( 224004 )  2024/10/19 15:42:26  
00

10月15日に告示された衆院選で、石破茂首相率いる自民党が与党で過半数を維持できるかが最大の焦点となっている。

しかし、自民党は裏金問題に関連する前議員の非公認や船出を祝う4万円台回復などで逆風に直面している。

また、国民の裏金問題に対する厳しい目も石破内閣の支持率に影響を与えている。

自民党は補選で野党を上回る状況を目指しており、衆院選後は保守層の離反や高市早苗氏の存在など、石破氏が直面する厳しい戦いが予想されている。

(要約)

( 224006 )  2024/10/19 15:42:26  
00

(c) Adobe Stock 

 

 石破茂首相(自民党総裁)が断行した早期解散に伴う衆院選が10月15日告示され、同27日の投開票に向け選挙戦がスタートした。最大の焦点は、自民党と公明党が「与党で過半数」(233議席)を維持できるのか否かだ。ただ、自民党は派閥パーティー収入不記載問題を受けて逆風の中にあり、与党は公示前からの大幅減も予想されている。選挙分析に定評がある経済アナリストの佐藤健太氏は「議席減が響けば、石破内閣の“余命”は最速で1カ月、遅くても半年ちょっとになるだろう」と見る。戦後最短の衆院解散・総選挙は“石破おろし”の号砲となるのかーー。 

 

「政治とカネ、パーティー収入の不記載、そういうことが2度とないように深い反省をもとに選挙に臨む。『日本創生』そのための選挙だ。必ずもう1度、新しい日本をつくっていく」。福島県いわき市で自民党総裁として第一声をあげた石破氏は、小名浜漁港で「福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして日本の復興なし」などと声を張り上げた。 

 

 2011年の東日本大震災発生時、自民党は野党だった。民主党政権下で遅々として進まなかった復興や原発問題への思い、さらには被災地に寄り添ってきたとの自負があるのだろう。支持を訴える石破氏の表情はどこか「過去の政治との決別」を誓ったように映る。 

 

 民主党政権時代に1万円前後と低迷していた日経平均株価は、2012年末の政権奪還前後から急速に上昇。安倍晋三首相(当時)が推し進めた「アベノミクス」は円安・株高を誘引し、岸田文雄政権時代の今年3月には史上初の4万円台に乗せた。その後は調整局面が見られてきたものの、今回の衆院選告示日の10月15日は3カ月ぶりに4万円台を回復し、「新生・石破丸」の船出を祝っているように見える。 

 

 ただ、現実の政治はそう甘くない。共同通信社が10月12、13両日に実施した全国電話世論調査によれば、石破内閣の支持率は42.0%で、不支持率は36.7%。調査規模が異なるため単純比較はできないものの、内閣発足直後の10月1、2両日の調査(支持率50.7%)から低迷が続く。 

 

 比例代表の投票先では自民党が最も多い26.4%で、立憲民主党の12.4%に2倍近い差をつけてはいる。ただ、望ましい選挙結果としては「与党と野党の勢力が伯仲する」が50.7%を占め、「与党が野党を上回る」は27.1%にとどまる。 

 

 

 ネックになっているのは「裏金問題」に対する国民の厳しい視線だ。 

 

 石破首相が率いる自民党は今回の衆院選で、裏金問題に関係する前議員ら12人を非公認とした。34人は比例代表との重複立候補を認めず、旧安倍派の杉田水脈氏や尾身朝子氏らが比例代表からの出馬を辞退。越智隆雄元内閣府副大臣や菅家一郎氏らが立候補を取りやめた。だが、こうした自民党の対応について共同通信の調査では「不十分だと思う」が71.6%に上っている。投票先を決める際に裏金問題を考慮するとの回答は6割以上に達しており、自民党への逆風はいまだ止みそうにない。 

 

 先に触れたように、共同通信の調査で比例代表の投票先は自民党が野党第1党に2倍近い差をつけている。これは他の主要メディアの調査でも同じ傾向が見られ、読売新聞の調査(10月1、2日実施)でも自民党は39%、立憲民主党は12%、日本維新の会は7%、公明党は4%、れいわ新選組は4%などとなっている。 

 

 ちなみに、前回衆院選時(2021年)の共同通信による調査(同年10月16、17日実施)を見ると、比例代表の投票先は自民党が29.6%と最も多く、2位の立憲民主党は9.7%だった。岸田内閣の支持率は55.9%、不支持率は32.8%だ。比例代表の投票先は2位の3倍近く、内閣支持率も6割近かったことを考えれば、たしかに「石破丸」の船出は厳しそうだ。 

 

 だが、それ以上に石破氏が気にしなければならないのは保守層の“自民離れ”だろう。近年の自民党は「岩盤支持層」といわれる保守層に支えられ、大型選挙に勝ち抜いてきた。しかし、現在のトップは保守政治家の代表格だった安倍元首相と距離を置いてきた石破氏だ。アベノミクスの評価や外交・安全保障政策など「ほとんど真逆とも言える人物」(自民党中堅)が総理・総裁に就き、保守層には戸惑いも目立つ。 

 

