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北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督は、選手の個性に合わせたマネジメントでチームを2位に押し上げ、多くのスター選手を育てて進化させた。

そのマネジメントスキルは、ビジネス・マネジメントの視点からも注目されており、選手に平等な機会を与えつつ、個性に合わせた厳しい接し方を行うことで、成長を促している。

一方、中日ドラゴンズの立浪和義監督は、ベテラン選手に対して贔屓的な場面もあり、ファンから不満の声が上がっている。

このように、選手との個別対応やマネジメントスキルの違いがチームの成績に影響を与えていることが示唆されている。

(要約)

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「個」に向き合い、「集団」をもひとつにする……そんなマネジメントスキルを持っている人は、プロ野球はもちろん、現実の企業にもそこまで多くないだろう(写真:東京スポーツ/アフロ) 

 

12日から14日にかけて行われたCSファーストステージにて、千葉ロッテマリーンズを2勝1敗で打ち破り、ファイナルステージへの進出を決めた北海道日本ハムファイターズ。 

今季が「監督3年生」だった新庄剛志監督は、チームを2位に押し上げたと同時に、多くのスター選手を育てた。その背景には、「選手の個性に合わせたマネジメント」が見られたと言えるだろう。 

そこで本稿では、前編ー新庄監督「6位→2位」若手を伸ばす育成力の本質 大原則「機会は平等に、評価は公正に」を守ったーに続き、新庄監督が行ってきたマネジメントの“すごさ”について、ビジネス・マネジメントのプロとともに振り返りつつ、考察していきたい。 

 

【画像】レイエス、郡司裕也…新庄監督は、選手に応じたマネジメントで才能を開花させた 

 

 選手たちに平等に機会を与え、成長を促し、時に厳しさも見せた新庄監督。健全な競争、公平な評価とともに新庄采配で目立ったのが、選手の個性に合わせた接し方である。 

 

■清宮の奮起を促した、新庄流マネジメント 

 

 メディアを通して見える範囲に限ってではあるが、代表的なのが清宮幸太郎への対応だ。 

 

 新庄監督は就任当初から清宮に対して厳しい態度で接し、2021年の秋季キャンプでは減量を提案。さらにホームランを打っても「痩せろと言わなかったら間違いなく凡打。ボスのおかげ」と愛のある“イジり”をしている。 

 

 その甲斐あってか、清宮は新庄監督初年度の2022年に自身初の2ケタホームランを放つと、以降も今季まで3シーズン連続の2ケタを記録。今季は規定打席こそ到達しなかったが、300打席以上に立って打率は3割ちょうど、長打率も大きく伸びるなど成長を見せている。 

 

 組織づくりや人材マネジメントに詳しい、経営コンサルタントの横山信弘氏は、次のように話す。 

 

 「多様性の時代に、画一的な対応をとるマネジャーは失格といわざるをえない。その点で、新庄監督は時代の雰囲気に合致したマネジメントスタイルを貫いているのでは。 

 

 一方で、選手の個性に応じた対応は一朝一夕にできるものではない。普段から選手の言動を細かく洞察して、向き合う姿勢がまず求められるものだ」(横山氏) 

 

 確かに、新庄監督はタブレットを駆使して自他問わず細かに選手を分析していると語っている。 

 

■その人に応じて、接し方を変えられるか?  

 

 そして、分析だけでなく、”人事”の際にフォローをしているのも特徴的だ。 

 

 たとえば、後半戦、清宮とともに打線を牽引した新外国人のレイエス。メジャーで2度の30本塁打を記録した長打力を誇るレイエスだったが、序盤は日本野球になかなか適応できず、不振から5月13日に2軍落ちとなった。 

 

 

 この処遇には、レイエスも「『帰る』とまで言っていましたよ」(新庄監督談)とのことだったが、2軍にいるレイエスとメールなどで連絡を取り、激励してきたことを明かしている。 

 

 ここで思い浮かぶのは、中日ドラゴンズの立浪和義監督だ。新庄監督と同じく、監督3年生だった今季、序盤こそ好調だったものの長続きせず、ふたを開けてみれば3年連続の最下位となった。 

 

 立浪監督について調べても、新庄監督のように選手に合わせた接し方をしていたという記事はなかなか見当たらない。 

 

 もちろん監督やコーチ、そしてフロントなどそれぞれに役割分担があるため、監督が細かくデータ分析をすべき、というわけではない。また、プロ野球ではドラフト戦略やFA、怪我人など様々な要因が複雑に絡まるため、監督の指導力だけで決してすべてが決まるわけではないのも事実だ。 

 

 ただ、選手と向き合い、能力を引き出すうえでは間違いなく重要であり、監督3年目の時点では、新庄監督のほうが上回っていた……というのは、客観的に見てほぼほぼ間違いないだろう。 

