( 228279 )  2024/10/30 17:41:20  
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テレビCMに初参戦した電動キックボードシェアサービス「LUUP」は、観光客や若者だけでなく、40~50代の人々にも利用され、日常の移動手段として定着していることを訴えている。

LUUPは過去介護分野で事業展開を目指していたが、都市部のラストワンマイルの課題を受けて電動キックボードに注力し、厳格な規制環境を乗り越えてサービスを拡大。

ポート数を大幅に増やし、ポート管理や利用頻度の向上に成功。

マナー問題への取り組みを強化し、新技術などを活用してサービスの質を向上させている。

将来的には都市全体にポートを設置することで、新たな都市の回遊性を生み出すビジョンを掲げている。

(要約)

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LUUPは初のテレビCMにタレント二宮和也氏を起用(筆者撮影) 

 

 電動キックボードと聞くと、観光客や若者向けの乗り物というイメージを持つ人も多いだろう。しかし、シェアサービス「LUUP(ループ)」の利用実態は大きく異なる。全国1万箇所のポートを展開し、アプリダウンロード数300万を突破した同サービス運営会社のLUUPは10月24日、タレントの二宮和也氏を起用した初のテレビCMを発表した。その背景には、確かな手応えと新たな都市インフラへの挑戦がある。 

 

【画像】電動キックボードの利用実態。若者向けの「流行りもの」ではない 

 

■イメージと実態の大きな乖離 

 

 「正直、世間の方々のイメージは、私たちの実態とかなり乖離しています」。24日、都内で開催された新CM発表会で、LUUP代表取締役CEOの岡井大輝氏はこう切り出した。 

 

 一般的に「遊び」や「レジャー」のツールと思われがちな電動キックボードだが、平日の利用の85%は通勤や買い物など、日常の移動手段として使われているという。休日でさえ、観光や散策目的の利用は16%にとどまる。 

 

 若者向けの「流行りもの」というイメージとも実態とは異なる。「40~50代の方々も含めて、幅広い年齢層の方に日常的に使っていただいています」と岡井氏。家族での利用も増えているという。 

 

■規制との闘いから生まれた新制度 

 

 創業時のLUUPは、介護分野でのサービス展開を目指していた。「Uber Eatsのような仕組みで、介護士さんを短時間単位で派遣するサービスを考えていました」と岡井氏は振り返る。 

 

 しかし、構想を練る中で、根本的な課題に行き当たった。日本の都市部は鉄道網が発達している一方で、駅から離れた場所へのラストワンマイルの移動手段が不足している。介護士が効率よく移動できなければ、マッチングサービスも成り立たない。そこでまずは、移動インフラの整備に軸足を移すことを決断した。 

 

 2020年、同社は電動アシスト自転車のシェアリングサービスからスタート。より柔軟な移動手段として電動キックボードにも着目した。 

 

 当時、電動キックボードは厳しい規制環境に置かれていた。原動機付自転車として扱われ、最高速度30キロメートル毎時での走行が可能だった一方で、運転には原付免許が必要だった。「この速度設定は国際的な基準と比べて高すぎます。諸外国でそんな速度で走れる電動キックボードは、ほぼ存在しません」と岡井氏は当時を振り返る。 

 

 

 同社は政府や自治体との対話を重ね、安全な規制のあり方を探るため、沖縄から北海道まで数十回にわたる実証実験を実施した。その結果として、2022年4月に改正道路交通法が公布。電動キックボードなどを対象とした「特定小型原動機付自転車」という新たな車両区分が設けられ、2023年7月から施行された。新制度では最高速度が20キロメートル毎時以下に制限される一方で、16歳以上であれば免許不要で運転可能となった。 

 

 同社が電動キックボードの導入にこだわった背景には、将来を見据えた戦略的判断がある。現在、車両は電動キックボードと電動アシスト自転車が半々の比率で展開されているが、電動キックボードには独自の優位性があるという。GPSの精度向上により、歩道走行の自動検知や速度制限など、技術的な制御が可能だ。また、構造がシンプルなため耐久性が高く、シェアリング事業の採算性にも優れている。 

 

 サービス開始から4年。LUUPの車両の貸出・返却場所となるポートは、全国1万箇所にまで成長した。このうち、約半数が東京に集中する。都内では大手コンビニ3社の全店舗数を上回るポート数を展開している恰好で、他社を圧倒している。 

 

 同社はなぜここまでポートを拡大できたのか。強みについて岡井氏は2つの特徴を挙げた。 

 

