( 230401 ) 2024/11/05 16:58:52 0 00 photo by iStock
足許で中国経済は一段と厳しい状況に直面している。
その背景には、これまで中国経済の成長エンジンだった不動産投資が限界を迎えていることがある。中国の人々は、自分の家を持ちたいという欲求が強い。そのため、お金を貯めて不動産への投資を行う傾向が鮮明だ。1995年以降、中国の国内総貯蓄率は40%程度の水準を維持し、うち7割は不動産分野にむかった。
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最近まで、中国の地方政府はそうした中国経済の特性を上手く利用していた。地方政府は、不動産デベロッパーに土地の利用権を譲渡して歳入を確保。また、融資平台という地方政府系企業は、借り入れを増やして不動産開発やインフラ投資を実施してきた。
マンション建設は増え、経済は高い成長を維持することができた。セメントや鉄鋼の生産は増え雇用も増加した。住宅に対する実需に加え、投資目的の住宅取得も増え、住宅価格の上昇期待は高まった。不動産投資は高成長のエンジンの役割を果たしたと言えよう。
その結果、大規模な不動産バブルが発生した。
しかし、過度な成長期待からマンションの供給は過剰になった。2020年8月に政府が“3つのレッドライン”を導入し、不動産業者の借り入れを抑制し始めるとバブルは崩壊し始めた。2024年9月時点で、不動産市況の悪化に歯止めはかかっていない。それに伴い、中国経済の成長率は低下傾向にある。
本来なら、中国政府は需要の創出に取り組むべきだが、今のところそうした政策はあまり見られず、外需を取り込むための投資と生産を重視している。それに対して、中国の輸出強化を警戒する国や地域は増加傾向だ。9月の輸出の落ち込みなどは、その証左とも考えられる。
中国政府が、投資と生産から消費と所得の再分配促進へ経済政策の発想を転換できるか否か、中長期的な中国経済におおきな影響を与えることになるはずだ。
9月の輸出入データを見ると、輸入は前年比0.3%の増加だった。個人消費に勢いは感じられない。11月11日にピークを迎える“独身の日セール”に向け、ネット通販業界は過去最長のセールを行うようだ。個人消費は盛り上がりに欠け、デフレ圧力は一段と高まっている。
中国の不動産バブルの端緒は1995年までさかのぼる。当時、中央政府は“都市不動産管理法”を公布。それによって、地方政府は土地の使用権を不動産デベロッパーに売却できるようになった。中国の国民は、自宅を手に入れるという夢を実現しようとマンションなどを買い求めた。
1995年から2022年まで、中国の国内総貯蓄率は平均で44.6%と世界的に高かった。貯蓄は価格上昇期待の高い不動産分野に流入した。過去のピーク時、不動産関連需要はGDPの29%に達したとの推計もある。2010年から2019年まで、平均GDP成長率は7.7%に達した。不動産投資は空前の活況を呈し、バブルは膨張しマンションの供給は過剰になった。
中国政府はそのバブルの歯止めをかけるべく、2020年8月の融資規制を発表した。それによって、不動産デベロッパーの資金繰りは悪化し、バブルは崩壊し始めた。2021年半ば以降、新築住宅の価格下落は鮮明だ。
多くの国民が貯蓄の7割を投資した住宅の価格が下落する一方、住宅ローンの債務は残る。バブル崩壊で地方融資平台や不動産関連の不良債権は増え、雇用環境も悪化した。
支出・投資を減らし債務の返済を急ぐ家計は増え、バランスシート調整が経済全体で進行している。個人の消費は盛り上がらず、経済成長率も7~9月期は前年比4.6%に低下した。内需縮小の一端が足許の輸入の伸びの鈍化や、セール期間の延長に表れている。
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不動産バブル崩壊後、中国政府は産業補助金や土地の低価格供与などを行い、国有・国営企業などの投資・生産を増やそうとした。輸出競争力を高め、大手国有企業などの世界シェア拡大を目指したのだ。2022年4月以降、ドルに対して人民元の下落傾向が鮮明化し、輸出にもドライブがかかる。本年8月ごろまで輸出は景気を下支えの役割を果たした。
しかし、9月の輸出は、8月の前年同月比8.7%増から同2.4%増に鈍化。米欧などとの通商摩擦などで、外需の取り込みも難しくなりつつあるようだ。
9月、米国は中国製品に対する関税率を引き上げた。EVは100%、太陽光パネルは50%、鉄鋼、アルミニウム、EVのバッテリー、主要鉱物などに25%などの追加関税を発行した。2025年、米国は中国製半導体に50%の関税を課す。
欧州委員会もEVなどの分野で対中関税を引き上げ、新興国でも中国のダンピング輸出に対する批判は増加傾向だ。中国の企業は関税を回避するために、最終消費者の現地での事業展開を増やそうとしている。
一方、現地の政府は安値攻勢から自国企業を守るため、中国企業の進出を阻止しようとし始めた。
インドネシア政府は、中国のEC大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)傘下の“Temu(テム)”の事業開始を認めていない。米国ではフロリダ州などが、中国人や中国企業による土地売買を制限し始めた。経済安全保障の観点から、中国企業に対する規制は増加傾向だ。
今後、中国が安価な財の過剰生産能力を増やし、外需を取り込むことは難しくなるだろう。
つづく記事〈「売れ残りタワマン6000万戸」という中国の悪夢…大迷走の中国経済を待ち受ける「“失われた30年超”の暗黒期」〉では、崖っぷち状態にある中国経済の問題点をさらに解説する。
真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授)
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