( 229369 )  2024/11/02 16:52:07  
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自民・公明連立与党が過半数割れて政策運営が困難になった。

金融の正常化ができず、財政赤字が拡大する恐れがあるため、日本経済は深刻な危機に直面している。

今後の政治状況は流動化し、新たな政治体制が必要となる可能性が高い。

部分連合が検討されており、野党と協力して政策を進める形態が考えられるが、方針が一貫しない可能性もある。

財政赤字の拡大が深刻な問題であり、物価上昇や金利上昇にも注意が必要とされている。

(要約)

( 229371 )  2024/11/02 16:52:07  
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by Gettyimages 

 

今回の衆議院選で自民・公明連立与党が過半数割れになり、今後の政策運営は極めて困難になった。財政経済政策では無原則のばらまきが行われ、財政赤字が拡大する危険がある。その半面で、金融の正常化が進められなくなり、インフレが悪化するおそれがある。日本経済は、重大な危機に直面している。 

 

【写真】自公過半数割れ、連立政権風前の灯火で「経済」は後回し! 

 

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衆議院選における自民党・公明党の惨敗によって、日本の政治状況が大きく流動化し始めた。 

 

石破首相は、連立の枠組みを拡大することを考えているという。しかし、これは、簡単にはできないだろう。事実、立憲・維新・国民の各党は、自公連立政権に加わることを否定している。 

 

来夏に議議院選が予定されていることを考えれば、これは当然の判断だ。自民党への批判が高まっている状況で連立入りすれば、参議院選において票を失うことがほぼ確実だからだ。 

 

そうだとすると、自公与党が過半数にならない「少数与党政権」が誕生する可能性が高い。 

 

その場合には、政策ごとに野党の協力を求める形態をとらざるを得ないだろう。これは、「パーシャル連合(部分連合:partial coalition)」と呼ばれているものだ。日本でも、これまで何度か行われたことがある。 

 

今回の場合は、立憲、維新、国民民主が、連立入りはしないが、個別政策で自公与党と政策協議し、合意した予算案や法案については賛成するという形態が考えられる。 

 

なお、維新や国民は、連立は否定しているが、部分連合は否定していない。石破首相は、経済対策について国民民主に打診と報道されている。 

 

戦後の日本で、自民党が政権を継続できなかったことが2回ある。 

 

第1回目は、1993~1994年の 非自民・非共産8党派連立政権だ。1993年6月の宮澤内閣不信任案が、自民党の反主流派・羽田派の造反によって可決され、衆議院が解散された。そして、1993年の総選挙後に細川内閣(93年8月~94年4月)が、続いて羽田内閣(94年4月~6月)が成立した。羽田内閣の後の、村山内閣で自民党は政権に復帰。これは「自社さ(自由民主党・日本社会党・新党さきがけ)連立政権」(94年6月~98年6月)とも呼ばれた。「1955年体制」における対立軸であった自民党と社会党が連立政権を作ったという意味で、画期的なものだった。 

 

第2回目は、2009~2011年の民主党政権だ。自民党は公示前に300あった議席が119に激減し、1955年の結党以来、初めて第1党の座を失った。これに対して、民主党は公示前の115から308まで議席をふやし、単独過半数(241議席)を大きく上回った。民主党は、社会民主党・国民新党とともに、連立政権(鳩山内閣と菅内閣)を作った。 

 

これらのいずれの場合にも、国民の側から見れば、新しい政治体制への期待があった(実際には、その期待は満たされなかったのであるが)。 

 

しかし、今回の政治状況は、これらとは異なる。多数勢力が存在しない(あるいは、作れない)ので、重要な決定ができない。政策の中身によらず、どんな政策も実行が難しいということになってしまう。極言すれば、「何もできない」という事態に陥る危険がある。この意味で、現在の状況は、これまで日本が経験したことのなかった新しい事態だ。 

 

