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競馬界では若手騎手がスマートフォンの持ち込みで問題を起こしており、スマートフォン使用を防ぐための対策が必要とされている。

日本中央競馬会(JRA)が競馬場やトレーニングセンターの調整ルームでスマートフォン持ち込みを禁止しているが、このルールが十分な効果を持っているか疑問視されている。

藤田菜七子騎手の引退報道を受けて、スマートフォン問題の根本的な解決策が必要との声もあがっている。

(要約)

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コパノキッキングに騎乗し、フェブラリーステークスでGⅠレースに初挑戦した藤田菜七子騎手=東京競馬場で2019年2月17日、丹治重人撮影 

 

 騎手によるスマートフォンの不適切使用が後を絶たない。日本中央競馬会(JRA)では八百長の防止対策として、騎手は競馬開催前、外部と接触できないよう競馬場やトレーニングセンターにある「調整ルーム」で過ごすことが義務づけられ、通信機器の持ち込みが禁止されている。 

 

【写真で見る】藤田菜七子騎手のあゆみ 

 

 昨年5月、今村聖奈騎手(20)ら10~20代の騎手6人がスマートフォンの持ち込みで騎乗停止となり、今月7日には永野猛蔵騎手(22)と小林勝太騎手(21)が騎乗停止の処分を受けた。女性騎手としてJRA最多の166勝を挙げた藤田菜七子騎手(27)も10日に騎乗停止処分となり、引退届を提出した。 

 

 スポーツ倫理に詳しい友添秀則・環太平洋大教授は「JRAは枝葉の議論ではなく幹の部分をしっかり見直してほしい」と話す。【聞き手・宮城裕也】 

 

 ◇ルールが「旧時代的」 

 

 ――藤田騎手の引退報道をどう受け止めたか。 

 

 ◆競馬界やファンにとって大変残念な出来事。ただ、競馬は賭け事の対象で、他の競技の選手より公正性の担保について最も重い責任を負っていると言っていい。 

 

 JRAは引退を勧告したわけでもなく、他の騎手も同様の処分を受け入れ、裁定はこれからという中、なぜ引退するのかは本人が説明責任を果たすべきだ。 

 

 ――昨年から若手騎手のスマートフォンの持ち込みが相次いで発覚している。 

 

 ◆公営競技のプロ騎手としての責任は重いという自覚が足りないことを、JRAはこの時点(昨年5月)で再考しないといけなかった。 

 

 公平性が少しでも疑われないよう振る舞い、責任を果たすなど、騎手の意識付けがしっかりなされているのか、疑問に思わざるを得ない。これではJRAのコンプライアンス(法令順守)教育が疑われる。 

 

 ――不正防止対策としてのスマホ持ち込み禁止のルールは妥当か。 

 

 ◆JRAがルールと決めている以上、現状のルールに同意した上で違反した騎手側に非はある。 

 

 一方、本当に八百長をしようと思えば、調整ルームに入る前に外部と接触すればいい。調整ルームに入れば本当に八百長は防げるのか。調整ルームへの持ち込み禁止は有効なのかは検証しないといけない。 

 

 エビデンス(根拠)がないまま重罰を科しては若手騎手の生活の権利を奪うだけで、ルールを守る意識にはならないだろう。処分だけでは根本的な解決策になっていない。 

 

 例えば、賭けの対象となる競技にかかわる責任の意義、自覚教育がなされるべきだ。 

 

 ◇スマホは「我慢の対象」ではない 

 

 ――ルールが形骸化していたという指摘もある。 

 

 ◆今後、通信機器はますます発達し、より高度なものができれば、持ち込みのいたちごっこが始まるだけだ。調整ルームで外部との連絡は遮断しきれない。 

 

 であれば、他の競技とは違う、公営競技の騎手としての責任や自覚、倫理教育を徹底しなければならない。制度を見直すべき時期だ。 

 

 スマホはもはや我慢すべき対象ではなく、生活に当たり前のものでルール自体が旧時代的。JRAは枝葉のことばかり言っているが、幹の部分についてしっかり見直す議論をしてほしい。 

 

 ――公営競技に関わる騎手の側には何が求められているのか。 

 

 ◆反社会的勢力や利益相反する関係者との接触禁止は当然のこと、自分たちの責任の重さを自覚すること。一つ一つの行動や公平性を脅かすととらえられることに敏感であってほしい。 

 

 もちろんJRAも倫理教育をしているが、騎手がしっかり自覚するよう徹底すべきだ。見逃したり許したりすれば競馬そのものが瓦解(がかい)する危機意識はあると思うが、6騎手の処分のタイミングでなぜそれがスルーされたのか。違う方向に行っている気がする。 

 

 ◇ともぞえ・ひでのり 

 

 大阪府出身。筑波大大学院修了。博士(人間科学)。香川大教授、早稲田大教授、日本オリンピック委員会常務理事などを歴任。専門はスポーツ倫理学。 

 

 

 
 

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