( 228069 )  2024/10/30 02:50:24  
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衆院選で自民党と公明党の与党が過半数割れしたことで市場は不透明感を増しています。

投資家の懸念が高まっていましたが、石破首相の進退が焦点となった状況です。

市場では政策不透明感の影響でトリプル安(株安、円安、債券安=金利上昇)の動きが見られました。

ただし、日本の政治要因だけでこの動きを説明するのは難しく、米国の長期金利や経済指標の動向も重要です。

さらに、衆院選後の株価は予想されたよりも高い動きを見せる可能性もあり、政権基盤の弱体化が大型景気対策に繋がり、株式市場には好影響を与えるかもしれません。

(要約)

( 228071 )  2024/10/30 02:50:24  
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 衆院選で自民党と公明党の与党が過半数割れしたことで、市場には不透明感が増しています。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。 

 

[写真]衆院選の開票を見守る石破茂首相(代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 衆院選の結果は多くの投資家が予想していたよりも与党系が苦戦しました。自民・公明党の過半数(233議席)割れは事前に予想されていたものの、結果は215議席の獲得に留まり、石破首相の進退が焦点となる事態に発展しています。非公認議員の取り込みに成功してもなお自公が過半数割れとなった場合、連立への合流が一部で取り沙汰されている国民民主党については、29日夕方時点の情報に基づくと玉木代表は「連立政権入りはない。交渉には応じない。政策本位で進めていく」と明言。また日本維新の会の馬場代表は「今の与党に協力する気は全くない」として、両党とも連立の合流に否定的な構えを示しており、政策不透明感が強まっています。 

 

 本邦金融市場では、自公の過半数割れが意識され始めた頃からトリプル安(株安、円安、債券安=金利上昇)の様相を呈していました。政権基盤の弱体化によって政策遂行能力が低下することを懸念した投資家が相当数存在したことは事実でしょう。 

 

 とはいえ、国内政治要因でトリプル安を説明するには無理があります。まず、金利と為替については米長期金利の動向がより重要です。FRB(連邦準備制度理事会)が0.5%ポイントの利下げに踏み切った9月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)以降、雇用統計や小売売上高など米経済指標が力強さを取り戻す中、FRBの利下げ観測は後退し、FF金利先物が織り込む年内の利下げ幅は縮小傾向にありました。 

 

 また2025年12月FOMCにおける政策金利の予想は現在3.5%程度で、これは9月FOMC直後の2.9%程度から大幅に切り上がっています。こうした中で、円金利上昇を伴って日米の長期金利差が拡大し、ドル高・ 円安が進むのはある意味自然です。衆院選後の28日にUSD/JPYは153円を一時突破したものの、これが「日本売り」を意味しているかと言えば、現時点で筆者は懐疑的にみています。 

 

 

 株価については政策不透明感が嫌気されても仕方ありませんが、そうした懸念をよそに、衆院選明けの28日の東京株式市場では株高が進みました。衆院選前までの売りに対する反動に加え、拡張的な財政政策と金融緩和の維持を掲げる国民民主党との連立政権樹立が意識された可能性があります。軟弱な政権基盤は、支持率回復を狙った大型景気対策につながりやすいため、むしろ株式市場に好影響とも言えるでしょう。 

 

 特に石破首相は、総裁選でも財政規律を重視する構えを崩さず、バラマキ型の政策運営に距離を置く「頑固さ」が魅力だったので、皮肉にも支持率低迷が積極的な財政政策に対する期待を高めた面があります。石破氏がかつて言及した法人税増税や金融所得課税の強化に対する警戒感は一段と後退しています。 

 

 なお今回の衆院選において「選挙は買い」の法則は崩れました(解散表明から選挙当日までの株価が上昇する法則)。このことをもって、日本株に悲観的な見方もあるようですが、あくまで株高はアノマリー(金融理論では説明できない株価の法則・規則性)ですから、大きく取り扱う必要性に乏しいと筆者は考えます。 

 

 そもそもこの法則は、逆の因果関係を考える必要もあります。というのも時の首相は、景気がある程度良く、株高の局面で解散を決断する傾向にあるので、解散前後の株価が堅調に推移するのは当然と言えば当然です。直近では2014年11月と2017年9月の解散がそれに該当します。2014年11月は、2014年10月末にQQE2と呼ばれる日銀の追加金融緩和が決定され、それと時同じくしてGPIF(公的年金制度の積立金約160兆円を運用する機関)が株式などリスク資産への配分を増やしたことによって株高基調にありました。2017年9月は日本のGDPが29年ぶりに7四半期連続のプラス成長を達成し、企業収益も好調だったことから株価は上向き基調でした。 

 

 以上を踏まえると、当面は日本の政策不透明感が株安を招いてしまう可能性はありそうです。ただし、円安と債券安(金利上昇)は米国側の要因が大きいので、必ずしも日本側の要因で動く訳ではありません。したがって「日本売り」、「トリプル安」という状況には至らないと判断しています。 

 

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※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 

 

 

 
 

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