こうした状況は外国ではしばしば見られるが、戦後の日本では初めての事態だ。日本はいま重大な危機に直面している。 

 

 

部分連合であれば、野党は、従来の路線を変更したという非難をかわすことができる。むしろ、党が従来から主張してきたことを政策に反映したと主張することができるだろう。その意味では、野党としても協力しやすい形態だ。 

 

しかし、部分連合のためには協力党の主張を取り入れなければならないので、首尾一貫しない無原則で方向性のないばらまき政策が行われる可能性が強い。と言うより、ほぼ間違いなく、そうなるだろう。 

 

まず、補正予算において、物価対策と称して、さまざまの給付金や補助金が支出されるだろう。とりわけ問題なのは、ガソリン代補助など、高額所得者や企業が受益する施策が延長される可能性が高いことだ。 

 

また、2025年度予算においても、他方で様々な給付金が増えるだろう。 

 

こうして支出は増えるが、その半面で、増税や社会保険料の引上げなどの負担増は進まない。場合によっては、見送りとされるだろう。 

 

とくに問題なのは、防衛費増額のための増税だ。これはすでに決定されているにもかかわらず、具体的な細目や増税時期が決まっていない。これを決定し実行するのは、きわめて難しい課題になるだろう。このほか、医療保険や介護保険の保険料率引き上げや自己負担の増加も難しい。 

 

金融資産所得の強化は、まずできないだろう。むしろ、減税が行われる可能性がある(国民民主は、大規模な所得税減税を主張している)。 

 

バラマキ施策の財源を歳出削減や増税に求めるのは、ほぼ不可能だ。だから、国債増発に頼らざるをえない。 

 

コロナ以降、様々な給付金などが行われて財政が膨張しており、特に補正予算において拡大的な施策が行われることが半ば慣習化してしまった。このため財政赤字が拡大している。 

 

「中長期の経済財政に関する試算」(内閣府、2024年7月)によれば、GDPに対する国債残高 の比率は、2024年度 で175.8%だ。 

 

将来を見ると、「成長移行ケース」では、今後低下し、2033年度には154.4%|になる。しかし、このようなシナリオが実現する確率は、極めて低くなってしまったと考えざるをえない。 

 

「過去投影ケース」では、今後上昇して2033年度には181.8%になる。しかし、こうした水準に収まるかどうかさえ、定かではない。 

 

財政制度が大きく違うので単純な比較はできないのだが、日本の公的部門の債務残高の対GDP比は、先進諸国に比べるとかなり高い。財務省の資料によれば、最近時点で、日本が257.2%であるのに対して、アメリカ120.0%、イギリス100.4%、ドイツ66.1%、フランス11.8%などだ。 

 

このように、日本の財政赤字はきわめて深刻な問題だ。 

 

 

不完全雇用経済では、財政赤字が拡大しても、遊休資源があるので、それらが使われてGDPが拡大するだけであって、物価上昇を引き起こすることはないと考えられるかもしれない。しかし、そうは言えない。 

 

財政赤字が増大すると、不完全雇用下ではGDPが増加するが、それだけでなく、金利も上昇することに注意しなければならない。なぜなら、GDPの増加に伴って貨幣に対する取引需要が増加するので、貨幣供給量が不変なら、金利が上昇して貨幣に対する資産保有需要を減少させる必要があるからだ(マクロ経済学では、このことを「LMカーブは右上がり」と表現している)。 

 

ところが、現在の日本のように金利が上昇しないように制約されていると、あるいは、政府から圧力が加わって、日銀が本来取るべき政策を実行できないと、物価が上昇して実質貨幣残高を減少させるような圧力が加わる。このため、不完全雇用下でも、財政支出の増大が物価上昇をもたらすのである。 

 

これは、物価高に悩む日本に、さらに困難な問題を突きつけることになる。そして、実質賃金の持続的な上昇という目標は、一層遠のくことになるだろう。 

 

野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授) 

 

 

 
 

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