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2024年10月9日、任天堂から突然発売された目覚まし時計「ニンテンドーサウンドクロック Alarmo」が、人気を集めて即完売となった。

アラーモはうごきセンサーを活用した目覚まし時計で、寝ている人の様子を読み取り、任天堂の有名キャラクターが登場し楽しめる。

製品の背景には、任天堂がかつて掲げていたQOL事業に関する動きが関係している可能性がある。

(要約)

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(撮影:田所千代美) 

 

 2024年10月9日、任天堂の目覚まし時計である「ニンテンドーサウンドクロック Alarmo」(以下、アラーモ。税込1万2980円)が突如発売された。 

 

【写真で見る】どんなデザイン? 任天堂の“目覚まし時計” 

 

 発売されたのは夜であり、しかも事前告知のないサプライズだった。にもかかわらず、この商品は人気を集め、即完売。記事執筆時点では抽選販売に切り替わっており、フリマサイトでも多数の転売が確認できる。 

 

■なぜ任天堂が時計を?  

 

 しかし、ひとつ気になるのは「なぜ任天堂が目覚まし時計を作り、売り始めたのか?」という部分である。 

 

 確かにこれまで任天堂はいろいろなものを作り出し、古くは男女の相性を測るとされた「ラブテスター」や、ダンボールでゲームコントローラーを作る「Nintendo Labo」といった遊びを生み出してはいたが、それにしても突飛である。 

 

 実際にこのアラーモを使ってみると、よりその謎は深まっていった。 

 

 アラーモは、うごきセンサー(電波センサー)によって寝ている人の様子を読み取る機能がついた目覚まし時計である。 

 

 たとえば時計の前で左右に動くと、画面の中のマリオも同様に動いたり、あるいはジャンプするなどのアクションを起こす。アラームが鳴るときにも活用されており、寝返りすればコインの音が鳴り、ベッドから降りると自動的に音が鳴り止む仕組みだ(ボタンでも止めることは可能)。 

 

 もし寝ている人が起きなければアラームは鳴り止まないし、時間が経つと激しい音が鳴る仕組みも用意されている。2度寝防止機能もあり、ベッドに戻ってきてしまったときにもアラームが鳴るようになっている。 

 

 このほかにもベッドに入るときに心地よい音楽が流れたり、あるいはベッドのなかでどれだけの時間を過ごしたのか、あるいはアラームが鳴ってからどのくらいで起きられたのかなどが記録されるわけだ。 

 

■任天堂の有名キャラクターが登場する 

 

 任天堂の有名キャラクターを活用しているのもポイントとなる。「スーパーマリオ」「スプラトゥーン」「ゼルダの伝説」「ピクミン」といったゲームのキャラクターが用意されているほか、それぞれに応じたアラームが複数種類セットされている。 

 

 

 たとえばマリオに設定した場合、アラームが鳴って起きるとコインを取得した音が何度か鳴り、ステージクリアのジングルが鳴る。まるでゲームをクリアしたかのように、遊び感覚で目が覚めるというわけだ。 

 

 なお、今後のアップデートで「どうぶつの森」と「マリオカート」のアラームも追加される予定となっている。 

 

■高級目覚まし時計はいったい誰向けなのか?  

 

 このように電波センサーを活用した目覚まし時計としては興味深いのだが、問題は狙いがよくわからないということだ。 

 

 子供向けの目覚まし時計としてはおもしろく、筆者の4歳の子供も強く興味を持った。マリオが動くだけで喜ぶし、入眠時のサウンドでぐっすり眠ったのにも驚いた。 

 

 ただ、アラーモの価格は1万2980円(税込)である。子供に与える目覚まし時計としてはかなり割高だろう。しかも動きを感知するセンサーのおかげで、基本的にひとりひとつのベッドでの利用が想定されている。 

 

 制約も多い。アラーモはUSBケーブルで常に給電する必要があるし、設置場所もベッドから高さ20cm以内に収めなければならない。ペットがいる場合もセンサーに影響があるので使いづらくなる。 

