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日本の家電ブランドである船井電機が破産手続きに入った。

船井電機はかつてテレビ事業を展開し、米国でも製品を販売していたが、中国製品との価格競争で負け、業績が悪化した。

また、創業者の死去や経営の混乱も影響していた。

この破産は、日本の家電メーカーの苦境を物語っており、バブル期の日本製AV機器の隆盛からデジタル化の波に対応できなかったことが要因とされている。

(要約)

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破産手続きに入った船井電機本社(大阪府大東市、写真:共同通信社) 

 

 日本の家電ブランドがまた一つ姿を消した。日本やアメリカでテレビ事業を行っていた船井電機が事実上破産したのだ。かつてはウォルマートなどでも取り扱われ、日本メーカーとして全米一売れるテレビを製造した会社にしてはあっけない最後だった。何が船井を追い込んだのか──。 

 

【写真】生産停止したシャープの液晶パネル工場(大阪・堺) 

 

■ 1990年代まで世界を席巻していた日本製のAV機器 

 

 船井電機が破産手続きに入ったことが明らかになった。最盛期には3500億円を売り上げた中堅AVメーカーで、数年前まで米国のテレビ市場では日本メーカーとして最大のシェアを誇っていた。また米メジャーリーグのスタジアムに「FUNAI」の広告を出すなど、日本よりむしろアメリカで知名度が高かった。 

 

 しかし中国製品などとの価格競争に敗れ販売が低迷、業績が悪化していた。しかも創業者の船井哲良氏が2017年に死去してからは、多角化を目指して脱毛サロンを買収するもすぐに売却するなど、経営も混乱していた。 

 

 船井の破産は、日本のAVメーカーの苦境を雄弁に物語っている。少し前までなら、経営が悪化し赤字に陥った企業でも、「日本ブランド」さえあれば救世主が現れた。しかしもはやそれは通用しない時代になった。だからこその破産手続きだ。 

 

 1990年代半ばまで、日本のAVメーカーは世界を支配していた。テレビでいえばソニーが世界でトップシェアを誇り、パナソニックや東芝、日立もそれを追った。その結果、アメリカではテレビメーカーが「絶滅」した。 

 

 録画機の世界でも同様だ。家庭用VTRの事実上の世界標準となったVHSは日本ビクター(現JVCケンウッド)が開発した。VHSと覇権を競ったベータはソニー製だ。VTRの後継マシンであるDVDも、ソニー、パナソニック、日立、東芝、パイオニアが主導権を握り、世界のデファクトとなった。 

 

 オーディオ機器でも、パイオニア、トリオ(現JVCケンウッド)、山水電気は「オーディオ御三家」と言われ、その技術力とブランド力で世界中の人気を集めた。 

 

 世界中のどの家庭にも、日本製のAV機器が少なくとも1台はある。そんな時代がしばらく続いた。 

 

 

■ バブル崩壊と同時に次々と外国企業に買収されたAVメーカー 

 

 ところが、日本でバブルが崩壊するのとほぼ同時に、日本のAVメーカー、特にオーディオメーカーは突如、苦境に立たされる。 

 

 最初は山水だった。まだバブルが続いていた1989年にイギリスのポリーペック・インターナショナル(PPI)に買収される。外国企業による初めての東証一部上場企業のM&Aだった。ところがPPIは90年に経営破綻、山水は91年に香港セミテックの傘下となる。 

 

 もっとも山水の場合は、1970年代のニクソンショックによる円高以降、労使紛争もあって業績が悪化していたため、外国企業による買収も山水の特殊例と思われていた。ところが山水はすべての始まりに過ぎなかった。 

 

 1994年、やはり中堅オーディオメーカーだった赤井電機が、同じくセミテックに買収される。セミテックは97年には、AVメーカーのナカミチも買収した。 

 

 御三家の1社のパイオニアは、2019年にアジア系投資ファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジアに買収され、上場廃止となった。パイオニアは1979年に「絵の出るレコード」と言われた「レーザーディスク」の製造を開始し、高画質ビデオ市場を創出した。さらにはその技術を基にDVD開発に置いても存在感を発揮した。 

 

 しかし2000年代に入り、社運を賭けたプラズマテレビが液晶に敗れたことから業績が悪化。オーディオ部門も振るわず、2015年にオンキヨーに売却した。現在はファンド傘下でカーナビなど車載製品の製造・販売を行っている。 

 

 そしてオンキヨーも2022年に破産した。残る1社のトリオはケンウッドブランドに統一されたことでブランドが消滅。ケンウッドブランドは今もあるが、オーディオからは撤退した。 

 

■ デジタル化で差別化が難しくなったオーディオ、テレビ 

 

 なぜ日本のオーディオメーカーの経営が立ち行かなくなったのか。時期的にバブル崩壊と重なるが、それは最後のダメ押しでしかなく、根本的な原因は、デジタル化の波についていけなかったことだ。 

 

