( 230694 )  2024/11/06 15:57:52  
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都心の都市では座る場所や立ち止まる場所が少なく、カフェも混雑しているため、若者などが休憩する場所が限られている問題が指摘されている。

渋谷を例に挙げると、再開発や防犯意識の高まりなどにより、若者が街から排除されつつある状況があり、無料で休む場所が少なくなっている。

その結果、カフェ難民と呼ばれる人が増加し、若者たちはMIYASHITA PARKなどで休息している。

一方で、例えばディズニーランドのチケット値上がりにより若者の来場が減少していることなども「若者の排除」の一形態として議論されている。

(要約)

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昨今、都心の都市には座る場所や立ち止まる場所が少ない。その結果、カフェがとにかく混雑するようになっているが、カフェにも入れないことも増えている(筆者撮影) 

 

私は「東京に『座るにも金が要る街』が増えた本質理由 疲れてもカフェに入れず途方に暮れる人へ」という記事で、渋谷を中心に「座れない」街が増えていると問題提起した。街にいるとき、ちょっとひとやすみ……というのが難しいのだ。カフェはどこも混んでいるし、ベンチは座りにくい。 

 

【画像】カフェにも入れない渋谷、若者はこんな場所で過ごしている 

 

 その背景には、渋谷に集まってきたビジネスマンやインバウンド観光客向けの再開発が行われて都市が高級になったこと(ジェントリフィケーション)、さらに防犯意識の高まりから「排除アート」が増加したことなどがある。 

 

 この結果、これまで渋谷が抱えてきた「若者」が知らず知らずのうちに街から「排除」されている。今回は、そんな「若者の排除」の現状、そしてその後に待っているかもしれない都市の風景をレポートする。 

 

■カフェ難民の増加が表す「無料で休めない街」 

 

 「渋谷のカフェどこも激混み問題」に関するニュースをよく聞く。例えば、集英社オンラインは2024年10月16日に「なぜ都会では“カフェでひと休み”すらできないのか? 「カフェ難民」が続出している根本的原因」という記事を出した。 

 

 この記事はXを中心に大きな反響を呼び、Xのトレンドに「カフェ難民」が上がるとともに、Yahoo! ニュースのコメントも3000件を超えるまでになった。みんなこの問題に一言あるのだ。 

 

【画像11枚】「カフェすら座れない」「ディズニーも40代以上の利用者が増加」……東京で静かに進む、お金のない若者の排除の実態と、都市に生まれている驚きの光景 

 

 個人的に面白いと感じたのは、「そもそもカフェで休もうという思考が変。街で休める場所を作るべき」というコメントだ。 

 

 言われてみれば、なぜ私たちは「一休み」というと「カフェ」を思い浮かべるのだろう。それぐらい、「街中で休む」という選択肢が私たちの中にないのだ。 

 

 カフェだって入るのにある程度のお金はかかるわけだし、「無料で休む」となると、その選択肢はほとんどない。 

 

■渋谷の若者は「MIYASHITA PARK」へ 

 

 こうしたあおりを、もっとも受けるのは若年層だろう。 

 

 これまで、渋谷は「若者の街」と呼ばれてきた。現在では再開発でビジネスパーソンやインバウンド向けの街になりつつあるが、それでも週末になれば若い人の姿を多く見かける。筆者は20代半ばだが、筆者自身や友人も「とりあえず渋谷」という人はまだまだ多い。 

 

 

 そんな彼らが買い物などをしてちょっと疲れた……どこかで休もう、でも、カフェはどこも混んでいて座れない、といったときどこで休むのか。その答えの一つがMIYASHITA PARKである。 

 

 テレビ朝日のニュース番組「グッド! モーニング」で10月24日に放映された「渋谷に『ジベタリアン』再び 大規模開発で居場所なくなる 若者の街がビジネスの街へ」では、渋谷の若者たちが、MIYASHITA PARKに集まる姿が特集されている。 

 

 筆者はこの企画でインタビューを受けており、以前からMIYASHITA PARKに多くの若い人が集っていることに注目しつつ、フィールドワークを重ねてきた。 

 

 MIYASHITA PARKは「公園」の名の通り、無料で出入りができ、基本的にずっとそこにいることができる(ただ、23時までという制限はある)。ここに集う人々は、屋上公園に設置された芝生で寝っ転がって話したり、夜になるとそこかしこでTikTokの動画を撮っている。しかも興味深いことに、制服を着た高校生と思しき集団も多い。若者の中でも特に若い、10代から20代前半ぐらいの人々が多く集っているのだ。 

 

 「渋谷から若者がいなくなった」とよく語られるが、ここを見ると、まったくそう思えない。実際、「グッド! モーニング」の取材で、次のように20代の来園者が語っている。 

 

 「行く場所が特にないときとかに、とりあえず行ってみるみたいなのはあるかもしれない。無料休憩所みたいな」 

 

 座る場所が少なく、カフェも混んでいる……そんなときに、若者たちが向かうのがMIYASHITA PARKなのだ(ここでは触れないが、そもそもMIYASHITA PARK自体がホームレス排除の問題とあわせて『ジェントリフィケーション』の顕著な例として扱われてきたが、むしろ「若年層」に注目すると反対のことが起こっている)。 

 

■若者がたむろする空間が減った渋谷 

 

 単にいまの若者がMIYASHITA PARKに集まっている、だけなのかもしれない。 

 

