( 227859 ) 2024/10/29 17:45:40 1 00 コロナ禍で急速に広まったリモートワークも、一部の先進企業が縮小・廃止する動きが見られる中、日本の現状を見ている。 |
( 227861 ) 2024/10/29 17:45:40 0 00 (撮影:今井康一)
コロナ禍で一気に普及したリモートワーク。ところが、米アマゾン・ドット・コムが社員に週5日の出勤を要請するなど、世界の先進企業の中でリモートワークを縮小・廃止する動きが目立っています。新しい働き方とされたリモートワークは、コロナ禍の遺物としてこのまま廃れてしまうのでしょうか。日本の現状を見ていきましょう。
【グラフを見る】リモートワークの実施率は低位横ばいの傾向
■社員はリモートワークを大歓迎
今回、リモートワークの現状と今後について、60人以上の企業関係者にヒアリング調査をしました。まず一般の社員。社員は業種や老若男女問わず、おおむねリモートワークを歓迎していました。
「2020年にリモートワークが始まってから4年経って、業務の進め方やコミュニケーションの取り方などすっかり慣れました。不自由を感じることはほとんどありませんし、以前と比べてメリハリがついて、業務の生産性が上がったと思います」(エネルギー)
「現在もほぼフルリモートです。通勤時間がなくなってワークライフバランスが改善したのと、マイペースで仕事ができるようになったのが大きいですね。会議が増えた印象はありますが、通勤時間の減少のほうが大きいです」(通信)
一方、少数ですが、一人で働くことでモチベーションの維持が難しくなったという、リモートワークに否定的な見解が聞かれました。
「当初は、朝メイクをする必要もなく、ウザイ飲み会も減って『やったー!』という感じでした。でも、人と会話する機会がめっきり減り、最近は疎外感を覚えます。まったく外出しない日とかは、『こんな暮らしでよいのか』と気持ちが落ち込みます。といって、コロナ前のように毎日出社というのも、勘弁してほしいですが」(IT)
■経営者はブラックボックス化を懸念
逆に経営者は、すでにリモートワークの縮小・廃止に踏み切ったという場合だけでなく、これまで通り維持しているという場合でも、リモートワークの問題点を指摘していました。
「リモートワークによって、社員の会社への帰属意識が顕著に低下しました。コミュニケーションが悪化し、職場がバラバラになってしまいました。当社では、リモートワークをあくまでコロナ対応の緊急避難措置、コロナの負の遺産と考えています」(電機)
「当社では、チームワークを重視しており、今後できればリモートワークを廃止したいと考えています。よく『オンラインでもかなりの共同作業ができる』と言いますが、何とか対応できるというのと創造的な仕事をするというのでは、大きな隔たりがあるのではないでしょうか」(建設)
ここで、「リモートワーク反対の理由はいろいろあるけど、たいてい綺麗ごとです。単純に経営者は支配傾向が強いからですよ」(小売り)という興味深いコメントがありました。
支配傾向とは、他人を自分の意志に従わせて行動させようとする欲求のことです。多くの経営者は支配傾向が強く、部下を意のままにコントロールしたいと考えます。リモートワークで社員の行動がブラックボックス化し、自分の支配から外れてしまうのは、「経営者にとって許しがたいこと」(小売り)のようです。
このように、社員はリモートワークに賛成、経営者は反対と明確な傾向があったのに対して、意見が大きく割れたのが、人事部門担当者です。
「反対です。リモートワークは社員がリラックスして仕事ができる反面、プレッシャーを感じにくく刺激も少ないため、長時間にわたってモチベーションを維持するのは困難です。生産性を上げるには、やはり出社を基本にするべきでしょう」(素材)
「賛成です。リモートワークでは、社員に高度な自律性とコミュニケーションスキルが求められます。ただ、難しいからリモートワークをやめようとするのではなく、社員の自律性が高まるように、またコミュニケーションが活性化するように職場運営するほうが、長期的には生産性が上がっていくと思います」(化学)
また、多くの人事部門担当者は、経営者と社員の間にいるという立場から、板挟みで判断をしかねていました。
「経営者からはリモートワークの縮小・廃止を検討するよう指示が出ています。もっとも、リモートワークを望む社員が多いですし、リモートワーク制度が就職・転職市場で一定のアピール材料になっています。経営者の指示だからといってハイハイと言うことを聞くべきか、悩ましいところです」(情報サービス)
■アマゾンのリモートワーク廃止はリストラ策?
では、今後はどうでしょう。日本でも、今年に入ってリモートワークを縮小・廃止する企業が出始めています。経営者は、上記のようにリモートワークに否定的です。ということから、今後リモートワークは一気に縮小・廃止に向かうと予想する向きがありますが、そうでしょうか。
日本の今後を占う前に、アメリカのリモートワークについて確認しておきましょう。国土が広大なアメリカでは、リモートワークの要望が強く、コロナ前からIT企業を中心にリモートワークがかなり普及していました。
アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは、今回のリモートワーク廃止について、「私たちは新型コロナ拡大前のように、オフィスに戻ることを決めた。社員の学習や連携、企業文化の強化などを容易にするためだ」と理由を説明しています。
しかし、この説明を額面通りに受け取ることはできません。アマゾンや大手IT企業は、近年、社員が急増したことに対応して、大規模なリストラを繰り返しています。また、アメリカでは、本社を移転して転勤に応じない社員をクビにするというのが常套手段です。
そのため、今回のアマゾンのリモートワーク廃止は、「出社が嫌ならどんどん辞めてくれ」という一種のリストラ策だと、アメリカ国内では理解されています。
また、リモートワークを廃止したIT企業の多くが、リストラをする一方、有望な社員には例外的にリモートワークを認めています。アマゾンのニュースで、リモートワークが一気に消滅してしまうかのような印象を持ちますが、アメリカではリモートワークは引き続き重要です。
■「アマゾンに続け!」は危険
アマゾンのリモートワーク廃止を聞いて、日本でも、「ならば、わが社も後に続こう!」と前のめりになっている経営者が多いかもしれません。しかし、これは危険な発想です。
コロナ前まで日本の職場では、社員同士が膝を突き合わせて仕事をすることを前提に、非効率な業務運営をしていました。それが、コロナ禍のリモートワーク導入で、マニュアル化・メールでの伝達・DXなど業務改革が大きく前進しました。
ただ、ジョブ型への転換がなかなか進まないように、改革は十分ではなく、多くの企業で非合理的な業務運営が残っています。リモートワークを縮小・廃止すると、元の非効率な業務運営に戻ってしまうのではないでしょうか。
また、現在、多くの日本企業は、深刻な人手不足に悩まされています。人材採用、とくに中途採用では、著名な大手企業でも大苦戦しています。アマゾンと違って、リストラどころではありません。
転職希望者、とくに若年層や子育て世代にとって、リモートワークで柔軟な働き方をできるかどうかは、重大の関心事です。リモートワークを縮小・廃止するどころか、むしろ拡大し、人材採用のアピール材料にすることは考えられないでしょうか。
経営者は、「アマゾンに続け!」とリモートワークを縮小・廃止する前に、自社の業務と人材を冷静に見つめ直す必要がありそうです。
日沖 健 :経営コンサルタント
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