( 223316 ) 2024/10/17 15:59:42 0 00 【写真】筆者撮影
衆議院選挙が公示された10月15日、和歌山2区で立候補した自民党新人の二階伸康氏は「本拠地」である和歌山県御坊市の選挙事務所で出陣式を行った。そこで、応援にかけつけた鶴保庸介参院議員はこう語った。
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「和歌山県連を代表する者の一人として、こういう選挙になりましたこと、残念でならない。この選挙に大義はあるのか」
二階俊博元幹事長が引退を表明し、その後継として選ばれたのは三男の二階伸康氏だった。ところが、石破首相が解散を表明し、解散が数日後に迫った10月5日、参議院議員の世耕弘成元経産大臣が衆議院への鞍替えを目指し和歌山2区から立候補することを表明したのである。
自民党公認の新人候補に対して、政府や自民党で要職を歴任したベテラン参議院議員が転戦してくる「保守分裂選挙」となったことで、和歌山2区は大混乱に陥っている。
鶴保氏は世耕氏の出馬に怒りを隠せない様子で演説を続けた。
「二階路線がダメだというのなら大義があると思います。和歌山のために仕事をしてきた二階俊博の路線が悪いというのなら、堂々と選挙に出てきてくださいよ。
ところが、この方(世耕氏)は私が『(和歌山)1区で出たらどうですか』とお願いしても、『自分は出ない』という。2区で出るというのは、二階伸康候補が公認となって以降じゃないですか。これは明らかに伸康さんに対して個人的に戦ってきているようにしか思えない。これが事実なんです。冗談じゃないですよ!これは我々の大義を示す戦いです!」
分裂選挙になったことについて、伸康氏も演説で苦しい胸の内を語った。
「街角に行きますと和歌山県中、私と相手候補の方のポスターが軒先に並べて貼られてある。こういうケースをもう何百箇所と目にしました。それを目にするたびに胸が苦しくなる。どうしてこういう状況になったのか、自問しながらも本当に地域の皆さんに申し訳ないと思いながらも、私は自由民主党から公認をいただいた立場としてこの場に立たせていただいています」
さらには、世襲批判を意識してか、こうも語った。
「私はどうしてもやりたいことがあるんです。この国のかたちを変える。一極集中を止めて、分散型の社会を作る。私はこれをやりたいんです。親父の跡を継ぎたいんじゃないんです。議員になりたいわけじゃないんです」
出陣式には二階俊博氏の姿はなかった。
世耕弘成氏(筆者撮影)
一方、無所属で初めての選挙となった世耕弘成氏は参議院議員としての26年間の実績を強くアピールする。16日に橋本市で行った出陣式ではこう語った。
「参議院議員に5回も当選させていただき、まだ61(歳)という状況。26年間の国会議員としての経験値を積み上げてきました。それもただの26年ではない。多くの議員は26年勤めてその中で一回だけでも大臣やれたら『良かったな』というのが普通の国会議員の人生です。
しかし、私はそうではない。26年間の後半はまずは内閣官房副長官として3年7ヶ月。その次の3年1ヶ月は経済産業大臣として日本の経済政策の総責任者をした。その後は参議院幹事長として4年半にわたってまとめた。官僚、経済の世界で広い人脈ネットワークを構築してきた」
また、演説では安倍晋三元首相の死後、昭恵夫人から形見分けとしてもらったという靴を履いて活動していると語り、自民党色を打ち出している。
「これは2007年に(安倍氏が退陣して)もう一回総理大臣になろうという時、山口県内を1軒1軒歩いたときの靴です。今回の選挙を通じて、私ももう一回立ち上がって、そして日本の政治の中枢にもう一回できるだけ早く戻って、和歌山のために、国のために仕事をする機会を獲得していきたい」
支持者を前に演説する二階伸康氏(筆者撮影)
世耕陣営からは「自民党の締め付けがきつい」という声が噴出している。田辺市での出陣式に駆けつけた田辺市議会議員の谷貞見氏(無所属)は言う。
「私は選挙では自民党を応援してきて、議会でも自民党系の会派にも所属しています。でも、選挙では自民党から推薦ももらっておらず、党員でもない。それなのに裏切り者だと言われる。自民党は締め付けが厳しく、本当は世耕さんを応援したいという人もいっぱいいるが、締め付けがめちゃくちゃきついので、動けないと言われます」
また、別の世耕陣営の関係者は語る。
「2区は広大な地域。だから世耕さんなんです。26年間の実績がある世耕さんじゃないと絶対に困る。建設業者から下請けの電気業者まで厳しい締め付けをしているが、最後は個人の判断になる。また、締め付けが多いと反発も大きいだろう」
それに対して、二階陣営からは鶴保氏と同様に「なぜ2区で出て分裂選挙にしたのか」という困惑の声が大きい。
伸康氏を支援する橋本市議会議員の岡本安弘氏(自民党)は語る。
「議会の中でも割れている。世耕候補にいっている人もいるし、表には出たくないという人もいる。市議会の中でも分断しているし、自分の支援してくれている方でも(世耕氏と)繋がりがあってということで、我々もやりにくいところがある。(どういう結果になっても)やっぱり気持ち的には禍根が残る形になる。一本化できたら一番良かった」
「故郷を思う気持ちは一緒だろうが、ならわざわざここで出るのか。同じ和歌山を思うんであれば1区で出ても故郷のためになるのに、そうじゃなくて2区にこだわるのは『本当に故郷のためを思ってくれているのか』と疑問視するところです。2区にこだわることで喧嘩する形になってしまった。それで本当に和歌山のためになるのかと我々も疑問に思う。喧嘩しちゃうと復党できるかも微妙なラインじゃないですか」
安倍元首相の靴を履いて選挙に臨む世耕氏(筆者撮影)
解散を前日に控えた10月8日。参議院本会議を終えた世耕氏を直撃すると、この点についてはこう答えていた。
「(自分の)ルーツであることに加え、政治の力を必要としている地域でありますから、国の支援をしっかり引っ張れる政治家が必要だと思っています。二階俊博先生はそれをずっとやってこられた。それを引き継げるのは私しかいない」
保守分裂の余波は公明党にも及んでいる。公明党がどちらの推薦も出していないのだ。どちらが公明票を取るかが勝負を分ける可能性がある。
伸康氏は「もしもご理解をいただけるのであれば、比例区には公明党の皆さんにもご支援をいただきたいと思います」と述べ、公明党への支援を求めた。
これに対して世耕氏は無所属であることからより踏み込んだ発言をした。
「私は今まで自分の演説で人生で一回も言ったことがないが、今回は無所属で自由ですから言わせていただく。みなさん、比例は公明へお願いします。これは私の戦略的な意味もあります。詳しくは言いません。ここは私人生で初めて言いますが、ここは今回戦略的にうちの後援者にはお願いしております」
自民党内だけでなく、支持者や公明党までをも巻き込んだ「紀州戦争」。どちらが勝っても県内でのしこりが残ることは確実だろう。
小川 匡則(週刊現代記者)
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