( 227289 )  2024/10/28 03:39:52  
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2024年、石破茂政権が誕生し、安全保障に関する新たなアプローチが模索されている。

NATOを例に取り、集団的安全保障の重要性が強調されている。

しかし、東アジアにはまだNATOに相当する組織が存在していない。

西側諸国が固い同盟を築き、中国や北朝鮮のような権威主義国家に対抗する必要性が議論されている。

核戦争を回避し、安全保障に関する正しい知識を持ち、将来の世代に責任を持つことが重要視されている。

(要約)

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ベルギー・ブリュッセルにあるNATO本部(写真:ロイター/アフロ) 

 

2024年10月、石破茂政権が誕生した。石破首相は、「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想など、安全保障について意欲的な発言をしている。日本を含む東アジアは、ロシア・中国・北朝鮮などの権威主義国家に囲まれている。北朝鮮はミサイルを撃ち続けている。日本の平和を維持するために、いま本当に必要なこととは――。橋爪大三郎氏の最新刊『火を吹く朝鮮半島』より解説する。 

 

■NATOとは何か 

 

 世界を見渡してみると、いちばんうまく行っている集団安全保障の仕組みは、NATO(北大西洋条約機構)である。その仕組みと役割を考えてみる。 

 

 もともとNATOは冷戦期に、西ヨーロッパの諸国を、ソ連(ならびにワルシャワ条約機構)の脅威から守るために結成した軍事同盟である。イギリス、フランス、ドイツ(当初は西ドイツ)など、主要な国々が加盟している。 

 

 イギリス、フランスはまもなく核兵器を保有した。そして、(北大西洋なのだからか知らないが)アメリカが入っている。複数の核保有国が束になっている。その団結の力で、ヨーロッパの西側諸国全体の安全を保障する仕組みだ。 

 

 集団安全保障だから、加盟国のどの一国が攻撃を受けても、加盟国全体に対する攻撃だと考えて、集団的自衛権を行使する。仮想敵国はソ連。NATOに加わることで、余計な戦争に巻き込まれる可能性はない。 

 

 冷戦が終わり、ソ連は解体した。仮想敵国は、ソ連からロシアに変わった。そして、旧ソ連圏の東ヨーロッパの国々が続々NATOに加入した。NATOの東方拡大である。 

 

 NATOの役割は、外敵に侵略されないこと。そして、加盟国同士が、互いに敵対しないこと。ソ連(ロシア)という共通の敵をもつことで、結束できた。NATOは、成功した集団的安全保障の仕組みである。ウクライナは、NATOに加盟していなかった。だから、ロシアが侵攻する余地があった。 

 

■「アジア版NATO」は実現可能か?  

 

 東アジアには、集団的安全保障の仕組みがない。東アジアにNATOにあたる、集団的安全保障の仕組みをつくることは可能だろうか。いうなればNPTO(北太平洋条約機構)のような。 

 

 これは、むずかしいと思う。第一に、核保有国が(アメリカを除けば)いない。日本も韓国もフィリピンも、核をもっていない。台湾にもない。オーストラリアにもない。 

 

 第二に、台湾はアメリカとも日本とも韓国とも国交がなく、国際的に孤立していて、集団的安全保障の仕組みに組み込むのがむずかしい。 

 

 

 こうした事情があって、東アジアの西側諸国は、それぞれが単独でアメリカとペアの軍事同盟を結び、アメリカの核の傘を頼りにしてきた。だから、北朝鮮のような挑戦的な核保有国が現れて、脅しをかけると、アメリカの腰が引けてしまい、安全保障の枠組みがぐらついてしまうのである。 

 

 西側同盟(Western Alliance)とは、自由を報じる西側のなるべく多くの諸国が同盟して、自分たちを防衛する集団的安全保障の仕組みである。NATOを世界全体に拡大するもの、と思えばよい。 

 

 現実には西側同盟は、まだ存在していない。架空のものである。ただ世界は、機能しない国連にかえて、西側同盟を世界の平和を守る主役に育てていくだろう。 

 

 西側同盟を実現する手っ取り早い方法のひとつは、東アジアの国(たとえば、日本)がNATOに加入してしまうことである。NATOは「北大西洋」を看板に掲げているから、大西洋と縁のない日本が加盟するのはさすがに唐突かもしれない。でも、日本が加盟するとしたら歓迎する、と言ったヨーロッパの政治家がいたともいう。 

 