 

 はっきりいって、あまりにも注文の多い目覚まし時計だ。また、任天堂のキャラクターが出てくるという部分も必須かどうか疑わしい。 

 

 そもそもアラームで起きるときはうるさいから起きるのであって、サウンドの内容はどうでもいいのである。実際、「マリオの曲だ」と思うのはなんとか覚醒したあとで、その中身の良し悪しを吟味している場合ではないのである。 

 

 筆者は普段Apple Watchのアラームで起床しているが、そのサウンドにこだわりなどまったくないし、起こしてくれることが第一といえる。また、目覚まし時計に使っていた音が嫌いになるケースもあるそうで、それを懸念する声もある。 

 

 とはいえ、電波センサーによるアラーム停止機能はなかなか優れている。筆者は2日目にして「センサーから感知されれば止まるのだから、とにかく床に降りればよい」と無意識のうちに行動できた。床に落ちてもまだぼんやりと半分夢の中にいたものの、さすがに寝床から抜け出せればなんとか目は覚めるものだ。 

 

■かつて存在したQOL事業が関係している可能性 

 

 このように製品の狙いがわかりづらいアラーモだが、それを紐解くのに重要なのが、任天堂が掲げていたQOL(クオリティオブライフ)事業に関する動きである。 

 

 

 任天堂は2014年の経営方針説明会において、QOLを楽しく向上させることを新しい娯楽にする予定だと発表していた。最初のテーマは「睡眠と疲労の見える化」であり、かつそれを簡単にできるようにすることを重視している。そのひとつとしてノン・ウェアラブル、つまり何も身に着けずに計測できることをポイントとしていたわけだ。 

 

 さて、これで話が見えてきただろう。アラーモはまさしくノン・ウェアラブルに睡眠状態を計測できるものであり、かつ適切な睡眠をとれるように誘導する商品となっている。 

 

 2014年の発表時は、アメリカで睡眠時無呼吸症候群に関する医療機器を開発・製造・販売しているResMedと業務提携したと発表されていた。アラーモにはさすがにそこまでの機能はないのだが、その一部を担っているのは間違いないだろう。 

 

 なお、日本経済新聞の記事によると、2018年12月の段階で任天堂は「QOL事業の開発を中止」すると通達していたという。そのときの企画の一部がなんとか形になって表に出てきたのがアラーモなのかもしれない。 

 

■つい、任天堂の次世代機についても妄想してしまう 

 

 ここからは筆者の妄想である。アラーモを使っていると、「もしかするとこれは任天堂の次世代機に関係があるのではないか」という考えに至った。 

 

 まず気になったのは『リングフィット アドベンチャー』のアラームがあるところだ。これはリング型コントローラーを操作してフィットネスを楽しめるゲームで、コロナ禍は特に話題になった。 

 

 しかし、ほかのゲームと比べると少し異質である。マリオやスプラトゥーンのように有名なキャラクターではない。関連性があるとすれば、健康くらいのものだ。 

 

 そして、アップデートでアラームが追加される部分も気になった。アラーモはなるべくシンプルに扱えるよう考慮されている。にもかかわらず、インターネット接続をしてニンテンドーアカウントと連携することによって、ようやく追加要素が得られるわけだ。 

 

 どうせ発売を遅らせても問題ないのだから、最初からアラームを入れておけばインターネット接続なんて手間を避けられるのではないか? と思うのだが、これが必要なものだとしたらどうだろうか。 

 

 もし任天堂の次世代機が「プレイヤーのQOLを高める要素」をプッシュしてくるのであれば、アラーモの存在はしっくりくる。ニンテンドーアカウントに連携してデータを保存でき、そういった記録を次世代機に集約できたのならば、新たな魅力を生み出せるゲーム機になるかもしれない。 

 

 繰り返すが前述のように、これは根拠のない想像である。アラーモにはまだ謎が多く、どうしてもその答えがほしくなってしまうのだ。 

 

渡邉 卓也 :ゲームライター 

 

 

 
 

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