 1982年、ソニーは世界初のCDプレーヤーと、ソフト50タイトルを発売する。それからの5年で、CDはレコードを完全に駆逐する。円盤の大きさが変わっただけではなく、オーディオのアナログからデジタルへの転換がこの時以降、急速に進んでいく。 

 

 アナログレコードでは、どうしても雑音が入る。それをいかにカットするかがメーカーの腕の見せどころだった。また音質も、メーカーごとの味付けがあった。ところがデータを0か1かで記録するCDは、クリアな音が出せる一方で、メーカーや機種による差別化が難しくなった。端的に言えば、安い機器でもそれなりの音を再生できるようになったのだ。 

 

 これまで音質を追求し続けてきた日本のオーディオメーカーにとって、これは痛手だった。しかも音楽はリビングにあるステレオで聴くものだったのに、1979年のウォークマンの発売以来、パーソナルに楽しむものになった。これも逆風となり、日本メーカーは新興国のAVメーカーの後塵を拝するようになっていった。 

 

 それでも当時はまだ日本メーカーにはブランド力があった。企業としては競争力を失っていても、そのブランドには価値があった。だからこそ、山水も赤井も、これから世界を目指そうという中国(香港)資本が欲しがった。しかしそのメッキも剥げた今、御三家ブランドのオーディオは、パイオニアのカーオーディオを除いて全て姿を消している。 

 

 映像機器も、オーディオの後を追うように日本メーカーは弱体化していく。その最大の要因もやはりデジタル化だ。 

 

 かつて全てのテレビはブラウン管テレビだった。ブラウン管は巨大な真空管であり、その製造および制御には独特のノウハウが必要だった。かつてソニーが「WEGA(ベガ)」で実現した完全平面ブラウン管は、世界中のどのメーカーもまねできなかった。 

 

 ところが液晶やプラズマなど、薄型テレビの登場が全てを変えた。最初はこの分野も日本がリードした。しかし、液晶は半導体と同じようなデバイスの一つに過ぎない。同時にテレビ放送もデジタル化したことでテレビの電子回路もオーディオと同じように差別化が難しくなった。 

 

 

■ 日本のテレビ産業を“絶滅”させないために必要なこと 

 

 その結果、テレビ産業に「垂直統合モデル」から「水平分業モデル」への大転換が起きた。 

 

 それまでは一つのメーカーが、ブラウン管製造、回路製造、組み立てという工程を全て行っていた。ところが、デジタル化によって、液晶も回路も購入して組み立てる時代になった。そしてそれぞれの部品はマスメリットの世界。どれだけ設備投資できるかが優劣を決める。ここに日本企業はついていけなかった。 

 

 その代表がシャープだ。シャープは1990年代末に液晶に集中投資。これが実り、三重県の亀山工場で作られた液晶を搭載したテレビは「世界の亀山モデル」ともてはやされた。ところが韓国サムスンなど、資本力に勝るメーカーが液晶ディスプレイに大規模投資したことで徐々に競争力を失っていく。 

 

 挙げ句はリーマン・ショックで世界からテレビ需要が一時的になくなったことが直撃し経営が悪化。台湾の鴻海に支援を仰がざるを得なかった。しかしそれでも業績は回復せず、今年、大阪・堺市の液晶工場の閉鎖と大型テレビ向け液晶からの撤退を決めたことは記憶に新しい。 

 

 苦しんだのはシャープだけではない。かつてテレビ生産を行っていた日立や三菱電機はすでに撤退。東芝はテレビ事業を中国のハイセンスに売却した。今、日本メーカーでテレビを生産しているのはソニー、パナソニック、シャープぐらいでしかない。 

 

 しかも残る3社も世界における存在感は薄い。シャープは前述の通りだが、ソニーはリーマン・ショック以降8年間テレビ事業の赤字が続き、事業そのものを分社化し、生産を大幅に縮小した。今ではそれなりの利益を稼いでいるが、かつて世界トップシェアを誇った時代を知る者にとっては寂しいかぎりだ。 

 

 そしてパナソニックのテレビ事業は今も赤字が続いている。日本の家電量販店では日本製テレビがまだ主役だが、これは日本だけの風景で、世界では韓国や中国メーカーの製品ばかり。日本製はほとんどお目にかかれない。これが現実だ。 

 

 その背景にはテレビ産業が水平分業に突入して以来、テレビ単体で利益を出すのは難しくなったことがある。だからこそ、ソニーもパナソニックも今ではシェアを追うのを諦めた。一方で単体ビジネス以外できない船井電機は倒産に追い込まれた。 

 

 今、若年層はテレビを持たない人たちも多い。彼ら・彼女らはPCやタブレットでTVerを見れば十分と考えている。そのことを前提に、単体ではなくホームエレクトロニクスの中で新たな付加価値を提供できるかどうか。日本のテレビ産業の浮沈はそこにかかっている。できなければ、アメリカのテレビ産業のように“絶滅”が待っている。 

 

関 慎夫 

 

 

 
 

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