( 230726 ) 2024/11/06 16:35:52 0 00 Photo:PIXTA
主に都市部の若者の間で、電動キックボードが流行しています。が、はっきり言って、利用者の順法精神は低く、横暴な運転が目立ちます。交通ルールや安全運転の観点では「変だなあ」と思うことばかり。筆者の概算ですが、飲酒運転の検挙割合も非常に高いのです。そうした中、電動キックボードのレンタル最大手であるLuupが、監査役に元警視総監を迎え入れました。果たしてこのことで、電動キックボード利用者の運転マナーは良くなるのでしょうか?(モータージャーナリスト/安全運転インストラクター 諸星陽一)
● 電動キックボード流行の裏で…
都市部を中心に電動キックボードや電動モペッドが流行しています。これらは特定小型原動機付自転車であり、自転車と原動機付自転車の間に位置するような存在ですが、現状、守るべき交通法規はどちらかというと自転車に近くなっています。特定小型原動機付自転車は、原動機付自転車なら違反になるようなことも許されてしまいます。
例えば、一方通行の逆走。多くの一方通行は「自転車を除く」という補助看板が付いています。特定小型原動機付自転車は一方通行の逆走はできないと思いきや、これがなんと自転車と同じように逆走ができてしまうのです。もちろん原動機付自転車は一方通行の逆走はできません。
一方通行の逆走には大きな危険が潜んでいます。一方通行と両側通行の道が交わる十字路では、多くの場合は一方通行側が一時停止となっています。一時停止せずに交差点に進入すると危ないので、一時停止となっているわけです。ところが一方通行を逆走してきても一時停止の標識はありません。建物や塀などの配置によって見える範囲に違いはあるかもしれませんが、基本的に同じ条件なのに逆走の場合は一時停止をせずに交差点に進入できます。
● 利用者の順法精神は低く、横暴な運転が目立つ
また、原動機付自転車は歩道を走れませんが、特定小型原動機付自転車の中で、「特例特定小型原動機付自転車」は最高速度表示灯を点滅させることで、時速6キロ以下で歩道を走れます。自転車が走れる歩道ならOKで、歩道は左右どちらでも走行可能です。
車道を走る場合、特定小型原動機付自転車は基本が「キープ・レフト」なので、左側に寄って走ります。複数の通行帯がある場合も右側は走れません。自転車専用通行帯が設けられている場合は自転車通行帯を走行できます。交差点では信号の有無に関わらず二段階右折が必須です。原付の二段階右折を禁止している交差点の場合でも、二段階右折しなくてはなりません。
さて、ここまで読んでくれたあなたに質問です。この法規を完全に理解して、特定小型原動機付自転車や特例特定小型原動機付自転車を運転できそうですか? かなり難しいと思います。そういう乗り物を、免許もなしで運転できるのが今の日本です。
自分の足でこがないと前に進まない自転車ではなく、手元のアクセルレバーを操作するだけでモーターによる加速が得られる乗り物に、運転免許がなくても乗れる。あるいは、免許がある人が乗って違反しても点数が減点されない。こんなおかしな事案がまかり通っていいのか?と筆者は思います。
特定小型原動機付自転車に乗る際は、ヘルメットの装着が推奨されており、努力義務となっています。PRのための動画や画像、イラストなどではヘルメット姿を見かけることはありますが、公道で特定小型原動機付自転車に乗っている人がヘルメットをしているのを見たことがありません。
一方で、右側を走っているとか、二段階右折をしないなど法規を守らない特定小型原動機付自転車は、しょっちゅう見かけます。はっきり言って、利用者の順法精神は低く、横暴な運転が目立っています。
● 飲酒運転の検挙数の割合は非常に高い!
内閣府によると、2023年7月から12月までに発生した特定小型原動機付自転車に関連する交通事故件数(特定小型原動機付自転車が第1または第2当事者となった事故件数)は85件で、死者数は0人、負傷者数は86人とのこと。あなたは、この事実をどう受け取りますか?
私は、「この期間はたまたま死亡者が出なかっただけ」だと思います。一方、同期間の取り締まり件数は7130件で、このうち酒気帯び運転が37件に上ります。クルマやバイクなど全ての車両における22年の飲酒運転(酒気帯び運転および酒酔い運転)検挙数は1万9820件です。日本の自動車、二輪車保有台数は8000万台以上ですから、保有台数に対する検挙数の割合は概算で0.025%となります。
対して、特定小型原動機付自転車の保有台数の公式データはありませんが、23年で約2万台と言われています。37件は6カ月間の数字ですから、特定小型原動機付自転車の保有台数を2万台として概算した検挙数の割合は0.37%となり、非常に高いことが分かります。
海外に目をやると、フランス・パリではレンタルの電動キックボードを廃止し、カナダのモントリオールでは完全に禁止しました。歩道と自転車道だけで利用できたシンガポールでも、歩道での使用が禁止となりました。海外では規制が厳しくなり、衰退気味の電動キックボードですが、日本ではなぜか勢いがあります。
● Luup監査役に「元警視総監」の不可解
そうした中、電動キックボードのレンタル最大手であるLuupが、10月16日に社外取締役と監査役を迎え経営体制を強化すると発表しました。監査役には、元警視総監の樋口建史氏の名前があります。
樋口氏はどのような経歴なのか? インターネットで調べた限りですが、東京大学法学部を卒業後1978年に警察庁に入庁。警視庁公安部や和歌山県と北海道の警察本部長、警視庁警務部長、警察庁生活安全局長などを経て2011年に警視総監に就任、13年に退官されています。
この経歴の限りでは、交通関係に直接は関わってこなかったようです。そうした人物がLuupの監査役になったからといって、Luupユーザーの順法意識が高まったり、運転マナーが良くなったりということは期待できない気がします。
とはいえ、Luupとしては何らかのメリットがあるから、樋口氏を監査役として迎えたのでしょう。警視総監経験者の再就職先は実に多彩ですが、パチンコ・スロット関連に再就職されている人もいらっしゃいます。
なんだか日本ってつくづく変だなあと思うのは、私だけでしょうか?
諸星陽一
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