 

■立浪采配で目立ったベテラン起用への疑問 

 

 そんな立浪監督の采配では一部、贔屓のような場面があった。特に今季から加入した中田翔、中島宏之といったベテラン勢に対する“優遇”はファンからも不満の声が目立った。 

 

 中田は開幕当初こそ絶好調だったが、シーズンを終わってみれば、最後に打ったホームランは7月の4号。故障による離脱があったとはいえ、チーム再建のために同じ我慢をするのであれば若手を起用する手もあったのではないか。 

 

 中島も代打の切り札として期待されたが、ふたを開ければ安打はゼロ。好調の選手にかわって代打で出てくる場面もあり、ファンからは疑問の声があがっていた。 

 

 もちろん、低迷するチームの起爆剤として、これまでの実績があったり、他のチームで優勝経験があったりするベテランに頼るのは必ずしも悪いことではない。また、中田、中島が起用に応え、結果を出していれば、論調もまた違うものになっていただろう。 

 

 しかし、中田や中島を起用する一方で、同じベテランのダヤン・ビシエドは出場機会に恵まれなかったことを疑問視するファンも多い。今季から“日本人枠”となったかつての首位打者が、2軍の肥やし状態、しかも打率3割を記録しているのは見過ごせないだろう。 

 

 

 ここ数年、企業でもベテランの扱いに悩むケースは多い。横山氏は「あくまで一般論であり、決して中田選手や中島選手を否定するものではない」と前置きしたうえで、次のように指摘する。 

 

 「ベテランに対する先入観や遠慮が、適切なマネジメントをするうえでの壁となることは非常に多い。特に『年上部下』を抱えるマネジャーでは顕著だ。 

 

 例えば『一度部長にまで上り詰めたあの人に、こんな仕事は任せられない』と悩むケースが挙げられる。しかし、当の本人からすれば気にしていないことがほとんど。組織に貢献できるなら、どんなことでもやる覚悟のあるベテランは多い」 

 

 立浪監督が、ビシエドに対して「代打は、プライドが許さないかもなあ……」と思っていたのかは定かではないが(たぶん思ってなかっただろうが)、重要なのは、接する相手の年齢や過去の実績によっても、求められるマネジメントは変わってくるということだ。 

 

■初ホームランにオールスター 環境とマネジメントが選手を変える 

 

 両チームの話題といえば、昨シーズンの「2対2トレード」も記憶に新しい。それぞれの選手が新天地で活躍を見せているが、中でも出色なのがドラゴンズからファイターズに移籍した郡司裕也だろう。 

 

 ドラゴンズ時代は出場機会に恵まれなかったが、昨シーズンはプロ初ホームランを放つなど躍動。今季はオールスターゲームのファン投票で2位にほぼダブルスコアをつける票を獲得し、自身初の出場も果たした。 

 

 「私自身もそうだが、環境が変わることで能力が大きく変化するケースは多々ある。私自身、かつての職場で『できない社員』で、厳しい視線を注がれることが多かった。こうした評価はなかなか覆せないものだ。 

 

 しかし、転職によって過去をリセットしたことで、自信を取り戻すとともに成果を出せるようになった。もちろん環境を変えることが常に良いことではないが、ポジティブな効果をもたらすケースは非常に多い」(横山氏) 

 

 

 もちろん、トレードで移籍した経緯から考えると、もともとポテンシャルがあったのは間違いない。しかし、それをそのまま発揮し、選手が活躍するようになる背景には監督の手腕あってこそだ。郡司が大きく飛躍できた裏には、ここまで触れたような新庄流のマネジメントがあることは間違いないだろう。 

 

 監督3年目、2年連続最下位と共通点のある両チームだが、シーズンが終わった今、ドラゴンズは3年連続で最下位、かたやファイターズは6年ぶりのAクラスと明暗が分かれた今シーズン。要因の一つには、こうしたマネジメントの違いがあったといえるのではないだろうか。 

 

 CSファイナルステージ進出を決めた14日の試合後に行われたヒーローインタビューでは、ベテランリリーフの宮西尚生が新庄監督への感謝を述べるなど、チームがますます一丸になっている印象がある。 

 

 「個」に向き合い、「集団」をもひとつにする……そんなマネジメントスキルを持っている人は、プロ野球はもちろん、現実の企業にもそこまで多くないだろう。 

 

 新庄監督率いるファイターズの躍進は、われわれに実に多くのことを教えてくれるのだ。 

 

前編はこちら:新庄監督「6位→2位」若手を伸ばす育成力の本質 大原則「機会は平等に、評価は公正に」を守った 

 

鬼頭 勇大 :フリーライター・編集者 

 

 

 
 

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