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北海道利尻富士町の町並みや投票率について述べられており、町の人口約2200人で自民党支持が強く、過疎化が進んでいる状況が描かれている。

投票率が高い理由として、町民一人一人の投票意識の高さが挙げられている。

若い新人議員や元幹事長の影響力、政治資金や組織力の差なども取り上げられている。

地方の声を国政に反映させる重要性や公平な選挙環境を整える必要性が示唆されている。

(要約)

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北海道利尻富士町の町並み。利尻島の中心にそびえる利尻山(通称・利尻富士)が見える=同町で2024年10月11日、田中裕之撮影 

 

 北海道の利尻島に、前回衆院選で全国トップの投票率90・33%を記録した利尻富士町がある。過疎化が進む人口約2200人の町は自民党支持が色濃い地域だ。今回の衆院選で最大の争点となっている「政治とカネ」の問題について聞くと、町民の間に怒りとあきらめの声が交錯していた。「今回だけは許せない」「変わるチャンスだけど、なかなかね……」。国会から遠く離れた島で、政治不信の現在地を探った。 

 

【2021年衆院選での投票率上位の自治体】 

 

北海道利尻富士町と北海道12区 

 

 札幌市内から航空機で約1時間。利尻空港に降り立つと、島の中央に雄大な利尻山(通称・利尻富士)が見えてきた。利尻富士町は島の東半分にあたり、面積は約105平方キロ。漁業と観光に支えられ、京料理のだしなどに使われる「利尻昆布」と、その昆布を食べて育った濃厚な味わいのウニが有名だ。 

 2009年以降の5回の衆院選で、町の投票率は8割半ばから9割強で推移してきた。前回21年は90・33%で、市町村別の全国1位。全国平均の55・93%と比べると突出した高さだ。なぜなのか。 

 「特別な啓発をしているわけではありません」。町選挙管理委員会によると、防災無線での呼び掛けや投票所への無料バスの運行などはしているが、他の自治体と大きな違いがあるわけではない。近年は期日前投票が半数近くに上り、買い物のついでなどに投票する人が多いという。担当者は「町民一人一人の投票意識が高いと言うほかありません」と言う。 

 

乾燥させた「利尻昆布」の出荷準備をする上田光斗夢さん=北海道利尻富士町で2024年10月11日、田中裕之撮影 

 

 衆院解散後の10月中旬、町南部の鬼脇地区の作業場で、上田光斗夢(あとむ)さん(30)は乾燥させた昆布の出荷準備に取りかかっていた。漁師の家族と昆布のインターネット販売などを手がける一方、町議会で最も若い新人議員でもある。 

 「若い世代の声が町政に届いていないのではと思ったのです」。初出馬は21年10月。若者が進学や就職先を求めて島外へ出て行く現状に危機感を覚えた。「本当はそういうキャラクターではないのですが、誰も出ないのなら、自分が先頭に立たないといけないのではないかと勇気を出してみました」 

 定数9に10人が立候補し、上田さんは242票でトップ当選した。22年12月の定例議会では町内の小中学校のトイレに生理用品を設置することを求めて実現。若者だけでなく、町議に一人もいない女性の視点も大切にしている。 

 出馬した21年の町議選は衆院選と同じ投票日だった。「自分に票を入れなくてもいいから選挙には行って」。出会う人には必ず投票を呼びかけた。 

 「この町は日本の端っこで、国会からも遠い。投票率が低いと国の政治家に相手にされなくなってしまうので、皆が投票にこだわっています」。上田さんはそう説明した。 

 投票率が高い要因について、田村祥三町長(70)は「離島で暮らす厳しさを国会議員に訴えたいという気持ちが一番大きい」と指摘する。 

 町では働き手不足の問題が、将来への不安を増大させている。少子化と島外への人口流出に歯止めがかからず、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、町の生産年齢人口(15~64歳)は35年に高齢者(65歳以上)の数を下回る。町全体の人口も45年には約1100人に半減する。 

 田村町長はこうも語った。「投票しない人は我々から見ればもったいないし、どうしてなのかなという思いです」 

 

 

2021年衆院選で投票率上位の自治体 

 

 利尻富士町と稚内市などを結ぶフェリーが発着する「鴛泊(おしどまり)港フェリーターミナル」。その近くに、町の基幹産業を担う「利尻漁業協同組合」の大きな建物がある。 

 入り口には自民党政治家の看板が立てられていた。漁協内には自民党利尻富士支部もあり、漁協幹部が支部代表を務めている。 

 漁協の山上辰昭専務理事(60)は「1次産業のことは自民党が一番分かってくれる。武部勤さんの時代からそんなイメージを持っています」と率直に語る。 

 小泉純一郎政権下の04~06年、自民党幹事長を務めた武部氏は利尻富士町を含む衆院北海道12区を地盤とし、12年に引退した。 

 小泉氏の「偉大なるイエスマン」を自認した武部氏は09年7月、利尻島に小泉氏を招いたことがある。当時、町では約300人が参加して「歓迎の集い」が開かれ、小泉氏は特産のウニを堪能した。 

