( 223714 )  2024/10/18 17:17:29  
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神戸市営地下鉄の海岸線は2023年度も20億円を超す赤字を抱えており、利用促進が進まず市の財政に暗い影を落としている。

路線は開業以来黒字になったことがなく、赤字幅を縮小するものの、他の路線の黒字では埋めきれず、経常損失は続いている。

背景には震災による人口減少、低迷する造船業、甘い需要予測などがあり、廃止も検討されているが、影響を受ける地域の従業員の通勤にも影響が出るなど、困難な状況が続いている。

(要約)

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新長田駅で出発を待つ海岸線の三宮・花時計前駅行き列車(画像:高田泰) 

 

 神戸市営地下鉄の海岸線が2023年度も赤字を続け、20億円を超す経常損失を計上した。利用促進は思うように進まず、市の財政に暗い影を落としている。 

 

【画像】これが「神戸市営地下鉄の海岸線」だ! 画像で見る 

 

 平日の午前7時台、通勤ラッシュの時間帯なのに、4両編成の車内はそれほど混雑していない。空席もところどころに見え、都会の路線と思えない雰囲気を感じる。9月中旬、市営地下鉄新長田駅(長田区)を出発した三宮・花時計前駅(中央区)行き列車。三菱重工神戸造船所前にある和田岬駅(兵庫区)で多くの乗客が降りたあと、車内はガラガラになった。 

 

 御崎公園駅(兵庫区)から乗車した女子大生(20歳)は三宮で阪急電車に乗り換え、兵庫県西宮市の大学へ通う。 

 

「この時間帯でも混雑しないからうれしい。でも、父はそのうち赤字で廃止されるのでないかと心配している」 

 

という。 

 

 この路線は2001(平成13)年に開業した市営地下鉄海岸線。新長田駅から三宮・花時計前駅までの下町を通る7.9kmに10駅が設置されている。しかし、開業以来単年度で黒字になったことがない。 

 

「日本の地下鉄最大の赤字路線」 

 

として有名だ。 

 

三宮の中心部から微妙に離れた三宮・花時計前駅(画像:高田泰) 

 

 市が9月市議会に提出した2023年度市高速鉄道事業会計決算によると、乗車人員は1日平均約4.8万人の1769万人にとどまった。前年度より7.1%増えたものの、コロナ禍前の2018年度に比べ、3.5%少ない。運賃収入は1日平均約633万円の 

 

「23億1867万円」 

 

2018年度を0.7%下回っている。 

 

経常損失は21億4974万円。コロナ禍が一段落したことで前年度の28億835万円より赤字幅を圧縮できたが、市交通局の別路線である西神・山手線と北神線の計1億2186万円の黒字ではとても埋め切れない状態。市営地下鉄全体の累積欠損は2023年度末で 

 

「854億円607万円」 

 

に達した。 

 

 海岸線は協力会社を含めて約8000人が働く三菱重工神戸造船所だけでなく、 

 

・約4400人が勤める川崎重工業神戸工場(中央区) 

・大型商業施設の神戸ハーバーランド(中央区) 

・観光名所の旧居留地(中央区) 

・プロサッカークラブ・ヴィッセル神戸の本拠地となるノエビアスタジアム神戸(兵庫区) 

 

の近くを通る。それなのに、低迷を抜け出せない。 

 

 

神戸市が廃止を要望したJR和田岬線の列車(画像:高田泰) 

 

 工事が始まったのは1994(平成6)年で、阪神・淡路大震災の前年に当たる。市は需要予測を開業年となる2001年度で1日平均8万人、2005年度で13万人と強気に打ち出したが、もくろみは大きく外れた。 

 

 実際の1日平均乗車人員は2001年度で約3万4000人(予測の43%)、2005年度で約3万9000人(同30%)と低空飛行を続ける。市は震災で大被害を受けた新長田駅周辺を再開発する一方、中学生以下の運賃を無料にして利用促進に力を入れてきた。2011年には兵庫区を走り、海岸線と競合するJR和田岬線の廃止をJR西日本に要望している。 

 

 しかし、1日平均乗車人員は5万人台に到達するのがやっと。思うような結果を出せないまま、コロナ禍でまた乗客が激減した。市交通局は2020~2023年度の4年間で129億円の影響が出たと見ている。しかも、コロナ禍が一段落したのに、コロナ禍前の乗客数に戻らない。 

 

 市が策定した2021年度から5年間の市営交通事業経営計画では、沿線の人口減少にともなって緩やかな乗客の減少を想定している。市交通局は 

 

「ライフスタイルの変化などで乗客数がコロナ禍前に戻らないことを前提に経費削減などを進めるしかない」 

 

と述べた。 

 

海岸線沿線の経済を支えてきた三菱重工神戸造船所(画像:高田泰) 

 

 海岸線がここまで追い込まれた背景には、 

 

「震災による人口減少」 

 

の影響が大きい。市全体が政令指定都市でトップクラスの人口減少に苦しめられるなか、特に深刻なのが郊外のニュータウンとともに、海岸線沿線などの下町。長田区は1985(昭和60)年の人口約15万人が2024年9月現在で約9万人に。兵庫区は約13万人が約11万人に落ち込んでいる。 

 

 沿線を支えてきた造船業の地盤沈下も深刻だ。三菱重工神戸造船所は2012(平成24)年で商船建造から撤退し、防衛省発注の潜水艦や航空、原発関連機器などを基軸にしたが、多くの協力会社従業員が和田岬を離れている。 

 

 三宮・花時計前駅がJRや私鉄、ポートライナーの駅が密集する三宮地区の中心部から約350m離れ、微妙に使いにくいことや、神戸ハーバーランドが一時、利用の低迷で大型店撤退が相次いだことも響いたと見られる。だが、最大の原因が 

 

「甘い需要予測」 

 

にあることは否定できない。2013年に就任した久元喜造市長は記者会見などで度々、海岸線を失敗と断じてきた。3月に開いた高校生との対話集会では廃止を検討したことがあることを告白し、市の需要予測に対し 

 

「どれだけ鉛筆をなめたのか」 

 

と需要の水増しを示唆して首をかしげる一幕があった。 

 

 しかし、海岸線を廃止すれば三菱重工神戸造船所など和田岬駅近くで働く従業員の通勤に影響が出るほか、バスに切り替えるとしても運行本数が膨大になるとして、簡単に廃止できない苦しい胸の内も打ち明けている。 

 

 震災前の関西で神戸の街は、若者のあこがれだった。海岸線の工事に着手したころは既にバブル経済がはじけていたが、市OBは 

 

「すぐに景気が回復し、神戸を目指して多くの若者がやってくるという根拠のない自信や楽観論があった」 

 

と説明した。甘い需要予測の背景には“神戸ブランド”への過信が見え隠れする。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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