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日本の新聞社で10年働き、未婚で息子を出産した経済ジャーナリストの浦上早苗さんが、中国での生活やトイレにまつわるエピソードを記録した『崖っぷち母子、仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』から抜粋。

中国での生活ではトイレが異なり、衝撃を受けたことや日本との違いについて綴られている。

(要約)

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中国の和式トイレ(写真:ZUMA Press/アフロ) 

 

新聞社で10年ちょっと働き、未婚で息子を出産。日常生活に疲弊を感じ、追い詰められる中で息子とともに日本を飛び出すことを決断した、経済ジャーナリストの浦上早苗さん。向かった先の中国での日々や出会った人々との交流を記録した『崖っぷち母子、仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』から、トイレにまつわるエピソードを一部抜粋・再構成してお届けします。 

 

【写真で見る】周囲から丸見え…スケスケのトイレや、ドアがないニイハオトイレ。 

 

■お尻が開いたズボンに衝撃受ける 

 

 中国で暮らしたことのある日本人なら誰でも、スベり知らずのトイレのエピソードを複数持っているはずだ。 

 

 トイレ中の挙動を人に見られるのは恥ずかしいですか? と聞いたら、日本人は「なんでそんな当たり前の質問をするんだ」と不審に思うかもしれない。猫だってトイレ中は見られたくないと聞く。 

 

 しかし中国に来てからは、「生理現象に恥ずかしいも何もない」「尿意は公共マナーに優先する」という価値観があることを学んだ。 

 

 トイレトレーニングが終わっていない子どもがよく穿いていたのが、股がぱっくり割れたズボン。おむつの国からやってきた日本人にとっては、非常に当惑する代物だった。 

 

 どんなものか知りたければ、「中国 股割れ」「中国 尻割れ」で検索したら、たくさん画像が出てくるのでぜひ見てほしい。 

 

 このズボンを穿いていると、子どもが尿意や便意を催してもぱっと抱き上げて、その辺におしっこさせられる。親からすればたしかに手間がかからないし、ある意味エコだ。だがその瞬間を見た日本人は一様にショックを受け、「中国の洗礼」的存在になっていた。 

 

 息子のソウはこのズボンを「尻割れズボン」と名づけ、道端で発見すると大興奮し、気づかれないように近づいて身をかがめて下からのぞきこんだ。 

 

 私が中国で暮らした6、7年の間に、中国人のライフスタイルは急速に変化し、おしゃれなカフェも増えたが、中高年者の行動はあまり変わらなかった。 

 

 あるときはカフェのテーブルの上で1、2歳の子どもをおしっこさせるおばあちゃんを目撃した。おばあちゃんは子どもがおしっこを出し切ると、何事もなかったように去って行った。 

 

 片付けに来た店員がテーブルに撒かれた水分を見て「何これ」と言っているので、「さっきの人たちがおしっこしていった」と教えてあげると、その店員は「ごめんなさい。本当にごめんなさい」と私に謝り、カウンターの奥から洗剤やモップを持ってきた。 

 

 

■ドアや仕切りがない「ニイハオトイレ」 

 

 ショッピングセンターのゴミ箱を便器に見立て、子どもを抱えておしっこをさせる親もいた。彼らは「子どもに我慢をさせてはいけない。出したいときはすぐ出す!」と信念を持っているかのようだった(おむつをしていないので、相対的に被害の少ないところを選んでいたのかもしれないが)。 

 

 子どもだけではない。若い女性も学校やデパートのトイレに入るときに鍵をかけないことがよくあった。うっかり開けると、目が合ったその人が便器に座ったまま「いるよ~」と答える。こっちは「見ればわかるわ」と気まずい気持ちになる。 

 

 そもそも中国のトイレにドアや仕切りが設置されたのは、比較的最近のことだ。田舎にいくと今でも、世界に名をとどろかせる便器が並んだだけの公共トイレ、通称「ニイハオトイレ」は普通にある。首都の北京にすら残っていた。 

 

 用を足しながらおしゃべりする風習はドアができてトイレが個室になってからも引き継がれ、デパートのトイレではそれぞれ個室に入った女性たちが、大声で喋っていた。 

 

 トイレと排泄をめぐる疑問はまだまだある。和式トイレの配置も、謎だった。 

 

 日本の和式トイレは個室のドアを横に見る方向に便器が配置されているのが普通だ。一方、中国の和式トイレは、しゃがんで用を足しているときに個室のドアが目の前に来る配置が多い。 

 

 個室に入って回れ右して便器をまたぐので、効率が悪い。なぜかトイレットペーパーホルダーと洗浄ボタンは奥の壁にあったりするので、しゃがんだまま体をひねって紙を引っ張らなければいけなかった。 

 

■謎の和式トイレの配置に対する仮説 

 

 「中国の和式トイレってなんで利用者の道線を考えていないんですかね」と、私より中国在住歴が長い日本人男性に言うと、彼は「それは……敵に後ろをとらせないためじゃないかな」と答えた。 

 

 トイレに長らくドアや仕切りがなかったのは、最も無防備になる瞬間に敵の来襲に備えるためで、ドアのあるトイレでも何らかの理由でドアが開いたときにすぐ対応できるように便器が配置されているのではないか。人に見られて平然としているのも、警戒心が羞恥心を上回るからではないかというのが中国生活十数年の彼が導き出した「仮説」だった。 

 

 たしかに、中国人にとってトイレが無防備になってしまう、できるだけ早く立ち去りたい場所であるなら、清潔感がないのも、鍵をかけないのもつじつまがあう。 

 

 

 日本人はどちらかと言うとトイレを「くつろぎ」「おもてなしの場所」と考えており、リビングや寝室と同じように飾るし、公共トイレでもスマホを見ながらだらだらと過ごしたりする。 

 

 もはやトイレというより多目的スペースだ。誰もが絶対に使う場所だからこそ、国民の歴史や気質が反映されているのかもしれない。日本のトイレは、平和と安全の象徴でもあるのだ。 

 

 ガラケー全盛期、グーグルマップなど誰も知らない時代。中国に住む日本人女子が集まると、「きれいなトイレがわかる地図が欲しいよね」という話になった。 

 

 中国に住んでいてつらいのは、公共トイレのカオスぶり。オブラートに包まず言えば、とにかく汚い。ドアを開けるときに、相当な覚悟をしなければならない。私は中国基準でいえば比較的キレイな留学生専用校舎のトイレさえ、ほとんど使わなかった。 

 

 観光地には有料トイレがあることも多いが、手を洗うときに中年の女性が私に代わって蛇口をひねったり手を拭くティッシュを手渡したりしてくれたり、とにかく期待とは違うところに投資がされていて、「そんなところに人件費かけなくていいから、トイレをもっときれいにして、ついでにトイレットペーパーをセットしてくれ!」と叫びそうになったこともある。 

 

浦上 早苗 :経済ジャーナリスト 

 

 

 
 

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