 加えて、都市部に多いとされる無党派層の動向をにらめば、石破氏の「ブレ」も気になるところだ。政党から政治家個人に支出される「政策活動費」について、石破氏は10月9日の党首討論で「適法な範囲内において、現在許されている政策活動費を使う、ということは可能性としては否定しない」と語った。だが、「お金で選挙が歪められかねない」などの批判にさらされると、直後には衆院選で使用しないと説明。10月14日のテレビ朝日番組では「自民党の体制が変わったので、新しい党のあり方、新しい政策を分かってもらうために使う」などと軌道修正した。 

 

 

 さらに裏金問題に関係した前議員らを非公認という措置をとったにもかかわらず、仮に今回の衆院選で当選した場合には「主権者たる国民の皆様方がご判断された場合、公認するということはある」と追加公認の可能性に言及した。森山裕幹事長も「選挙を経るということは国民の信任を受けたということだから、あまり差別が続いてはいけない」などと選挙後に党の役職などに起用する可能性を示唆している。 

 

 石破氏としては「非公認・比例重複なし」という厳しい措置としつつも、衆院選の「禊」を経れば問題は解決したとの方向に持っていきたいのだろう。ただ、それではあまりにも国民をバカにしたような話ではないか。多くの有権者は今回の「政治とカネ」問題で疑惑を持たれた政治家から詳しい説明をほとんど受けていない。戦後最短の衆院解散というドタバタの中で自民党は公認・非公認ということを決定したが、それは党内の問題でしかない。いまだ説明責任を果たしたとは言えない政治家は少なくないだろう。 

 

 石破氏は首相就任会見で「国民に勇気と真心をもって真実を語る」といい、「納得と共感内閣」と銘打ったが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とばかりに選挙後はお咎めナシを決めこむつもりなのか。そうした姿勢を石破氏が貫くならば、いずれも得られないはずだ。立憲民主党の野田佳彦代表が「裏金隠し解散」と追及するように、野党の主張の方に「納得と共感」が広がれば自民党は予想以上の大打撃を選挙で受ける可能性もあり得る。 

 

 本来ならば、政権与党のトップが迎え撃つ相手は野党だ。とりわけ、解散時勢力で野党第1党である立憲民主党の野田代表は、共同通信の調査(10月1、2日実施)でも「期待する」が50.4%に上っている好敵手と言える(「期待しない」は44.4%)。ただ、石破氏が厳しい戦いを強いられているのは、野党以外にも「敵」が存在している点にある。むしろ、それが“最大の脅威”といっても過言ではない。 

 

 目下のところ、その「旗頭」は9月の自民党総裁選で争った高市早苗前経済安全保障相だ。国民からの人気が高かった石破氏を1回目の投票(党員・党友票)で上回った高市氏は「保守派のマドンナ」として安倍元首相の路線を継承し、ネット上でも高い人気を誇る。 

 

 

 総裁選の決選投票では旧安倍派の幹部たちをはじめ、森喜朗元首相ら重鎮も高市氏の支援に回ったとされ、安倍元首相亡き今、「石破氏を引きずり下ろすのは保守派の代表、高市氏しかいない」(自民党閣僚経験者)といわれるほどの存在感を放つ。 

 

 今回の衆院選で石破氏が「非公認・比例重複なし」としたのは、旧安倍派を狙い撃ちにした“高市封じ”と見られている。不記載問題の発覚直後に当時の幹部が説明責任を果たさなかったことには、旧安倍派内に不満が残るものの、かつて所属した派閥を執拗に攻撃するかのような石破氏に対しては憎悪感を抱く人物も少なくない。 

 

 そこで石破執行部は衆院選での「禊」や旧安倍派メンバーの役職復帰をにおわせることにしたのだろうが、もはや後の祭りだ。これまでは高市氏と距離があった前議員らは「非石破」で行動を共にする動きを見せる。今回の衆院選で高市氏に応援依頼が殺到しているのは、選挙後の大きな動きを感じさせるには十分だ。 

 

 つまり、石破氏は今回の衆院選で野党と対峙しながらも、自民支持層の離反を防がなければならないという厳しい闘いを迫られている。中には「早く高市氏に総理・総裁を代わって欲しいから自民党には投票しない」「石破自民党にお灸を据えなければならない」という人もいることだろう。なんとか踏みとどまったとしても、衆院選後には獲得議席次第で“高市の乱”が待っているというわけだ。 

 

 総裁選の決選投票で高市氏支援に回った麻生太郎最高顧問は10月頭、茂木敏充前幹事長と会食し、今後の党運営などについて意見を交わした。自民党唯一の派閥「麻生派」と茂木氏のグループが「非石破」でまとまって高市氏サイドに回れば、党内基盤が脆弱な石破氏は「蛇に睨まれた蛙」状態になるだろう。選挙後の政権運営は行き詰まり、もちろん閣僚や党役員人事も思うようにはいかない。政権発足から1カ月で石破カラーを出すことなく、一気にレームダック化(死に体)することになるのだ。 

 

 ただ、高市氏サイドにもジレンマがある。それは、あまりに石破自民党の獲得議席が減ることになれば、“石破おろし”が実現できたとしても高市自民党の立場が弱いということだ。与党で過半数割れを起こすことがあれば、連立相手を再構成しなければならず政権運営も不安定化する。 

 

 

 
 

IMAGE