 1つは独自開発の予約システムだ。「目的地を必ず予約しなければいけない機能を、世界のシェアサイクル企業の中で唯一持っています」と岡井氏。LUUPのシステムでは乗車時に目的地のポートに空きがあるか確認してから乗車する仕組みとなっているが、これにより各ポートの収容台数を厳密に管理できる。既存のシェアサイクルでは10台と決められた場所に20~30台が集中することもあるが、同社のシステムではそうした問題を防げるのだ。 

 

 さらに、ポートの多さ自体が新規設置の追い風となっている。岡井氏は「例えば北参道駅のような場所のコンペがあるとき、シェアサイクル事業者が複数手を挙げても、基本的に弊社が選ばれます。渋谷方面に行きたい入居者のために、マンションやオフィスのオーナーは、そのエリアにポートを持つ弊社を選びます」と説明する。 

 

 興味深いのは、ポート数の増加が利用頻度の向上にもつながっている点だ。「当初は『ステーション数が増えると一台あたりの利用が減るのでは』という懸念もありました。しかし実際は、自宅の近くにもオフィス近くにもポートがあることで、2回だった利用が毎日の利用に変わるなど、むしろ頻度は上がっています」(同氏)。 

 

 

■根強いマナー問題への厳格な姿勢 

 

 一方で急速な普及に伴う課題も浮き彫りになってきた。SNSでは歩道走行や危険な運転を指摘する声も少なくない。 

 

 「実は、ルールを守って利用している方々から『マナーの悪い人のせいで全体のイメージが悪くなる』という声を多くいただきます」と岡井氏。今回のCMキャラクターに起用された二宮和也も「4~5台の真面目な利用者の中に1台、悪目立ちしている人がいる印象」と指摘する。 

 

 同社は対策として、利用開始時の本人確認や交通ルールテストの全問正解を義務付けている。全車両にGPSを搭載し、不適切な駐車も監視。対人・対物・自損の保険も完備する。 

 

 電動キックボードが特定小型原動機付自転車として免許不要で乗れるようになったことで、新規ユーザーの裾野は大きく広がった。事業拡大フェーズに入った今、岡井氏は「より厳格な運営が必要」と判断。違反者への対応も強化する方針だ。「軽微な違反であっても、警察と連携してユーザーを特定し、必要に応じてアカウントの凍結も実施していく」と強調した。 

 

 技術面での対策も進められている。GPSの精度が向上すれば、歩道走行などの違反を自動検知し、強制的に速度制限をかけることも可能だ。すでに内閣府と実証実験を始めているが、現状では精度やコストの面で課題が残る。「足元では人的な取り締まりを強化しつつ、新技術の開発も並行して進めていく」と岡井氏は説明する。 

 

■「街じゅう駅前化」への展望 

 

 岡井氏が掲げるビジョンは「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」こと。日本の都市は高度経済成長期に鉄道網が整備され、駅前に街が形成されてきた特徴がある。その結果、駅から離れた場所の不動産価値は相対的に低く、都市機能も駅前に集中しがちだ。LUUPはこの構造を変えようとしている。駅から離れた古くからある商店街や、魅力的な店舗へのアクセスを改善することで、都市の新しい回遊性を生み出す狙いだ。 

 

 

 「徒歩30分の場所でもLUUPなら5~10分。街中にポートがあれば、駅から離れた場所でも駅前と同じような利便性で生活できる」(同氏)。マンションの入居者専用ポートを設置する例も出るなど、新しい都市の在り方への挑戦は着実に進んでいる。 

 

 都市部での展開に加え、地方でも新たな動きが始まっている。地元自治体や企業と協業し、その地域に合わせた台数や料金設定でサービスを提供。観光客が集中する季節だけポート数を増やすなど、大手交通機関では対応が難しい柔軟な運営を可能にしている。 

 

 事業としての手応えも出てきた。各エリアでの採算は確保できており、ポート数を増やすことで収益性は向上するという。ただし、企業全体としての黒字化については明言を避けた。 

 

 その一方で、創業時の構想でも広がりを見せている。最近では訪問介護事業者との連携も始まり、介護スタッフの移動手段としても活用され始めた。事業所に寄らずに直接利用者宅を訪問できるため、スタッフの稼働効率が向上。人材確保にもつながっているという。 

 

 「便利で安全なだけでなく、日常が少し楽しくなるようなインフラを目指したい」。岡井氏の視線は、すでに次のステージを見据えている。 

 

石井 徹 :モバイル・ITライター 

 

 

 
 

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