( 230069 )  2024/11/04 16:53:31  
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北海道新幹線の開業延期に伴う混乱が続く中、並行在来線後志ブロックの協議が1年3カ月ぶりに再開された。

新幹線工事の遅延やバス路線網の問題、地元自治体との対立など道の政策に対する批判が表面化している。

特に倶知安町ではバスだけでは対応できない利用者数の増加があり、鉄道維持の必要性が指摘されている。

さらに原発災害時の避難輸送においても鉄道の重要性が訴えられているが、地域交通の破壊や地域経済活性化の機会の剥奪につながる可能性が懸念されている。

(要約)

( 230071 )  2024/11/04 16:53:31  
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紅葉する銀山駅に到着するH100形の列車(写真:Keiji "tekito" NISHINO/PIXTA) 

 

■並行在来線協議会が1年3カ月ぶりに再開 

 

 2030年度末に札幌延伸開業が予定されていた北海道新幹線がトンネル工事の遅れを理由に開業延期に追い込まれた。問題となったのは、長万部―倶知安間に建設中の羊蹄トンネル比羅夫工区で巨大な岩塊が出現したことにより工事が大幅に遅延していること。さらに、新小樽―札幌間を結ぶ札樽トンネルの工事では基準値を超えるヒ素や鉛などの重金属を含む残土処理の問題も表面化。2024年度から始まった作業員の残業規制強化や、北海道千歳市で建設が進む次世代半導体工場ラピダスの工事に関係した作業員不足なども問題も重なり、開業時期が見通せない状況となっている。 

 

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 そのような状況で、並行在来線後志ブロックの協議が中断したままの異常事態が続いていたが、2024年8月28日になって1年3カ月ぶりに協議会が開催された。 

 

 北海道新幹線の札幌延伸開業が「5年程度は遅れそうだ」ということは、すでに2022年頃から関係者の間で噂されていたことではあったが2024年5月8日、建設主体である鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構)の藤田耕三理事長が「2030年度の札幌開業が困難である」と5月8日、斉藤鉄夫国土交通大臣に報告した。 

 

 これを受けて鈴木直道知事は、その後の記者会見の場で「なぜ、このタイミングで判断に至ったのかという理由、工期短縮するためのこれまでの取り組みや成果、開業延期の影響への対応など詳細について、丁寧に説明していただく必要がある」と遺憾の意を表明した。さらに、鈴木知事は北海道新幹線の札幌延伸については「道民の悲願」と強調。その後、5月14日になり国土交通省を訪問、斉藤大臣に早期開業を要望した。 

 

 5月29日には鉄道・運輸機構の藤田理事長が札幌市を訪問し鈴木知事や沿線自治体の首長らに謝罪し工事の状況を説明。鈴木知事を始め沿線自治体の首長らは鉄道・運輸機構に対して納得できないと言わんばかりに詰め寄り、八雲町の岩村克詔町長は「なんだ、日本の土木技術もたいしたことないな」と発言し物議をかもした。鈴木知事を始めとした北海道の首長らは、鉄道・運輸機構を一方的に批判するばかりで、いっしょに問題解決を図ろうとする姿勢は見られなかったのは残念だ。自然相手の長大トンネル工事は掘ってみなければわからない側面がある。 

 

 

■泥沼化の並行在来線は問題だらけ 

 

 北海道新幹線の札幌延伸開業に伴い並行在来線となる函館本線の函館―長万部―小樽間はJR北海道から経営分離されることが決まった。通常のケースでは並行在来線は新幹線の開業に伴い第三セクター鉄道に経営移管されるのが通常であるが、道が主導する協議会では、2022年3月にまず輸送密度が2000人を超えている余市―小樽間を含む長万部―小樽間の廃止の方針を沿線のバス会社を協議の場に呼ぶことなく独断で決めてしまったことから、北海道中央バスは激怒。各所からも道に対する疑問の声が噴出していた。 

 

 その後、バスドライバー不足の問題が表面化したこともあり2023年5月28日のブロック会議を最後に長万部―小樽間の協議が1年以上にわたって中断されるという異常事態に陥っていた。2024年8月28日になり1年3カ月ぶりに開催されたブロック会議では、はじめて沿線にバス路線網を展開する北海道中央バス、ニセコバス、道南バスの3社が協議の場に呼ばれ、道側は鉄道代替バスの内容について説明を行った。 

 

