( 232504 )  2024/11/11 16:45:56  
00

JR西日本はローカル線の経営が苦しく、17路線・30区間で232.6億円の赤字を出している。

営業係数を基にしたランキングで、最も費用対効果が悪い路線はJR芸備線の東城駅~備後落合駅間だった。

この地域では過疎化やクルマ社会化が進み、鉄道利用者が減少している。

自治体側とJR西日本の話し合いも難航し、国交省が仲介に入っている。

他の路線も赤字や動物対策費用の問題があり、具体的な費用負担の議論が求められている。

(要約)

( 232506 )  2024/11/11 16:45:56  
00

Photo:PIXTA 

 

 「鉄道は自動車に比べてきめ細かな移動ニーズにお応えできない」と嘆くのがJR西日本だ。利用者が少ないローカル線の経営情報開示で、最新発表分によると、17路線・30区間合計で232.6億円もの赤字を出している。「地域のお役に立てておらず、厳しいご利用状況」「大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていない」と、もはや“白旗”を上げている。本稿では、鉄道の費用対効果を示す「営業係数」を基にランキングを作成した。JR西日本の苦悩と合わせて解説する。(乗り物ライター 宮武和多哉) 

 

ランキングを見る→JR西日本「消滅危機」ローカル線ランキング【17路線30線区】 

 

● JR西日本の赤字ローカル30区間のうち もっとも費用対効果が悪かったのは? 

 

 10月29日にJR西日本が開示した資料をもとに、同社の主にローカル線における費用対効果を示す「営業係数」のランキングを作成した。 

 

 営業係数とは、収入/営業費用×100で算出。100円の営業収入を得るのにかかる費用を示す。100なら収支は均衡、100より低いと黒字、100よりも高いと赤字だ。 

 

 なお、JR西日本は「直近3年間の平均(今回の対象期間は2021~23年度)」で算出している。『JR東日本「消滅危機」ローカル線ランキング、合計赤字は757.7億円!1位は?』で紹介した、JR東日本(23年度の年間の数値)とは基準が違う点に留意する必要がある。 今回の開示では、1日の乗客数の平均(輸送密度)が2000人未満の17路線・30区間についてのみ情報公開されている。それでは早速、JR西日本管内の「営業係数ワーストランキング」を見てみよう。加えて、営業係数以外にも着目すべき数値と、同社が抱える悩みについても解説する。 

 

● 「中国地方の背骨」である路線が なぜ大赤字に陥っているのか? 

 

 営業係数ワースト1位は、JR芸備線の東城駅~備後落合駅間だった。営業係数は「11766」で、100円の運賃収入を得るために、1万1766円の費用をかけている状況だ。 

 

 JR芸備線は広島県と岡山県にまたがり159.1kmを走破する路線だ。ワースト5には芸備線・備後庄原駅~備中神代駅間の68.5kmが3区間に分かれて入り、備後落合駅で芸備線に接続する木次線が3位に、新見駅で乗り継げる姫新線も2位にランクインした。 

 

 この一帯は、山陽(瀬戸内海側)、山陰(日本海側)に挟まれ、「中国山地の背骨」とも呼ばれる細長いエリアである。鉄道経営が軒並み悪化している主な理由は、沿線の過疎化と、クルマ社会化による鉄道利用者の減少だ。人口が少ない山岳部では乗客は少なく、維持費用が極端にかかる状態にあり、抜本的な収支改善は難しい。 

 

 しかし、それ以外にも理由はある。芸備線は各駅からバイパス立地の商業施設や宅地が極端に離れており、駅からバスやタクシーでの移動を要する。かつ、学校や病院からも距離があり、輸送機関としての利便性が根本的に良くない。 

 

 さらに、中国山地の背骨エリアは、すでに高速道路(中国自動車道)が貫通しているため、広島市からの移動はクルマや高速バスの方が速い。都市間移動と生活移動、どちらにも利用されなくなっており、営業成績が極端に低迷している。 

 

 

● 話し合い拒否の自治体と JR西日本を国交省が仲介 

 