 しかし、かつてはもっと渋谷の全域に若者たちがたむろしていた。 

 

 私の手元にPARCOのシンクタンク「ACROSS」が2000年の渋谷を調査した『SHIBUYA 2000 REPORT』がある。これは2000年の渋谷で、どこにどのような人々が集まっていたのかをまとめていて、センター街周辺では「宇多川交番前」や「西武百貨店渋谷店A館」「HMV前(現・フォーエバートゥエンティーワン)」など若者がたむろしやすい場所がいくつかあると書いてある。 

 

 

 特にHMVの階段前については「昼間は学生、夕方は待ち合わせ、深夜は酔っぱらい、と“ちょっとした場所”として機能している」とある。「ちょっと一休み」できる場所が2000年の渋谷の屋外にはあったのだ。 

 

 また、現在はリニューアルしたが、スクランブル交差点前にある渋谷TSUTAYAがあるQフロント横の階段でも「スターバックスの屋外座席? というほど、Qフロントの横の階段で飲食を取る若者が増えた」と書いてある。 

 

 24年前の記述だからかなり古いけれど、特にセンター街を中心に、路上のあちこちで若者がたむろをしていたのが渋谷の街なのだ。しかし現在、その辺りにたむろしている人はほとんどいない。それらはきゅっとMIYASHITA PARKに集まっている。そして、その集まる面積はずいぶんと小さくなった。若者がたむろできる場所が小さくなりつつある。 

 

 先ほども書いた通り、インバウンド観光客やオフィスワーカーの街になりつつある渋谷では当然のことかもしれない。 

 

 MIYASHITA PARKからわかるのは、どことなく街全体が若者に対する「排除」を強めているのではないか、ということだ。 

 

 もっとも、街や商業施設が若者を「排除しますよ」と公言しているわけではない。ただでさえ「多様性」の時代だ(ちなみに渋谷区は区全体として「多様性」を押し出している)。 

 

 ただ、確かに街のあらゆる施設は万人に開かれているが、それは「お金があれば」の話で、そうでなければ実質的に使えない。そして、特に若年層は経済的には苦しい状況にある。実質的に、若者世代が締め出しを食らっているといってもいい。 

 

 日本全体での税や社会保険などの国民負担率は増加の一途をたどっており、特に賃金が低い水準である10代後半~20代にとっては、経済的に非常に苦しい現状がある。ニッセイ基礎研究所の坂田紘野氏は、20代の実質賃金は上昇しているにもかかわらず、こうした国民負担率の増加によって、若年世代に経済不安があると指摘する。 

 

 また、第59回学生生活実態調査によれば、下宿生の仕送り額は1995年から2010年にかけて大幅に減少し、その後も低下傾向にある。それに、有名な話ではあるが、日本の子どもの相対的貧困率は7人に1人ともいわれており、OECD加盟国の中でも最悪の水準だといわれている。 

 

 

 本来ならばもっと細かくデータを参照すべきではあるものの、大まかに30代未満を若者だとするならば、さまざまなデータが若者の経済的な苦しさを物語っていることは間違いない。 

 

 街が「お金を使わないと楽しめない」方向になるにつれて、こうした若い人々の居場所が失われ、公言はされないけれども実質的には排除が起きている。これを「静かな排除」と呼びたい。 

 

■「若者のディズニー離れ」言説から見る「若者の静かな排除」 

 

 「論理の飛躍では?」と言われることを恐れながらも、この点で最近話題のトピックについても触れてみたい。それが「若者のディズニー離れ」だ。 

 

 大手テーマパークとして知られる東京ディズニーリゾートのチケット料が値上がりを繰り返し、日によっては1万円を越す日も現れた。その結果として、他世代と比較してお金のない若者にとって行きにくい場所となり、「若者のディズニー離れ」が生じている……という言説だ。 

 

 実際、データを見ていくと、オリエンタルランドが公開しているファクトブックを見ると、「大人(40歳以上)」の層が大きく増加しているのに対し、「中人」(12歳から17歳)「小人」(4歳から11歳)」は減少している。 

 

 なお、もうひとつの層である「大人(18~39歳)」は、データ範囲がなかなか広いため、「若者」の定義が曖昧なこともあって、このデータだけで「若者のディズニー離れ」と決めつけるのは拙速かもしれない。 

 

 だが、全体としては、以前より来場者の年齢層が上昇の傾向にあるのは、間違いないだろう。 

 

 東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、コロナ禍での大幅な来場客の減少を経て、“量”を入れて収益を取る方向から、それぞれのゲストの体験の“質”を深める方向に転換することを公式に発表している。来場者を限定し、それぞれのゲストの体験の“質”を深める方向に舵を切ったのだ。 

 

 裏返していえば、廉価で多くの客を入れる方向から、少数精鋭の客により多くの消費をしてもらうのだ。ディズニーランドも、多くの人に開かれた「夢の王国」から、ひとり数万円の出費が可能な人向けの「現実の王国」になっている。 

 

 もちろん、企業が利益を追求することを否定するわけではない。むしろどんどん儲けるべきだ。しかし、短期での利益回収をもとめるときに手っ取り早いのは、ある程度お金を持っている人をターゲットにしてたくさんの消費をさせること。必然的に消費額が少ない若年層向けの選択肢は少なくなっていく。 

 

 

 
 

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