 説明の内容は長万部―小樽間を9つの区間に分割し、余市―小樽間で21本、仁木―余市間で19本、ニセコ―倶知安間で16本の新設のバスが必要になるというものだったが、説明を受けた3社はいずれも既存のバス路線を維持するだけで手いっぱいの状態で、道が提案した鉄道代替バスの本数の確保は一様に困難であるとの姿勢を示した。 

 

 こうしたバス会社の姿勢を受けて、余市町の齊藤啓輔町長は、道の案は「バス会社の意見を踏まえると、成立しないとわかった」と強調するなど、沿線自治体の首長は道が提案するバス転換論は実現しそうにないという空気が広がった。地元紙の報道によると、道総合交通政策部の宇野稔弘交通企画監は代替バスの内容は「今後の議論の出発点として示した」としたものの、会合後には「この計画のまま行くとは思っていない」と話したが、道の担当者は「山登りに例えるならばようやく登山口に来た。これから長い調整が必要になる」と発言。あくまでもバス転換にこだわるという本音をにじませた。しかし、余市町の齊藤町長は、協議会開催前の2024年6月24日に開かれた定例町議会で「バス転換合意は迅速かつ大量輸送の確保が前提。それが崩れる場合は合意を撤回する」と答弁している。 

 

 

■大勢の客が殺到し、倶知安町の主張は破綻 

 

 新幹線新駅の建設が進む倶知安町では、新幹線新駅の整備に支障をきたすということを理由に、函館本線長万部―倶知安―小樽間の2025年での廃止を主張している。しかし、特に2023~2024年の冬の観光シーズンにかけては倶知安―小樽間ではインバウンド旅行者を含めた大勢の観光客で激しい混雑となり、途中の余市駅では乗客が列車に乗り切れなくなる積み残しが発生したことから、2月に入りJR北海道では日中に運行される2両編成のH100形気動車から3両編成のキハ201形気動車に車両を置き換えて運行を行っているなど、バスではさばき切れないほどの利用者がいる現状では倶知安町の主張は完全に破綻している。ある関係者は「倶知安町の廃止前倒しの主張については、道庁から2022年6月頃まで倶知安町に出向してきた参事クラスの職員が計画をまとめていたようだ」と証言する。 

 

 北海道交通政策局並行在来線担当課長の小林達也氏によれば、北海道中央バスなどバス会社と鉄道代替バスの相談を始めたのは、廃止の方針を決めてから1年以上経った「2023年5月になってから」であること。さらに、鉄道の維持については「財政的な負担」であるという認識を示し、道の仕事のずさんさと政策姿勢を浮き彫りにした。 

 

 こうした道の政策方針を受けてか、各地で行われた並行在来線の住民説明会では行政側は住民に対して問題ある対応を繰り返していたようだ。蘭越町の住民説明会に参加した町民の女性は「『鉄道を残すと住民の負担が増えることになる』と半ば住民に対する恫喝ともいえるような態度を示され、異論を唱える余地すら与えられなかった」と不満を漏らす。 

 

 福島県の只見線のケースなど、ローカル鉄道であってもその活用次第では、地域外から大勢の観光客を呼び込むことができ、地域に対してその赤字額を十分に上回る経済効果が発揮できるという事例が増え始めている。しかし、道の政策姿勢は目先のコストカットのみにしか意識がなく、地域に対する総合的な影響を考える能力が欠如しており、新幹線開業の経済効果を、並行在来線を活用することで地域に波及させようという発想は微塵もない。 

 

 

■原発災害時の避難輸送に鉄道は必要だ 

 

 さらに、小樽市の住民説明会に参加した50代会社員の男性は「在来線の沿線に近い泊原子力発電所の災害時の住民避難の手段として鉄道の維持が必要なのではないか」と会場で問題提起をしたが黙殺されたと証言する。実際に、北海道防災会議が発行する北海道地域防災計画(原子力防災計画編)には、放射能漏れなどの原子力災害時にJR北海道とJR貨物北海道支社が救助物資と避難者の輸送協力に関する指定公共機関とされており、「函館本線(長万部―小樽)輸送力」として同区間のダイヤと使用車両と定員を詳細に記した補足資料も添付されている。前出の男性は、「後志管内約8万人の住民をバスと自家用車だけで避難させるのは不可能ではないか」と指摘する。 

 

 道は、こうした住民からの指摘すらも黙殺し、地域交通の破壊を進め原子力災害時の地域住民の被曝リスクを高めるとともに、地域経済活性化の機会すら奪うつもりなのだろうか。 

 

櫛田 泉 :経済ジャーナリスト 

 

 

 
 

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