 JR西日本はすでにこの区間の鉄道廃止とバス転換を申し入れているものの、自治体側は「協議入り=廃止検討」という懸念を持ち、話し合いを長らく拒否してきた。現在は国土交通省が仲介に入り、協議への参加が義務付けられる「再構築協議会」によって、「地域交通の存続」を目指した話し合いが続けられている。 

 

 ただ、広島・岡山両県とも、「JR西日本は不動産業でも利益を上げている。なぜローカル線の維持を負担できないのか」といった一方的な主張を続けており、協議はしばらく平行線をたどりそうだ。 

 

 芸備線に限らず、ローカル線の沿線自治体は「とにかく鉄道を維持し、費用はJRか国が一方的に負担」という主張を続けている。しかし、営業係数のワーストランキングに来る路線は1日の利用者が100人以下にとどまるなど、鉄道として存続する意味を見出しづらい。 

 

 それでも存続するのであれば、地域で相応の負担(上下分離や第3セクター化など)をするか、そうでなければ収益、利便性ともに優れるバスなどに転換するといった議論を進めて然るべきだろう。 

 

● 幹線で必要だけど保守費用が膨大 動物対策も必要!JR西日本の苦悩 

 

 JR西日本が抱える17路線・30線区の赤字路線で、営業係数とは別に悩ましい問題がある。それは、幹線路線の赤字額(運輸収入から営業費用を引いた数値)だ。 

 

 ランキング28位の山陰線・出雲市駅~益田駅間の営業係数は「557」で、運輸収入は年間6.8億円ある。ところが、赤字額は対象30線区でトップの年間30.8億円を記録している。 

 

 この区間は松江市と出雲市から県西部、山口市方面を結ぶ特急「スーパーおき」のルートでもあり、18年の豪雨災害で山陽本線が運休となった際には、貨物輸送の代替ルートとして活用された。1日平均932人に利用されているものの、幹線鉄道として保守管理を行うための費用が年間37.6億円もかかっている。 

 

 JR西日本の赤字路線の傾向として、営業係数ワースト路線は、乗客が極端に少なく輸送機関としての役目を果たしていないと言えるだろう。一方で、赤字額の上位路線はそれなりに役目を果たしているのだが、それはJR西日本の赤字負担で成り立っており、今後はこういった幹線路線の巨額赤字対策も求められていくだろう。 

 

 27位の紀勢線・新宮~白浜間も、営業係数は「703」ではあるものの、赤字額は29.3億円もある。こちらも山陰本線と同様の事情で保守費用がかかるうえに、紀勢線全体で年間500件以上も発生する「動物との衝突事故」への対策費用もかかる。年間の営業費用は30線区中2位の34.2億円かかっており、運輸収入は4.9億円あるものの、巨額の赤字を避けられない状況だ。 

 

 

● ローカル線全体で232.6億円の赤字 具体的な費用負担の議論が急務 

 

 経営情報が開示された17路線・30線区は、運賃収入の合計が年間32.2億円の一方で、営業費用は264.8億円もかかっている。対象路線を維持するために、年間232.6億円もの営業損失を出している。 

 

 1位の芸備線・東城駅~備後落合駅間は、イベント開催による利用促進などが奏功し、前回公表時の営業係数「23687」、1日利用者13人に比べれば、利用実績は大幅に上昇した。しかし、それでも営業係数・乗客数ともにワーストであることに変わりはなく、公表の対象外となる1日利用者2000人には程遠い。 

 

 鉄道は固定費が高く、よほどの利用者がいない限り、利幅はきわめて薄い。芸備線に限らず赤字の鉄道を存続させるには、例えばJR只見線を存続させるために復旧費用と運行経費の負担をしっかり行った福島県のように、声高な主張に留まらない、具体的な費用負担が必要とされるだろう。 

 

 営業係数が高い=費用対効果が良くない路線の存続に向けた議論は、過疎化と少子高齢化が進む日本において、今後ますます必要となるに違いない。 

 

宮武和多哉 

 

 

 
 

IMAGE