( 227744 )  2024/10/29 15:30:59  
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維新の党は、社会保障の問題をトップに据えてきたが、支持を拡大できず議席を減らしてしまった。

吉村洋文知事や橋下徹氏らが党代表の責任を問うている。

東京組と大阪組の間で理念の違いが生じ、大阪側が十分な問題意識を持っておらず、統一感が欠如しているとされる。

大阪組は政権側にいるため、改革政党としての熱量を示す必要がないと考えている。

これらの問題から、東京と大阪の間に歩調のズレが生じ決定的な結果につながった。

(要約)

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Photo by gettyimages 

 

前回の記事では、自民党・石破政権の混乱と衆院選の歴史的大敗にいたった背景について書いた以上、やはりこちらにも触れておかなければならないだろう。 

 

【画像】石破自民の惨敗を予言していた「一枚の写真」 

 

どこよりも早く「社会保障費の持続可能性(医療・介護制度改革)」「社会保障の世代間格差」をトップイシューに据えて活動してきた日本維新の会が、今回の総選挙では目論見通り政治的争点にそれらが浮上したにもかかわらず、思ったほどの支持拡大に結びつかなかったばかりか、むしろ議席を減らしてしまった。 

 

この結果を受けて、日本維新の会共同代表で大阪府知事の吉村洋文氏や、維新の創設者である元大阪市長の橋下徹氏、党参院幹事長の猪瀬直樹氏らが、相次いで馬場伸幸代表の責任を問う発言を口にしてもいる。 

 

〈日本維新の会の吉村洋文共同代表(大阪府知事)は28日、衆院選の結果を受け、党代表選の実施を要求した。府庁で記者団に「大阪以外は完敗だ。実施するのが筋だ」と理由を説明。党内からも公然と馬場伸幸代表の責任を問う声が上がった。 

 

衆院選で、維新は地盤の関西以外に支持が広がらず、公示前から5減の38議席と苦戦。目標に掲げた「野党第1党」の奪取には遠く及ばなかった。これを踏まえ、猪瀬直樹参院幹事長はX(旧ツイッター)に「馬場氏は敗北の責任を取るべきだ」と投稿。ただ、馬場氏は27日の記者会見で「われわれも与党過半数割れの一翼を担った自負を持っていい」と述べるなど、代表続投に意欲を示している〉(時事ドットコム「維新・吉村氏、代表選実施を要求 党内に馬場氏責任論」2024年10月28日より引用) 

 

選挙戦に入った直後にとある維新の関係者に話を聞いたところ、今回の選挙戦で思いもよらぬ苦境に立たされたことに候補者も関係者もみな面食らっているようだった。 

 

「ウチがどこよりも早く、社会保障問題や世代間格差を言い出して風を起こした自負があるのに、その果実をみんな国民民主党に持っていかれてしまった……」 

 

――という恨み節も聞こえてきた。 

 

愚痴を言いたくなる気持ちはわかる。実際のところ、いまSNSでも大きな盛り上がりを見せている「社会保障の世代間格差」の問題を国政レベルのイシューに押し上げようと奮戦してきたのは紛れもなく日本維新の会で、とくにいわゆる「東京維新」の人びとの尽力なしに語ることはできないだろう。東京組の有志が政策を練りあげて大阪組の幹部陣に具申し、今回の選挙戦を臨むにあたって最大のテーマに採用されたという顛末がある。 

 

今回の選挙戦において維新の東京組は、街宣でも演説でも「現役世代、将来世代のために、社会保障制度を改革します!」とみな一様に訴えた。プランとしては国民民主党よりもずっと踏み込んだ改革案を提示していたといってもよいだろう。 

 

 

にもかかわらず、先述したとおり、維新の支持は伸びなかった。同じイシューの国民民主党は大躍進を遂げたにもかかわらず。 

 

前回の衆院選や統一地方選の追い風がまるで嘘だったかのように凪になった。いや凪どころか強烈な向かい風に襲われたようにすら見える。いったいなぜなのか? 

 

〈石破茂首相が9日の衆院解散を表明し、日本維新の会が危機感を強めている。令和3年の前回衆院選は、政権与党でも野党第一党でもない第三極として、本拠地・大阪を中心に躍進したが、今年に入り、肝心の大阪の地方選挙で敗北が相次ぐ。関係者の不祥事や離党も目立つ中、新政権発足で自民党の党勢が持ち直す可能性もあり、維新にとっては三重苦の様相を呈す〉(産経新聞『維新、三重苦の衆院選 (1)地方選逆風(2)不祥事(3)相次ぐ離党 識者「何がしたいか伝わらず」』2024年10月3日より引用) 

 

党勢の急激な衰えについて、維新の関係者に聞くと「万博のゴタゴタのせい」とか「前兵庫県知事・斎藤元彦氏のパワハラ騒動のせい」とか「足立康史前衆議院議員がSNSで味方(とくに音喜多駿党政調会長)に弓を引いて暴れたせい」といった意見が上がった。そうした諸々の出来事が党勢にとってプラスにはならなかったのは事実だろうが、とはいえ決定打となったのはそれらではないだろうとも感じる。 

 

維新はいま、大阪側のリーダーや議員たちが「なんとなく(東京側の理屈に)納得していない」せいで肝心なところでブレてしまい、結果として有権者から軸が見えにくく、なにがしたいのかよくわからない政党になってしまっているのだ。ここでいうリーダーとはむろん馬場伸幸代表のことだが、馬場氏のインタビュー映像などを見ていると、金融“所得”課税を推進していたりと、東京側の維新のロジックと整合性が取れないような発言が目立っている。 

 

ただ、馬場氏が東京組とは本心では真逆のことを考えているというより、「大阪組は東京組ほど社会保障の持続可能性や世代間格差に対して切迫した問題意識を持っておらず、理論武装が不十分で、そのせいで討論やインタビューに出るたび場当たり的にあやふやなことを言ってしまっている」という印象を受けた。 

 

いずれにしても、概して若い世代の支持が多い東京側の議員や関係者たち(≒国政政党としての維新の会)の問題意識とそのシリアスな熱量・切迫感が、馬場氏をはじめとする大阪側のベテラン議員や関係者たち(≒地方政党としての維新の会)に対して十分に伝わらず共有されていないということには変わりない。 

 

首都圏に集まる若い世代の「社会保険料に対する憤り」のトーンが、地理的に遠く離れた大阪の、世代的にも隔たりがある幹部や議員たちにはなかなか伝わらない。例外的に吉村共同代表は東京側の熱量に共感しているが、彼はあくまで「共同代表」の立場であるため、党議をまとめる全権を持っているわけではない。 

 

東京(≒国政)側の熱量や問題意識が大阪側のリーダー層に伝わりにくいのは、上述したように大阪と東京の地理的・世代的隔たりも原因ではあるが、それ以上にボトルネックになっている別の要因がある。 

 

すなわち、維新の会は「大阪では与党である」という点だ。 

 

大阪組は、自分たちは与党つまり「体制側」で盤石な勢力を持っているのだから、リベラルな改革政党のようにわざわざ均衡を壊すような動きをして波風をたてる必要などない――そう考えてしまうのである。 

 

この「東京と大阪の歩調のズレ」が今回、決定的な結果をもたらすことになった。後編記事【維新はもはや「権力側」の党になってしまった…総選挙で国民民主に敗北した「ブレ」「ズレ」「パラドックス」の深層】で続いて考察する。 

 

御田寺 圭 

 

 

 
 

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