 「北大西洋」が名前だけの問題なら、変えればよい。ただ安全保障には実際には、地理的、地政学的な要因がどうしても絡んでくる。ヨーロッパと東アジアは離れすぎている。東アジアの国がいきなりNATOに加わっても、ほかの加盟国を守ることができるのか、ほかの加盟国が東アジアの国を守ることができるのか、という問題がある。 

 

 西側諸国のなかでアメリカだけが、世界中に軍事的プレゼンスを維持している。ひとりで西側同盟の役割を果たしているようなものだ。かつては大英帝国が、似た役割を果たしていた。経済力が図抜けた覇権国は、強大な軍事力を展開して、世界の平和と秩序に責任をもつのである。 

 

 台湾有事を横目でにらんで、イギリスの空母やドイツの艦船、航空機が何度も東アジアにやってきた。西側同盟を志向する活動だ。ウクライナ戦争では、西側諸国が武器や兵器を融通し、ウクライナ軍を支援した。 

 

 台湾有事の際には、同様の支援がヨーロッパの国々からも寄せられると思う。地理的な要因をすっかり克服はできなくても、地理的な要因を乗り越える努力は可能なのだ。 

 

■日本人がいま考えるべきこと 

 

 西側諸国が固い同盟をつくって牽制するなら、権威主義的な国家も勝手なことはできない。中国も、北朝鮮も。だが、東アジアは西側諸国がまばらで貧弱な地域だ。核を手にした中国や北朝鮮や、ロシアの勢力をはねのけるのはむずかしい。 

 

 

 従来は、アメリカ一国の核戦力と、日本や韓国の通常戦力で、バランスを保ってきた。アメリカが、西側同盟の代わりである。そのアメリカの核の威力が神通力を失うと、この地域の安全保障にほころびが生じる。 

 

 一般の人びとは、安全保障と核の問題について最低限、どういうことをわきまえておけばよいだろうか。安全保障の目的は、人びとが、平和に安全に、幸福に暮らせることである。自分たちの国の人びとが。そして、世界のすべての国々の人びとが。 

 

①いちばん大事なこと。……核戦争を避けること。 

 核爆弾は、破壊力が大きい。軍隊や兵器はもちろん、社会インフラまで吹き飛ばしてしまう。その破壊力は大きすぎて、人間の想像力が追いつかないほどだ。 

 

 核爆弾を撃ち合う核戦争は、人類文明を破壊してしまう。人類の終末かもしれない。核戦争を起こさないことを、最重要な目標としよう。 

 

②つぎに大事なこと。……通常戦争が核戦争に移行するのを防ぐこと。 

 戦争は、国と国との紛争を解決する手段である。残念ながら、戦争を完全になくすのはむずかしい。通常戦力による通常戦争は、起こるときには起こるものと覚悟しなければならない。そして通常戦争は、核戦争に移行する場合がある。 

 

 かつて日米戦争は、核戦争に移行した。移行するには条件がある。双方が核兵器をもってにらみ合っている場合、これまで核戦争が起こったことはない。核戦力の均衡が保たれるように、知恵をめぐらせなければならない。 

 

③あと大事なこと。……戦争と安全保障について、その歴史や現状を学ぶこと。 

 核戦争は、いまここにある可能性である。それが現実にならないためには、各国の指導者や、専門家や、軍人はもちろん、一般の人びとが正しい知識と関心をもち、賢明に適切に行動する必要がある。賢明に適切に行動することを、自分たちの誇りとしよう。 

 

④最後に大事なこと。…人類の未来を信じ、未来の世代に責任を持とう。 

 過去の世代が犠牲を払ったおかげで、現在がある。現在を生きる人びとは、未来の世代に責任がある。人類の未来を台無しにしないように、現在できることに知恵をしぼろう。 

 

■核兵器を開発している独裁国家が日本のすぐそばに 

 

 東アジアは不安定な地域だ。日本のすぐそばに、権威主義的な独裁国家があって、核兵器を開発し、その威力によって現状を変更することを考えている。話し合いで解決がつく相手ではない。隣人は選べない。日本の人びとが望んだことではなくても、これが現実である。 

 

 日本の安全を守るために、自衛隊があり、日米安全保障条約がある。だが、それが万全でないことがはっきりしてきた。ひとりでも多くの皆さんが、安全保障について考えを深めていただけるように望んでいる。 

 

橋爪 大三郎 :社会学者、大学院大学至善館特命教授 

 

 

 
 

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