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10月26日に、メジャーリーグのワールドシリーズが開幕する。

大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースの活躍により、日本中が大谷選手の試合に注目してきた。

しかし、試合の放送が急遽休止になり、これに対して不満の声が野球ファンや視聴者から挙がった。

このような放送変更に対する不満から「大谷ハラスメント」という言葉も浮上しており、メディアや視聴者の関係、ハラスメントの定義、メディアの姿勢などについて議論が広がっている。

大谷選手をフィーチャーするメディアの姿勢や扱い方、視聴者やファンの意見がどのように受け止められ、これらに対する対応が今後問われている。

(要約)

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(写真:Getty Images/Daniel Shirey) 

 

 10月26日、メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースによるワールドシリーズが開幕します。 

 

大谷妻「真美子さん」報道に危うさしか感じぬ理由 

 

 春のシーズン開幕から大谷翔平選手が所属するドジャースの試合は、テレビとネットを中心にさまざまなメディアが連日ピックアップ。大谷選手の活躍とドジャースの首位快走で、日本中の人々を巻き込むような形で盛り上げてきました。 

 

 その盛り上がりは、ドジャースがナショナルリーグの地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズを勝ち抜き、ワールドシリーズに進出したことでさらに加速。 

 

 10月21日には日本テレビが急遽、午前に行われたリーグ優勝決定シリーズ第6戦「ロサンゼルス・ドジャースVSニューヨーク・メッツ」を21時すぎから緊急放送することを発表しました(実際は前番組の日本プロ野球中継「読売ジャイアンツVS横浜DeNAベイスターズ」が延長したため21時56分から放送開始)。 

 

■野球ファンからも不満が漏れる 

 

 しかし、この変更によって人気バラエティ番組の「しゃべくり007」「月曜から夜ふかし」の放送が休止。同番組を楽しみにしていた視聴者たちから不満の声があがりました。 

 

 ネット上には「何で急に大谷さんの試合?」「結果がわかっている試合の再放送はやりすぎ(同日朝、NHK BSで放送)」「朝から晩までオオタニサンばかり」「みんなが大谷のこと好きなわけではない」などの否定的な声が少なくなかったのです。 

 

 さらに厳しかったのは、味方であるはずの野球ファンからも厳しい声があがっていたこと。 

 

 前番組の野球中継を試合終了直後に終了させ、勝って日本シリーズに進出したベイスターズ選手たちの様子や三浦大輔監督らのインタビューを流さず、ドジャース戦に切り替えたことが怒りを買ってしまいました。 

 

 怒りの矛先は主に放送局の日本テレビに向けられましたが、中には大谷選手の名前を出して不満を漏らす人もいたのです。 

 

 この緊急放送によって火が点いたのが「大谷ハラスメント」というフレーズ。今年、大谷選手の活躍をメディアが大量に扱うことや、大谷選手についての情報を「知らないの?」などと疑問視されることをハラスメントとみなす声が一部であがっていました。 

 

 今回はこのフレーズをいくつかのネットメディアが記事化したこともあって一気に広がった感があります。 

 

 

 フジテレビがワールドシリーズ全戦を朝に生放送し、夜にも再放送する放送するほか、朝から夜にかけての報道・情報番組やワイドショーでの扱いも含め、26日以降はこれまで以上に大谷選手がフィーチャーされることは間違いないでしょう。 

 

 また、27日に衆議院議員選挙の投開票が行われる中、その前後で大谷選手を大きく扱い続けることで、さらなる批判につながる可能性も考えられます。 

 

 そのとき、「大谷ハラスメント」の声がどれくらいあがりそうなのか。ハラスメントの成立要件やメディアのあるべき姿などを含め、掘り下げていきます。 

 

■「嫌」「不快」ならハラスメントか 

 

 まず26日以降、「大谷ハラスメント」の声がどれくらいあがりそうなのか。 

 

 ドジャースとヤンキースの本拠地はアメリカの二大都市であるロサンゼルスとニューヨークであり、まさに東西の名門。ともに今年のナショナルリーグとアメリカンリーグ最高勝率チームであり、ワールドシリーズで対戦するのは43年ぶり。さらに50本塁打以上の選手が対戦するのは初めて(大谷選手54本、アーロン・ジャッジ選手58本)などのトピックスが多く、メディアが盛り上げる材料には事欠きません。 

 

 全戦放送するフジテレビも連日、報道・情報番組やワイドショーで特集を組んでいるほか、多くのCMを流し、昼の帯バラエティ「ぽかぽか」では日替わりの若手アナウンサーがドジャースのユニフォームを着て出演するなど、お祭りムードを感じさせてきました。 

 

 もちろん大谷選手の試合中継や特集を楽しみにしている人が多いのは間違いありませんし、活躍の程度にかかわらず、ワールドシリーズは今年最大の盛り上がりになりそうです。 

 

 活躍したらさらに盛り上がりは増すのはもちろん、仮にドジャースが4戦全敗で大谷選手がノーヒットに終わったとしても今年の実績は揺らがないだけに、すぐに1年の振り返り特集に移ってメディアのフィーバーは続くでしょう。その間、「大谷ハラスメント」という声がこれまで以上にあがる可能性を感じさせられます。 

