( 227019 )  2024/10/27 17:07:05  
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11月5日のアメリカ大統領選挙ではトランプ氏優勢の予想が増えており、共和党が大統領選や議会の両方を制する可能性がある。

記事では、アメリカ株が政権の混乱に関わらず堅調な推移を続けており、経済面でも2%を超える成長が続いていることが強調されている。

さらに、大統領選挙の結果によっては、トランプ氏の再選と共和党の議会制御による「レッドウェーブ」が起こる可能性も示唆されている。

アメリカ経済への影響や株式市場の展望に関する見解が述べられている。

(要約)

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11月5日のアメリカの大統領選挙では、トランプ氏優勢の予想が増えている。仮に大統領選も両議会もすべて共和党になったらどうなるだろうか(写真:ブルームバーグ) 

 

3カ月前のことになるが、筆者は「米国株の堅調」は政権がどちらに転んでも続く」(7月23日配信)で、米国株が大統領選挙の情勢が混沌とする中でも、同月にS&P500種指数が最高値を更新していたことについて、「株高が続くのは自然」との判断を示した。 

 

■アメリカは予想どおり年率2%超の成長が継続 

 

 その後、米国株は、8月初旬の雇用統計の下振れなどで一時的に急落する場面があったものの、すぐに反発。9月から10月半ばまで、最高値を更新しながら上昇する展開が続いている。 

 

 前出のコラムでも指摘したが、インフレ鎮静化を実現しつつあるアメリカのFRB(連邦準備理事会)は筆者の予想どおりに、9月会合(17~18日)で利下げを開始した。この間、失業率が上昇したこともあり、いわゆるサーム・ルールに抵触して、一時期は景気後退が再びかなり懸念された。 

 

 ただ、10月4日に発表された9月の雇用統計は前月対比で+25.4万人、と予想外の雇用増が示され、失業率の上昇も止まるなど、労働市場の減速はかなりマイルドである。 

 

 また10月18日に発表された9月の小売売上高コア(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除く)は、前月比+0.7%と、かなり高い伸びだった。これらを踏まえると、筆者の予想とおり、アメリカの経済成長は7~9月期も年率2%を超える安定的な成長が続いているとみられる。 

 

 インフレ率が2%台まで沈静化しつつ、経済がソフトランディングの経路で落ち着く経済環境であれば、当然のことながらEPS(1株当たり利益)も増える。さらに、FRB(連邦準備制度理事会)による利下げがしばらく続きそうなので、時価総額の大きい「メガキャップ銘柄」を中心に、割高な領域にある米国株市場のバリエーション(PER=株価収益率などの指標でみた企業価値評価)も正当化されやすい。 

 

 このように、2024年初から続く好ましい状況が一段と鮮明になっているのだから、すでに年初の想定レンジの上限を超える株高が実現しているのだが、足元までの米国株の上昇に、引き続き違和感は覚えていない。 

 

■「レッドウェーブ」なら「アメリカファースト」が鮮明に 

 

 一方、11月5日に開票されるアメリカの大統領選挙が、世界の金融市場にとって目先の大きなイベントになる可能性が高まっている。仮にカマラ・ハリス大統領誕生、民主党が上下院とも議会を制する、いわゆるブルーウェーブなら、富裕層や企業への増税政策が行われるため、株式市場の心理を冷やすだろう。 

 

 

 ただ、10月に入ってからやや優勢だったハリス氏の勢いは衰えている。大統領選挙は依然僅差ではあるが、民主党が不利とされる上院選挙でも、民主党が多数派を維持する、ブルーウェーブの可能性はかなり低下した。ハリス氏の支持率が頭打ちとなり、株式市場にとって最も望ましくないシナリオの可能性が低下したことが、10月半ばからの株高を後押しした一因だろう。 

 

 金融市場が意識しているのは、ドナルド・トランプ氏勝利+共和党が上下院とも議会を制する、いわゆるレッドウェーブとなるケースである。この場合は、トランプ減税の継続など、やや拡張的な財政政策が実現するだろう。そして、拡張的な財政政策を繰り出しながら、中国を中心とした関税引き上げによって税収を補い、「アメリカファースト」の政策運営がより鮮明になるだろう。 

 

 ただ、筆者は、もしアメリカファーストを掲げるトランプ氏が再び大統領となり、共和党が議会を制しても、2016年のような金利上昇、ドル高、株高は起きないと考えている。 

 

 まず財政政策はやや拡張的になるが、成長率を追加的に押し上げる政策手段は限られる。そして、外交安全保障の交渉のツールとして関税政策が使われる中で、中国からの輸入品に対する関税引き上げが実現するだろう。 

 

 ただ、関税引き上げは、貿易活動や企業のグローバル戦略を抑制する経路で経済活動を阻害し、アメリカの経済厚生(国民の満足度)を長期的には抑制する要因になる。 

 

 短期的にも、関税引き上げが輸入物価を押し上げるため、関税引き上げが大幅かつ広範囲に実現すれば、FRB(連邦準備制度理事会)の政策判断が難しくなる。「トランプ政権誕生」によって、本格的に関税引き上げ政策に踏み出すことになれば、2025年にかけての株式市場は不安定にさせる要因になると見込まれる。 

 

■トランプ氏の関税政策は外交交渉のツールとして限定使用か 

 

 筆者は、もしトランプ政権が誕生して共和党が上下院の議会を制しても、株式市場がそれを好感する可能性は低いと考えている。ただ、社会の分断が深まる中で行われる大統領選挙においては、ハリス氏、トランプ氏のいずれが大統領となっても、2025年のアメリカ経済に決定的な影響はもたらさないだろう。 

 

 

 トランプ政権誕生で駆使されるであろう関税政策は、外交交渉のツールとして使われるので、現在同氏が掲げているような大規模な関税引き上げには至らないはずだ。であれば、インフレ制御に成功したFRBによる金融政策が今後機動的に繰り出されるため、アメリカの経済成長が2025年末まで続くとみられる。 

 

 また、大統領選挙が終わり、政策への不透明感が薄れれば、投資行動に慎重だったアメリカの企業が前向きな姿勢に転じる。そのため、FRBの利下げと相まって、企業の設備投資が経済成長を支えるだろう。アメリカ経済全体を見渡すと、企業や家計による実物資産や債務残高などで「過剰な積み上がり」はみられないことも、2025年の経済成長を安定させる要因になる。 

 

 目先は最後まで接戦でもつれる大統領選挙への思惑や結果が判明する中で、米国株市場が乱高下する場面も想定される。ただ、米国経済の底堅い成長が2025年以降も続くと予想されるので、米国株市場が下落基調に転じる可能性は低い。 

 

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)。 

 

村上 尚己 :エコノミスト 

 

 

 
 

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