( 222429 )  2024/10/15 01:09:01  
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石破首相が前言を撤回したことで市場は安定し、石破首相の経済政策に疑念を示す声もある。

石破新政権が発足し、為替市場では初めは円高になったが、後に安定した。

石破首相は金融政策を慎重に運営する姿勢を見せ、日銀の追加利上げには消極的だ。

安倍政権以来の路線を継続する方向性が見られるが、経済政策の不透明さや新政権の成長政策への懸念もある。

石破政権の地方創生や防災政策についても、長期的な経済成長への影響が懸念されている。

(要約)

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石破首相が「持論」や「前言」を撤回したことで、市場は落ち着きを取り戻している。だが、筆者は石破首相の経済政策に疑念を示す(写真:ブルームバーグ) 

 

 10月1日に石破新政権が発足した。為替市場では、9月末に高市政権誕生への期待から円安が進んだ後、「まさかの石破政権誕生」への落胆からドル円相場は一時141円台へと円高になった。しかし、その後、石破茂首相などは「経済政策は岸田政権を引き継ぐ姿勢」を強調。また植田和男日銀総裁との面談の後に、「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と語り、日銀の追加利上げに釘をさした格好になった。 

 

■支持率低下に直結、自説を引っ込めた石破首相 

 

筆者は前回のコラム「『石破新政権誕生』で、日本株は停滞しかねない」(9月27日配信)で、日銀が必要以上に利上げに「前のめり」になっているため、次回の金融政策決定会合(10月30~31日)での利上げを予想していた。 

 

 だが、石破首相などの発言を踏まえれば、政治情勢に敏感な植田日銀が10月会合で利上げに踏み出す可能性はかなり低下した。 

 

 石破首相は、就任前は安倍政権のもとで続いた金融緩和に批判を続けており、新著『保守政治家』では、「金利のつかないお金が大量に市場に出回ったことで、企業が金利負担という資本主義における付加価値創造能力を失い、安きに流れた面があった」と金融緩和政策に批判的な考えを示している。筆者は、この石破首相の本音はまったく変わっていないと推察する。 

 

 にもかかわらず、就任早々、前言を撤回して、日銀の追加利上げを牽制した。1つの理由は、石破政権が決まった直後に大幅な円高・株安となり「石破ショック」などと言われたことだろう。 

 

 3年前に岸田前政権が金融所得増税を撤回したが、やはり政権発足直後に経済政策転換への懸念から大幅な株安が起きたことが大きかった。同様の事態を目の当たりにした石破首相は、支持率低下に直結する時期尚早な金融引き締めに対して、警戒姿勢を示さざるをえなかったのだろう。 

 

 2つ目に重要な点は、石破首相が自民党総裁選挙に出馬する際に公表した政策集に、「経済あっての財政との考え方に立ち、デフレ脱却最優先の政策運営を行う」と明記していたことだ。これなら日本銀行の引き締めに慎重な姿勢を示すのは当然である。もちろん、「デフレ脱却最優先」というのは安倍政権以来の大原則であり、石破首相は賛同していないのだが、総裁選挙出馬の過程で自民党政治家らとの折衝を経て、石破首相は渋々ながらも受諾したのだろう。 

 

 

■安倍政権以来の路線は辛うじて「継続」したが…… 

 

 もちろん、総裁選挙の決選投票で勝利するためには、菅義偉元首相、岸田文雄前首相の支持を得る必要があった。特に、アベノミクス実現を支えてきた菅元首相らの経済政策の考えは強固で、これに石破首相が従ったのだろう。安倍元首相との関係が深かった加藤勝信氏が財務大臣に起用されたことも、安倍政権以来の財政金融政策運営の根幹がかろうじて続いていることを示唆している。 

 

 石破首相は10 月4日の閣議において、「総合経済対策」の策定を指示した際に、「デフレからの脱却を確実なものとするため、3年間の集中的な取り組みが必要」との考えを示した。この文言は、政府の経済認識と歩調をあわせて、金融政策を運営することを日銀に要求する意味合いがある。 

 

 筆者は、先に紹介した石破首相の新著の内容を踏まえて、同氏が首相となれば、金融財政政策が安倍政権以前へ逆戻りするリスクを警戒していた。 

 

 ただ、石破首相本人の経済政策に対する考えの根幹が弱く、「反安倍」の政策姿勢を示すために政治的な方便だった、ということなのかもしれない。また、すでに自らの派閥が弱体化していたこともあり、石破首相の側近には、マクロ経済政策を提唱するブレーンがいないので、菅、岸田両氏の影響が混在しており、それゆえにわかりづらいのかもしれない。 

 

 石破政権下での経済政策の転換への警戒が一転して和らいだだけでなく、アメリカ9月雇用統計の上振れ(10月4日)もあいまって、ドル円相場は直近では1ドル=149円台まで円安が進み、石破政権への疑念は低下している。 

 

■「減税」や「規制緩和」などの成長政策が期待できない 

 

 だが楽観は禁物だろう。まずは、岸田政権の政策が続くとすれば、経済成長を高めるために財政政策を機動的に発動する対応は期待できない。筆者は予想していないものの、仮に再度円安が進むことになれば、今度は金融引き締めへの要求が、よりあからさまに行われるのではないか。 

 

 また、石破政権の経済政策は独自色に乏しいのだが、地方創生と防災を重視している。具体的には、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増、また、専任の大臣も念頭に、防災庁の設置に向けた準備を進めるとした。こうした政策が実現すれば、長期的な経済成長押し下げ要因になると筆者は考えている。 

 

 

 なぜなら、地方政府への補助金拡大は、その分中央政府の支出が増えることになるが、地方への所得分配強化は市場メカニズムを阻害する副作用のほうが大きいと考えるからだ。また、防災庁の設置は、「霞ヶ関の仕事や権益」は増えるが、新たな組織を作るからといって、政策の実効性は必ずしも高まるとは限らない。こども家庭庁の創設(2023年4月)もそうだが、行政組織の肥大化を理由に将来の増税が行われる可能性が高まり、経済成長を下押しするだろう。 

 

 結局、経済成長を、短期的にも長期的にもサポートする政府の対応で有効なのは、家計部門への減税政策である。そして、長期的な経済成長を高めるには、規制緩和などの政策を地道に進めることも重要である。 

 

 だが、政権与党が長引き、自浄機能が失われた自民党政権では難しいのかもしれない。さらに、経済成長を明確に重視している高市氏を党内で支持する政治家は、政治資金不記載の問題で、政治力をさらに低下させつつあることも、無視できないリスクある。 

 

石破首相の「前言撤回」によって、株式や為替市場は落ち着きを取り戻した。だが前向きな経済政策はまったく期待できないため、株式市場が新政権を好感する可能性は低い。10月27日の衆議院選挙を経てもこうした情勢は変わらず、日本株のリターンが米国株を下回り続ける状況は、2025年にかけて続くだろう。 

 

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています) 

 

村上 尚己 :エコノミスト 

 

 

 
 

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