( 222129 )  2024/10/14 01:39:24  
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デフレの影響で車の維持費が上がり、ガソリン車から電気自動車(EV)への乗り換えが進む一方で、EVに乗り換えるとドライバーが過失事故や物損事故で損害賠償請求を受ける可能性が高まることが明らかになった。

EVの事故率は高く、修理費用が増えることも。

ただし、EVは燃料費が削減でき、定期的なメンテナンスコストが下がる利点もある。

社会のエコカー化のトレンドには進展が見られる。

(要約)

( 222131 )  2024/10/14 01:39:24  
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EV(画像:Pexels) 

 

 最近のデフレの影響で、クルマの維持費は年々上がっている。維持費には必ずかかる費用のほか、交通事故や物損事故の補償金、車体の修理費、交通違反の罰金など、クルマに長く乗るうえで避けられない出費のリスクがある。 

 

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 一方、海外市場を中心にガソリン車から電気自動車(EV)への乗り換えが進んでいるが、維持費や出費の面ではどんな変化があるのだろうか。 

 

 新しい研究によると、EVのドライバーはガソリン車やディーゼル車のドライバーよりも過失事故や物損事故で損害賠償請求を受ける可能性が高いという。つまり、ガソリン車からEVに乗り換えた人は、 

 

「自己過失による事故を起こしやすくなっている」 

 

ということだ。 

 

EV(画像:Pexels) 

 

 アイルランドのリムリック大学アイルランドソフトウエア研究センター(Lero)とスペインのバルセロナ大学の調査によると、EVのドライバーはガソリン車のドライバーよりも過失責任の請求を受けやすいという結果が報告されている。 

 

 この研究では、オランダで2022年1月から10月までの間に1万4642台のクルマが走行した1億2500万回のデータと、その期間の保険請求データを照らし合わせて分析した。 

 

 EVはガソリン車と比べて機械部品が少なく、リチウムイオン電池やペダル・トランスミッションの制御の違いなど、構造が大きく異なる。この違いが 

 

「運転感覚」 

 

に影響を与えており、ガソリン車からEVに乗り換えると、運転スタイルも大きく変わるとされている。 

 

 ドライバーの運転行動を分析すると、EVやハイブリッド車(HV)は、ガソリン車よりも急加速や急ブレーキが少なく、コーナリングではカーブの曲率が緩くなることがわかった。その結果、スピード違反が少なくなる。つまり、ガソリン車からEVに乗り換えると、全体的に安全運転になるということだ。さらに、EVはガソリン車よりも走行距離が短いこともわかっている。このことから普通に考えれば、 

 

「EVは事故を起こしにくい」 

 

と思える。しかし、興味深いことに保険請求データを分析すると、EVの過失事故率は明らかに高くなっていたのだ。 

 

 

EV充電(画像:Pexels) 

 

 研究チームが過失責任の請求を分析した結果、ガソリン車と比較して、 

 

・EVの事故:4%増加 

・HVの事故:6%増加 

 

していることがわかった。HVの高い事故率が気になるが、統計モデル(ロジスティック回帰モデル)を修正すると、HVの懸念は解消されるという。しかし、EVの事故率はそのまま残る。つまり、EVは 

 

・走行距離が短く 

・安全運転である 

 

にもかかわらず、ガソリン車よりも 

 

・過失事故が多く 

 

発生しているのだ。今後、EVの平均走行距離が増えると、さらに事故が増える可能性もある。 

 

 EVのモーターとガソリン車のエンジンでは、パワーが出るトルクの特性が異なる。EVはスタート時や加速時の反応が鋭く、ガソリン車の運転に慣れたドライバーは、EVの運転に適応するのに時間がかかるとも考えられる。 

 

 もちろん、事故を必要以上に恐れることはないが、EVへの乗り換えで事故が増えているという今回の研究結果は、該当するドライバーが頭の片隅に置いておくべきことだろう。 

 

EV(画像:Pexels) 

 

 総合的な維持費を考慮すると、事故で自損した際のEVの修理費用の高さが今回の研究でも指摘されている。 

 

 調査によると、事故でダメージを受けたEVとHVの3分の1以上が、1000ユーロ(約16万円)を超える損害を被っていることがわかった。この修理費用はガソリン車よりも 

 

「6.7%高い」 

 

という。 

 

 さらに、EVのタイヤのコストについても懸念されている。EVは同サイズのガソリン車に比べて平均で約30%クルマ重が増えているため、同じタイヤを使うと摩耗が早くなる。 

 

 もちろん、積載する荷物の量や走行スタイルによってもタイヤの摩耗は変わるが、重いEVのほうが相対的に摩耗しやすいのは事実だ。摩耗耐性を強化したEV専用のタイヤも開発されているが、一般的なタイヤよりも価格は高い。 

 

 自動車保険についても見てみよう。基本的に自動車保険料においてEVとガソリン車の区別はないが、実際にはEVのほうが若干保険料が高いとされている。これは、同じサイズのモデルであれば、平均的にガソリン車よりもEVのほうが車両価格が高いためだ。 

 

 今後、もしEVの事故率の高さが認められると、EV用の保険料が設定される可能性もある。実際に、中国では2021年末から新エネルギー車(NEV)専用の自動車保険が販売されており、同クラスのガソリン車と比べて保険料が1~2割高いといわれている。保険の更新時に大幅な値上げが行われたとの報告もある。 

 

 

論文「Are electric vehicles riskier? A comparative study of driving behaviour and insurance claims for internal combustion engine, hybrid and electric vehicles(電気自動車はより危険なのか? 内燃機関、ハイブリッド車、電気自動車の運転行動と保険請求の比較研究)」(画像:リムリック大学、バルセロナ大学) 

 

 このように、ネガティブな話題が多い“EVかいわい”だが、その設計思想が私たちの社会にメリットをもたらすことを忘れてはいけない。 

 

 まず、EVの最大のメリットは 

 

「燃料費の削減」 

 

だ。さらに、部品が多いガソリン車よりもメンテナンスが容易なため、今後EVが普及すれば、定期的なメンテナンスにかかるコストが大幅に低下する未来が期待されている。 

 

 また、行政による各種普及刺激策も続いている。EV補助金や優遇税制、法人向けのEV充電器設置補助金などが用意されている。さらに、アクサダイレクトの「EV割引」や、各保険会社の“エコカー割引”も提供されている。 

 

 今回の研究では、EVに乗り換えることで安全運転になる傾向があることも指摘されている。これにより交通違反が減少し、反則金のリスクが低くなる可能性がある。 

 

 EVの普及にともない、そのメリットはますます大きくなっていくと考えられる。また、二酸化炭素排出量の低減という本来の目的も進んでいく。紆余(うよ)曲折や一時的な停滞、軌道修正があるかもしれないが、社会のエコカー化は揺るぎないトレンドであることを確認しておきたい。 

 

仲田しんじ(研究論文ウォッチャー) 

 

 

 
 

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