 

 ただ、それが「ハラスメントなのか」と言われたら答えは「NO」。自分が「『嫌がることをされた』『不快だった』と感じたからすべてがハラスメントとして認められる」というわけではありません。 

 

 

 テレビと視聴者の間に関係性の明確な優劣や上下はなく、逃げ場のない閉鎖された環境でもないため、「嫌」「不快」と感じたとしても、それなりに回避することが可能。 

 

 そもそも放送は自分だけに向けて行われているものではないし、生活や健康などを害されたわけでもなく、権利侵害などの法を犯していないのであれば、ハラスメントとは言いづらいところがあります。 

 

■大谷選手から見たハラスメントに 

 

 テレビ局としても大谷選手をフィーチャーすることはビジネス上の戦略であるうえに、特定の誰かに明確な損害を与えているわけでもなく、よほど批判の声が増えない限り、対応を変えないでしょう。 

 

 それはSNSの発達で匿名での発信が増え、テレビのような巨大メディアは批判を受けやすくなる中、このレベルの不満で戦略を変えていたら十分な収益が得られずビジネスが成立しづらくなってしまうからです。 

 

 また、「大谷ハラスメント」と実名を絡めて不満の声をあげることは、逆に大谷選手から見たハラスメントに該当しかねない行為。書き方によっては「嫌」「不快」にとどまらず誹謗中傷となり、名誉毀損が成立してしまう危険性もあるでしょう。 

 

 ただそれ以前に、個人の名前を勝手に使ってハラスメントを訴えること自体がモラルを問われ、自分の生きる社会をゆがめていく行為。たとえ匿名の書き込みだとしても自制が求められ、他者にも求める社会でありたいのではないでしょうか。 

 

 ワールドシリーズは最大でも残り7試合で終了し、盛り上がりは収まっていくわけですから、「1週間あまりの期間をスルーすればいい」というだけの話。同じスポーツのビッグイベントでも、オリンピックやサッカーワールドカップなどよりも期間が短いだけにこの程度をスルーできなければ、本当に「なんでもハラスメント」の生きづらい世の中になりかねません。 

 

 テレビ放送だけでなくネット記事もできるだけスルーし、「大谷ハラスメント」などとあおる見出しに乗せられて負の感情に流されないようにしたいところです。 

 

 この「スルー」はテレビ放送やネット記事だけの話でなく、職場や学校、飲食店や街頭などで大谷選手の話題が増えたとしても、「見ていないので」「知らないんですよ」とひと言伝えて切り抜ければいいだけでしょう。 

 

■リアルタイム視聴の大切な客を軽視 

 

 最後にもう1つふれておきたいのが、メディアのあるべき姿。 

 

 

 21日の緊急放送と人気番組の放送休止は、ひとえに「そのほうが視聴率獲得が期待できる」から行われたものでしょう。他局以上に視聴率獲得にシビアでマーケティングに長けた日本テレビが緊急放送したところに期待のほどがうかがえました。 

 

 「多くの人々に喜んでもらいたい」という大義名分もあるのでしょうが、一刻を争う緊急事態ではないのに人気番組を休止する以上、批判の声があがることはわかっていたはずです。 

 

 それでも緊急放送を決行したのは、やはり「大谷選手がリーグ優勝を決めたタイミングなら視聴率が取れる」という基準によるものでしょう。より利益につながりそうな選択をするのはビジネス上、当然の行為ですが、一方でメディアとしての信頼性が薄れかねないリスクを感じさせられました。 

 

 「見たいものを、見たいときに、見たい場所とデバイスで見る」ことが当然になり、テレビ番組もTVerなどで見る人が増える中、今なおリアルタイムで見てくれる視聴者は貴重な存在。 

 

 視聴率獲得につながり、ネット上の書き込みも期待できるなど、テレビ局にとっては重要なお客さんだけに、緊急性のない緊急放送と人気番組の放送休止は失望や怒りの感情を生むだけでしょう。 

 

 そもそも「不満の声があがるのは日本テレビの番組を楽しみにしていた人がいる」からであり、ファンサービスで応えて顧客満足度を上げるのがビジネスとしてのセオリー。もしそれが難しかったとしても、目先の結果を追う「視聴率ファースト」ではなく「視聴者ファースト」の姿勢も見せていかなければ大切な視聴者を失っていくでしょう。 

 

■「野球ハラスメント」のリスクも 

 

 これは試合中継だけでなく、日々放送されている報道・情報番組やワイドショーなども同様。すでに「視聴率が取れるから」と大谷選手の特集に放送時間の多くを割くことは「視聴率ファースト」であって「視聴者ファースト」ではないことに気づかれている感があります。 

 

 逆に大谷選手の活躍で盛り上がっているときだからこそ、「視聴率獲得を狙って扱いを増やすばかりではなく、扱うべきものをバランスよく構成できているか」、メディアとしての役割を問われているようにも見えます。 

 

 

 
 

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