 元町議長で全国離島振興市町村議会議長会の会長を務めた長岡俊裕さん(67)は「国土交通省などに離島振興の陳情に行こうとすると、武部さんが根回しをしてくれた」と振り返る。 

 町民の高い投票率によってもたらされた多くの票が党有力者の武部氏に投じられ、武部氏側は町にさまざまな便宜をもたらした――そんな構図が浮かぶ。 

 武部氏は旧民主党が政権交代を果たした09年の衆院選で、初めて小選挙区で敗北し比例復活した。だが当時、利尻富士町では武部氏が旧民主党候補の倍となる約1500票を獲得し、町民の支持は強固だった。 

 

引退表明の記者会見を終え、見送りの支援者らに手を振る自民党の武部勤元幹事長(右)と長男の新氏=北海道稚内市で2012年9月16日、岸川弘明撮影 

 

 武部氏の引退後、北海道12区では長男の新(あらた)氏(54)が自民党候補の座を受け継いだ。今回、5期目を目指して立憲民主党新人の川原田英世氏(41)と争う一騎打ちになっている。 

 「政治とカネ」の問題は有権者にどう響いているのだろうか。 

 「政治家が裏金を作るなんて最低だ。今まで自民党に投票してきたが、今回も投票するかどうかは考え中だ」。町のホームセンターに買い物に来た漁師の男性(80)は、自民党派閥裏金事件への怒りを口にした。 

 新氏は旧二階派で、裏金事件には関わっていない。だが、「皆は表立って言わないが、お酒を飲んで話せば裏金問題はよくないという話にはなる」(町幹部)といい、町内でも不信は渦巻いているようだ。 

 一方、変わらず自民党支持を続けるという声も目立った。 

 「政党は関係なく武部さんに投票してきたし、今回も投票するつもり。裏金問題はテレビで漠然と知っているけど、そこまで関心はない。これからクリーンな政治をやってくれればいい」(80代女性) 

 「裏金はよくないけど、投票には関係しない。会社の業績がよくなることを考えて武部さんに入れる」(30代男性) 

 立憲民主党の支持者はどう見ているのか。 

 「昔から保守地盤の強いところだし、小さな町では反自民の声は上げづらい。『政治とカネ』の問題がこれだけ報道されても、島の中では投票行動が劇的に変わる様子はありません」 

 通信業などを営む黒川健一さん(76)はため息交じりに話す。町内で野党を支援してきた「少数派」を自認する。 

 

 

町内に立てられた立憲民主党の看板。自民党が強い町で見かけることは少ない=北海道利尻富士町で2024年10月11日、田中裕之撮影 

 

 野党が支持を広げにくい背景の一つが、組織力や資金の圧倒的な差だ。 

 北海道12区は利尻富士町だけでなく、稚内市や紋別市、網走市などを含み、小選挙区で最も広い。面積は東京都の約7倍で、自民党関係者は「候補者の選挙中の移動距離は5000キロに及ぶ」と明かす。 

 新氏が代表を務める自民党北海道第12選挙区支部の収入総額(22年分)は1億389万円。主な収入源は企業・団体献金やパーティー収入などだ。豊富な資金により、新氏は事務所を東京に1カ所、選挙区に4カ所構える。 

 これに対し、川原田氏が代表の立憲民主党北海道第12区総支部の収入総額(同)は1698万円。新氏の2割にも満たず、事務所は利尻島から約250キロ離れた北見市内にあるだけだ。 

 黒川さんは町の敬老会に参加した際、新氏から祝電が届いたことに驚いた。「自民党は祝電や弔電などもこまめにやっていて組織の足がしっかりしています。当然、町民との付き合いで野党との差が生まれます」 

 だが、そんな現状に黒川さんは疑問を投げかける。「政治が家業のように世襲で続くのはいいことなのか。本当に困っている人の話を聞く耳があるのか。今回の衆院選はそれを見直すチャンスのはずです」【田中裕之】 

 

田中裕之記者 

 

 「自民党はスキャンダル時の選挙でも強いよ」。今回の衆院選序盤に、ある野党幹部に情勢を尋ねると、そんな答えが返ってきました。 

 自民党の「政治とカネ」の問題に対しては、2021年の前回衆院選の投票率が全国トップの北海道利尻富士町でも、怒りが渦巻いていました。一方で、立憲民主党支持者の町民が言うように、町の自民党支持の雰囲気は大きく変わらない印象でした。 

 衆院選で高い投票率を記録してきたのは利尻富士町のような離島や地方の町村です。過疎化が著しく、政治に助けを求める住民の切実さは都会で生活しているとなかなか想像できません。そんな地域の多くで、自民党は支持を固めてきました。 

 政権与党に居続ける自民党は、地元の陳情を実現できる点で野党より有利な立場にあります。企業・団体献金や政治資金パーティー収入も得やすく、潤沢な選挙資金を使う「カネのかかる政治」が、国政へ新規参入しにくい壁になっています。 

 地方の声を国政に反映させる役割は与野党双方にあり、世襲の問題を含め公平公正な競争環境の議論を国会で深める必要があると感じます。 

 

※この記事は、毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。 

 

 

 
 

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