( 226999 ) 2024/10/27 16:47:40 1 00 福岡の私立柳川高校の校長である古賀賢氏は、「隣の学校もこんなことやっているから」という理由で物事を決める組織は自律できないと指摘している。 |
( 227001 ) 2024/10/27 16:47:40 0 00 「隣の学校もこんなことやっているから」「他の学校はこう決めたから」――そんな判断基準で物事を決めているうちは、自律した個人、組織にはなれません(写真:EKAKI/PIXTA)
少子化にもかかわらず、生徒数が伸び続けている福岡の私立柳川高校。
「絶校長先生」を自称すること古賀賢校長は、学校存続の危機から学校組織、教員、生徒をどう変えていったのでしょうか。
その方法や経験を3回にわたって紹介します。
(本稿は『学校を楽しくすれば日本が変わる 「常識」をひっくり返した「絶校長」の教育改革』から一部を抜粋・再構成したものです)
■校長になってすぐ感じた学校運営の違和感
あなたは自分のいる組織が抱えている問題点がどんなときに表に出てくるか、把握していますか?
日頃は見えにくいものが、イレギュラーな対応を迫られた場面であらわになります。僕が校長就任直後の柳川高校は、まさにそんな組織でした。
台風シーズンの8月、9月。福岡県は、台風上陸数1位(沖縄県は統計上「通過」の扱いだそう)の鹿児島県などに比べると、台風の直撃は少ない土地柄です。
それでも天気予報が台風接近を発表したら、学校は休校も含めて、どう対処するかを判断することになります。本来この判断は、それぞれの学校が独自に行うものです。
ところが、僕が校長になったばかりの頃、柳川高校では「隣の学校が休校にするから、うちも」という謎のルールが適用されていました。近隣にある公立の進学校が「台風接近のため、休校」と発表したら、それに沿って柳川高校もお休みになるのです。
僕はこのやり方に対して、強い違和感を覚えました。端的に言うと、嫌で仕方がなかったのです。
自分たちで考え、決定する力のない組織は弱い。よその学校の判断を横目で見て、追従するのは責任逃れでしかありません。
そして、その組織の問題点はこうした場面の対応1つ1つに現れてくるのです。もし、より大きな災害やトラブルに直面したとき、どうするのでしょうか。そのときも隣の学校が判断を下すのを待つのでしょうか。
僕は校長に就任してからすぐ教職員全員が集まった場で、「今後、台風接近時の学校の対応は全部、自分が決める」と伝えました。
世界一の学校を目指して柳川高校を運営していく。そう考えたとき、判断の軸を自分たちで持てる組織であることは、基本のキ。むしろ、周りの学校が柳川高校の判断を参考にするような存在にならなければ、「世界一」なんて口に出すこともできません。
はっきりと方針を打ち出して、実行できること。これは学校運営だけに留まらず、すべてのうまくいっている組織に共通するポイントです。
「どこどこの会社がこんな企画をやるから、うちも乗り遅れないように」なんて判断基準の組織では、世界に出ていくことはできません。
以来、台風が接近する時期になると、いち早く休校か否かの判断を下しています。少しでも生徒たちの登下校にリスクがあるのなら、休校。もちろん、自然が相手ですから外れることはあります。
特に難しいのは金曜日に台風の接近があり、土日を挟んで月曜日を休校にするかどうかの判断です。月曜日は休みと決めた数時間後に台風が進路を変え、日曜日の夕方には美しい夕焼けになり、翌日は台風一過の好天になったこともありました。
でも大事なのは、決める勇気のある組織であることです。
今では周辺の学校は大雨や台風のとき、柳川高校がどう判断しているかを参考にしていると聞きます。最初は僕からのトップダウンでしたが、今は教職員全員が生徒の安心安全を最上位の基準にして判断が下せるようになりました。
■自分のモノサシを変えたい人へ
「赤信号みんなで渡れば怖くない」というコピーは、1980年代に漫才コンビのツービートのビートたけしさんが漫才の中で使ったフレーズです。それから40年以上経ちましたが、今も日本の国民性をよく表わしています。
「今これが流行(はや)っているから」「隣の学校もこんなことやっているから」「他の学校はこう決めたから」
そんな判断基準で物事を決めているうちは、自律した個人、組織にはなれません。判断する側の覚悟不足であり、責任から逃れるような決め方をしているうちは組織の成長もありません。
当事者として自分の、組織の判断に芯を通すことから始めていきましょう。
「みんなが納得」の「〝みんな〞は誰ですか? 」
物事を決めていくとき、みんなでしっかりと話し合って、理解して進めていくのが組織運営の美学とされています。全員が合意できるまで議論を深めていくのはたしかに大切なことです。
しかし、それでは時機を逃してしまう場面もあります。
僕は組織で物事を進めていく際、大きく分けて2つの決定方法があると考えています。
1つは話し合いを重ねて重ねて進めていく、ソフトランディング。もう1つは話し合いを土台としながら、リーダーが決断を下すハードランディング。どちらが優れているというわけではなく、組織を取り巻く状況によって必要とされる最適な決定方法が変わってくるのです。
僕は校長就任から現在まで、ハードランディングを軸にして学校改革を進めてきました。
当初、よく教頭からこう言われていました。
「校長先生、強引にやられたらみんなが納得しないですよ」
こちらとしては、「みんなが納得」の「〝みんな〞は誰ですか?」という感覚です。
グローバル学園構想を打ち出して、「柳川高校は海外のさまざまな国から留学生が集まる学校になります」「そのために海外に中学校をつくります。海外に事務所を開設していきます」と声を大にしました。
最初は教職員の多くがキョトンとしていました。
もしこれをソフトランディングで進めていこうとしていたら、1年経っても2年経ってもグローバル学園構想を打ち出すことはできなかったと思います。
なぜなら、誰も経験していないことを始めようとしていたからです。
構想を打ち出した僕も経験していないし、教職員ももちろん経験していない。誰も経験していないことについて、あれこれ意見を交わし、有識者を呼んでアドバイスをもらい、全員が納得するまで議論を重ねていくのは、時間がもったいない。
学校改革はある種、ベンチャー事業の立ち上げに似ています。
動きながら考える。動きながら改善する。動きながら次につなげていく。そんな速いサイクルがあってこそ、改革が必要な危機的な状況を変化させることができるのです。
そこでキーワードとなるのは、「覚悟」と「突破力」。
組織にまだ突破力が備わっていないタイミングでは、リーダーが覚悟を決めて先頭に立ち、全体を引っ張っていく必要があります。
ハードランディングで改革を進め、組織全体に新たな経験を積んでいってもらう。誤解や不安が生じることもあるでしょう。そういったデメリットは織り込み済みで、あえて「俺は柳川高校のルフィになる!」と全校生徒の前で宣言してしまうわけです。
「はあ?」という顔をしている教職員がいたとして、その瞬間、その場で理解してもらおうとはしません。こうすると決めて、走って、巻き込んで、経験してもらいながら「こういう変化が必要なんだ」と感じ取ってもらえればいいのです。
■自分のモノサシを変えたい人へ
リーダーの役目は、旗を振ること。リーダーシップとは、理想を語り、向かうべき方向を示すこと。そして、自分を変える、組織を変えるとき、欠かせないのが突破力です。
人は言葉でだけならどれだけでも理想は語れますが、大切なのはそれを形にできるか。どんな業界に身を置いていても、変革者は必ず突破力を持っています。
あなたにはリーダーとして、フォロワーとして、状況を突破していく底力がありますか?
古賀 賢 :柳商学園 柳川高等学校 理事長・校長
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