中国の国家統計局が9月27日に発表した、8月の“工業部門企業利益(工業利益)”だ。工業利益とは、主な事業の年間売上高が2,000万元(4億円)以上の工業部門の企業収益を経済全体で集計したデータ。これが前年同月比で17.8%減と大幅な落ち込みを見せているのだ。 

 

30日に発表した製造業PMI(購買担当者景況感指数)も、景気の回復と減速の境目である50を下回った。製造業の景況感は5カ月連続で悪化していることになる。 

 

さらに、9月後半以降に政府などが発表した中国関連のデータを確認すると、個人消費、設備投資、雇用・所得環境など経済の基礎的な条件(ファンダメンタルズ)も悪化の一途を辿っている。 

 

おそらく、中国政府にとってもこううした景況感の悪化は想定以上だったのではないか。中でも、前述の工業利益の減少幅は大きく、中国政府にとっても都合の悪いデータだったはずだ。 

 

近年、中国政府は民間企業のリスクテイク支援よりも、国有、国営企業などに対する産業補助金や工場用地などの供与を優先してきた。EV分野のBYDや通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、半導体受託製造企業の中芯国際集成電路製造(SMIC)など政府との関係が強固といわれる民間主要企業向けの支援を厚く実施し、政府主導の経済運営を推進したと考えられる。 

 

中国政府はこれらの支援等を通じて国内企業の世界市場におけるシェアを高め、外需を取り込もうとしてきたのだろう。輸出が増えて企業業績が拡大すれば、雇用や所得の機会は増加し、個人消費も下支えされるからだ。 

 

ただ、供給サイド重視の中国政府にとって、工業利益の大幅減は、年初来に実施したEV販売補助金の拡充などの支援が、十分な効果を発揮していないことを意味するのではないか。 

 

 

政府の指針通りに主要メーカーの利益が増えていない状況が続くと、中国の国民は政策の効果を疑問視するようになるだろう。 

 

そうしたリスクに対応するため、前出の工業利益発表後の29日、中国人民銀行は住宅ローンの引き下げを迅速に行うよう国内行に指示したと考えられる。広州市などの住宅取得規制の緩和発表にも、工業利益の落ち込みなどは影響したのだろう。 

 

とはいえ、住宅分野においても都合の悪いデータがすでに出ている。9月30日、中国房産信息集団(CRIC)が発表した速報値によると、9月の大手不動産デベロッパー100社の新築住宅販売額は前年同月比37.7%減だった。 

 

住宅価格の下落に歯止めがかかるには時間を要するとの懸念は高まっている。 

 

中国政府はこの問題に対しても、住宅在庫の圧縮、家計の住宅ローン負担軽減、生産活動の持ち直しなどを目指し、追加の経済対策を打つことになるだろう。金利の引き下げや住宅、耐久財の購入支援の拡充などは当然考えられる。 

 

今後も、雇用や所得、個人消費の環境が悪化すれば、追加の対策を打つと予想される。 

 

しかし、中国政府がいくら人々の心理から先行き不安を払拭しようとも、国内には手付かずの大きな問題が横たわっている。そしていまだに中国政府は解消に乗り出そうとしていない。 

 

つづく記事〈このままでは中国が「不況」を世界各国に輸出しかねない…!中国のハリボテ経済が抱える「恐ろしい爆弾」〉では、その大問題について解説する。 

 

真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授) 

 

 

 
 

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